福島原発事故に唯一参考になる原子力発電所事故とも言えるチェルノブイリ原発事故。日本でも原発被災地復興のための「除染」が合言葉のようになってきていますが、先日の南相馬市の除染活動を取り上げたABCニュースでは、チェルノブイリの専門家は、「同じような除染はチェルノブイリでも試みられたが、うまくいかなかった」と発言していました。
その専門家は、「除染」してもそれは放射性物質を単に別の場所に移動させるだけであるから、という理由を挙げていましたが、Wiredの記事、記事の元になった論文を見ると、セシウム137の「環境的半減期」は物理的な半減期30年をはるかに超え、最小から最大までの幅は62年から420年だ、と言うのです。
これが本当なら、「除染」は人間の尺度ではほとんど不可能だ、と言うことになります。
記事の元ネタは、アメリカのAGU(American Geophysical Union、アメリカ地球物理学連合)のポスター・セッションで発表された論文。後に実際にPeer Reviewの学術誌(Environmental Science and Technology、環境科学技術)に掲載されています。英文ですが、コピーはこちら。(PDFファイル) (H/T Viola)
Wired Japanの2009年12月18日付記事:
チェルノブイリ周辺の核汚染、予想より減少進まず
チェルノブイリ原発周辺の継続的な土壌調査の結果、約30年で半減するはずのセシウムの減少が進んでいないことが明らかになった。「環境的半減期」は180〜320年と見られるという。
Alexis Madrigal
1986年に史上最悪の事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所は、期せずして、放射能の影響を研究する格好の実験場となった。事故から20年以上たった現在でも、現場には驚きが隠されている。
周辺の放射性セシウムが、予想されたペースでは消失していないことが、12月14日(米国時間)、米国地球物理学会の秋季大会で発表されたのだ。
[放射性の]セシウム137の半減期(物質が元の量の半分まで崩壊するのにかかる期間)は約30年だが、チェルノブイリ付近の土壌に含まれるセシウムの量は、およそそんなペースでは減少していなかった。
ウクライナ政府が将来的には再びこの土地を利用したいと考えるのは無理もないことだが、研究チームは、セシウムの半量が周辺の環境から消失するまでの期間――チームはこれを「環境的半減期」と呼んでいる――を、180〜320年と算定している。
今回の調査結果は驚きをもって受け止められた。専門家らはこれまで、放射性同位体の環境的半減期は、物理的半減期よりも短くなると予想してきた。どんな土壌サンプルにあっても、自然の拡散作用によって放射性物質の減少が促進される、と考えられたためだ。ストロンチウムに関しては、この考え方は妥当だった。だがセシウムには逆のことが当てはまるようだ。
セシウムの物理的特性は変化しておらず、それゆえ研究チームは、環境に理由があると考えている。たとえば土壌採取地点には、チェルノブイリ原発の付近から新たにセシウムが供給されているのかもしれないし、あるいはセシウムは地中深くの土壌にまで拡散しているのかもしれない。今回の研究チームの1人である、サバンナ・リバー国立研究所のTim Jannick氏(原子核科学)は、さらなる調査で真相が明かされることを期待している。
チェルノブイリ原発事故の後、専門家らは、放射性降下物が飛散すると予測されるルートに沿って、複数の実験場を設置した。さまざまな深さから土壌サンプルを採取し、ストロンチウム、セシウム、プルトニウムの放射性同位体が地上にどれだけ拡散されるかを測定した。この計測は20年以上続けられており、最悪に近い原発事故が環境に対して持つ長期的な影響に関して、貴重なデータを提供してくれている。
米エネルギー省のハンフォード核施設[第二次大戦中から1970年代までプルトニウムを精製してきた]のように長期にわたって汚染されてきた地域に比べれば、チェルノブイリの影響は単純で理解しやすいので、そのデータが期待されている。
論文では、セシウム137の環境的半減期の最低値は90年、最高値が320年、となっていますが、その数字の内訳を良く見ると幅は更に広く、土壌の種類にもよって62年から420年。(論文12、13ページ参照。)
論文の要旨部分からの抜粋:
It was found that the 137Cs absolute T1/2 ecol values are 3–7 times higher than its radioactive decay half life value. Therefore, changes in the exposure dose resulting from the soil deposited 137Cs now depend only on its radioactive decay.
セシウム137の環境的半減期は放射性崩壊の半減期の3倍から7倍であることが分かった。従って、土壌中のセシウム137からの被曝線量の変化は、現在は放射性崩壊のみに拠るものである。
本文の記載から抜粋:
The experimental data on 137Cs redistribution in the soils of the experimental plots demonstrate a relatively low intensity of 137Cs vertical transfer. Twenty one years after the fallout, 90-97% of the total 137Cs inventory deposited in the upper 5-cm thick soil layer of the grassland formed on automorphous mineral soils. A more intense 137Cs transfer occurred in the grasslands formed on hydromorphous organogenic soils where, within the same period of time, the upper 5-cm thick soil layer contained 50-89% of 137Cs.
実験区画地面での土壌中のセシウム137の再分布に関する実験データは、セシウム137の垂直方向の移動が比較的緩慢であることを示している。放射能汚染から21年後の時点で、automorphous mineral土壌の上の草地では、セシウム137の総量の90パーセントから97パーセントまでが土壌上層5センチ内に堆積している。水性の生物由来(?hydromorphous organogenic)の土壌の上の草地ではセシウム137の移動はもっと活発で、同じ期間で土壌表層5センチ内のセシウムの量は50パーセントから89パーセントになっている。
日本の場合、セシウムその他の放射性物質が降下した畑や水田を耕してしまった場所も多いので、5センチより深層にもっと移動しているのでは、と思いますが。
表層から50センチぐらいまで、表土、Top soilを取ってしまえばいいのではないか、という方もいらっしゃるようです。しかし、これが学校の校庭ならいざ知らず、福島の大部分を占める農地、山林でそのようなことが可能かどうか。取った土をどうするのかはひとまず措き、表土部分を取ってしまった土地で耕作が出来るのか、とも思います。表土部分に含まれる自然有機物、植物の根と共生関係にある微生物などを取り除いてしまう、ということになるからです。
どうも最近とみに悲観的になっていらっしゃるような感のある京都大学の小出裕章さんは、「除染はできません」とはっきりおっしゃっていますが、さて。
物理的半減期は、元々、核の壊変自体が確率的なものだから、半減期もこの位までに半数の核種が崩壊すると言う確率的な話ですよね。原子核の性質が環境の影響で変わる事は無く、除染が放射性物質の移動に過ぎないというのもこの物理的半減期によるものですね。
ReplyDelete一方で、環境的・生物的(或いは体内)半減期は、特定の範囲に限られた環境(体内)から放射能の影響が半分に減る年数を表していますから、通常は雨や代謝などで排出される事を想定していると思われます。つまり放射性物質の移動です。ストロンチウムはこの例ですよね。
所がセシウムでは粘土の成分に吸着してしまうので洗い流されない。チェルの除染の報告には屋根・壁の塗料との化合が指摘されていましたね。この為、洗浄では除染できません。しかしながら、物理的半減期は変わらないはずです。
今回のチェルの報告は、その意味で、大変興味深い。
元々、物理的半減期とは、半分になるだけで、放射能がなくなりはしません。更に半分になるのに同じ年数が掛かる。だから、放射性物質が土壌成分に化学結合して安定して存在すると、完全に影響が無くなるには、相当の年数が掛かります。
しかし、影響は指数関数的に減っていくはずです。これが減らない。
他から供給されているとしか思えません。そして、これは充分ありうる事です。チェルの除染も、広大な森林は手付かずのはずだからです。
福島県は、東京・神奈川・千葉・埼玉を合わせた面積があり、その6割から7割が山間部です。
都市部を幾ら除染しても、山間部から供給されると言う事です。
子供達には余り猶予はありません。
子供達は逃がして頂きたい。
子供を失ってまで守るべきものなど、在り得ません。