「放射線感受性についてのブロスの説」
<概要>
ブロスと共同研究者達は“3州調査”と呼ばれる調査を基に、医療被曝による白血病のリスクについて解析を行った。研究内容は大きく分けて2テーマからなる。1つは出生以前の医療被曝と小児性白血病の関連についてであり、もう1つは成人非リンパ性白血病と医療被曝についての定量的な解析である。その結果、低線量の放射線によるがんのリスクが、一般的に行われている推定方法によって示されるものよりもはるかに大きく、通常の診断用 X線 被曝により DNAが損傷を受けている危険性が大きいと主張した。また放射線感受性は個人差があり、アレルギー体質や感染症歴のある子供達や心臓疾患のある成人は対照群にくらべて高感受性であると報告した。しかしBEIR・(1980) では、彼らの統計方法やモデルに信憑性が乏しいとして、ブロスの説を疑問視しており、特にリスクの推定値に関しては否定的立場を取っている。<本文>
ブロスらは、アメリカ3州における 1959-1962年の小児性白血病と胎内被曝について分析を行った結果、母親が妊娠中に受けた診断X線被曝(通常0.5-5rad)により、子供達が白血病にかかる相対的リスクが50%も増加すると報告した(Bross and Natarajan,1972)。さらに、1)被曝集団内には、アレルギー体質や感染症歴から判断されるような感受性の異なるグループが混在していること、2)高感受性のグループでは、特に「放射線による影響を受け」やすく、診断X線被曝により白血病のリスクが非常に高くなることを報告した( 図1 )。例えばこの調査では、小児性白血病患者の12%がアレルギー体質であり、高感受性のグループに属する。また上記のような高感受性のグループでは、母親が妊娠以前に受けた診断X線被曝によっても白血病のリスクが増加することが報告された(Natarajan and Bross,1973)。さらに、彼ら独自の数理モデルを用いて解析した結果、両親が診断X線照射を受けた場合、胎児の1%が「影響を受けて」おり、彼らの白血病の相対リスクは50倍、アレルギー等の相対リスクは5倍増加していると推定した (Bross and Natarajan,1977) 。
また成人男性についても同様の分析をおこなった結果、たとえ0.5radレベルの診断X線でも、照射を受けた人の5%が「影響を受けて」おり、彼らの白血病の相対リスクは10倍、心臓病の相対リスクは3倍に増加すると推定した(Bross et al.,1978,1979) 。
本文は更に続きますが、文中の「図1」がこれです。Y軸は対数スケールです。
クリックすると大きな画面でご覧になれますが、図の説明は、
「アレルギー体質(喘息や蕁麻疹)の子供および細菌性感染症(肺炎や百日咳、赤痢)やウィルス感染症(はしかや水疱瘡)にかかったことがある子供について白血病の相対リスクを健常児と比較した。特にアレルギー体質の子供は交換受精で、胎内被曝により白血病のリスクが顕著に増加した。」
となっています。この研究の「胎内被曝」というのは、上記の本文にもあるとおり、「母親が妊娠中に受けた診断X線被曝」です。
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