教授が福島県飯舘村で捕獲してきたジョロウグモの放射性セシウムの濃度を調べていたら、放射性銀(Ag-110m)が予想外に大量に検出され、その生体濃縮度は約1000倍、とのこと。
放射性セシウムにばかり注目が集まる中、他の核種がどのように生態系を移動し濃縮されるのか、などの研究がなされているのかいないのか、それさえ情報がありません。博士の発見は貴重だと思います。
教授のブログポストによると、ジョロウグモ捕獲場所の土壌での放射性セシウムと放射性銀の比率は2500:1、それが、ジョロウグモの体内では2.6:1になっています。
教授によると、おそらく世界で初の発見だろう、ということですが、それを論文にする前にご自身のブログでさっそく取り上げ、しかも拡散を快諾してくださいました。(さっそく英語に訳して英語ブログに載せました。)「放射能汚染の問題は、まず、世の中に発信することが重要だと考えて、論文よりも優先して、オリジナルな仕事でも、ブログに発表しているつもりです」との教授のコメントです。
以下、教授の10月30日のブログポスト、全掲:
飯舘村で雨の降る中での植物の採取は困難であったので、竹藪や杉林の中で、網を張っているジョロウグモ(Nephila clavata)を捕獲してきました。
クモは直接土を食べるかどうかわからないが、網にかかった蝶やアブやカナブンなどを食べて林の中の食物連鎖の上位に位し、放射性セシウムを濃縮しているだろうと考えたからです。
図1) 捕獲したジョロウグモを1匹ずつ測定用のポリビンに入れている様子。
ジョロウグモを4匹一緒にしてGe半導体で、放射性セシウム (Cs-137とCs-134) を分析しました(図1)。すると、Cs-137のエネルギーピークである661.7keVの隣の657.8keVの位置にほぼ等量の未知のエネルギーピークを見いだしました(図2)。
図2) Cs-137のとなりにAg-110mのピークを検出。
これを同定するとAg-110m(銀の核異性体:半減期249.5日)の放出する4つのガンマ線の1つのピークであることがわかりました。他の3つのピークも検出されました(図3)。
図3) 4つのAg-110mのガンマ線のピークを同定した。
したがって、ジョロウグモが東電福島原発由来の放射性降下物である超微量の放射性銀(Ag-110m)を濃縮していることがわかりました。クモの放射能の濃度は
Cs-134(2.9Bq/4匹 )+Cs-137(3.9Bq/4匹) = 3656Bq /kg生体重
に対して
Ag-110m (2.6Bq/4匹)=1397Bq /kg生体重
でした。
この林の汚染土壌のCs(137+134)とAg-110mの存在比は、約2500:1 でしたので、上記の数値を用いて計算すると、ジョロウグモは約1000倍にまで土壌の放射性銀を生体濃縮していたことになります。
昆虫が銀を高濃度濃縮するという知見はこれが世界で最初の発見です。また、すでに林内で放射能の生物濃縮が始まっているということが明らかです。
この研究の詳細は11月26日(土)日本土壌肥料学会関東支部会(松戸の千葉大園芸学部)で発表します。乞御来聴。
(森敏)
付記:計測に際しては、東京大学大学院農学生命科学研究科・田野井慶太朗助教のお世話になりました。
追記1:ここで用いた生体濃縮の定義は、セシウムに対する比率で計算したものです。詳しくは論じませんが、放射性セシウムの生体濃縮の定義によっては、ジョロウグモの銀の濃縮度は、これよりもけた違いに高くなる可能性があります。
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