Friday, May 11, 2012

【記録】放射線影響研究所論文 『原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14 報、1950-2003、がんおよび非がん疾患の概要』-被曝リスクに閾(しきい)値はなかった

米国放射線影響学会の公式月刊学術誌 Radiation Research誌に今年の3月に掲載された放射線影響研究所の研究員による英語論文の日本語要旨が、放射線影響研究所のサイトに出ています。

今までも、閾(しきい)値はない、という仮定で放射線防護は国際的になされてきましたが、特に原子力推進の立場の研究者、専門家は現在でも、「安全に偏りすぎている、実際は閾値はあり、それ以下では有意な差は認められない」という立場を崩していません。研究者、専門家によって、その閾値は20ミリシーベルトであったり、山下教授のように100ミリシーベルトであったり、200ミリシーベルトであったり、高いところではオクスフォードのウェード・アリソン教授の年間1シーベルトでも安全、というのもあります。

しかし、今回の報告論文で、よりによって悪名高きABCCの後身である放射線影響研究所が、「総固形がん死亡の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して全線量域で直線の線量反応関係を示し、閾値は認められず、リスクが有意となる最低線量域は0-0.20 Gy であった」、と発表、つまり、閾値なし、ということが仮定ではなく疫学上証明されたことになります。リスクが有意(statistically significant、統計上有意ということ)となる最低線量域はゼロから0.20グレイ、シーベルトにすると、ゼロから200ミリシーベルト、ということになります。

放射線影響研究所論文日本語要旨

Radiation Research* 掲載論文
「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14 報、1950-2003、がんおよび非がん疾患の概要」

【今回の調査で明らかになったこと】

1950 年に追跡を開始した寿命調査(LSS)集団を2003 年まで追跡して、死亡および死因に対する原爆放射線の影響を、DS02 線量体系を用いて明らかにした。総固形がん死亡の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して全線量域で直線の線量反応関係を示し、閾値は認められず、リスクが有意となる最低線量域は0-0.20 Gy であった。30 歳で1 Gy被曝して70 歳になった時の総固形がん死亡リスクは、被曝していない場合に比べて42%増加し、また、被爆時年齢が10 歳若くなると29%増加した。がんの部位別には胃、肺、肝、結腸、乳房、胆嚢、食道、膀胱、卵巣で有意なリスクの増加が見られたが、直腸、膵、子宮、前立腺、腎(実質)では有意なリスク増加は見られなかった。がん以外の疾患では、循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患でのリスクが増加したが、放射線との因果関係については更なる検討を要する

【解説】

1) 本報告は、2003 年のLSS 第13 報より追跡期間が6 年間延長された。DS02 に基づく個人線量を使用して死因別の放射線リスクを総括的に解析した初めての報告である。解析対象としたのは、寿命調査集団約12 万人のうち直接被爆者で個人線量の推定されている86,611 人である。追跡期間中に50,620 人(58%)が死亡し、そのうち総固形がん死亡は10,929 人であった。

2) 30 歳被曝70 歳時の過剰相対リスクは0.42/Gy(95%信頼区間: 0.32, 0.53)、過剰絶対リスクは1 万人年当たり26.4 人/Gy であった。
*過剰相対リスクとは、相対リスク(被曝していない場合に比べて、被曝している場合のリスクが何倍になっているかを表す)から1 を差し引いた数値に等しく、被曝による相対的なリスクの増加分を表す。
*過剰絶対リスクとは、ここでは、被曝した場合の死亡率から被曝していない場合の死亡率を差し引いた数値で、被曝による絶対的なリスクの増加分を表す。

3) 放射線被曝に関連して増加したと思われるがんは、2 Gy 以上の被曝では総固形がん死亡の約半数以上、0.5-1 Gy では約1/4、0.1-0.2 Gy では約1/20 と推定された。

4) 過剰相対リスクに関する線量反応関係は全線量域では直線であったが、2 Gy 未満に限ると凹型の曲線が最もよく適合した。これは、0.5 Gy 付近のリスク推定値が直線モデルより低いためであった。

放射線影響研究所は、広島・長崎の原爆被爆者を60 年以上にわたり調査してきた。その研究成果は、国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)の放射線リスク評価や国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護基準に関する勧告の主要な科学的根拠とされている。

Radiation Research 誌は、米国放射線影響学会の公式月刊学術誌であり、物理学、化学、生物学、および医学の領域における放射線影響および関連する課題の原著および総説を掲載している。(2010 年のインパクト・ファクター: 2.578 )


なお、この件については中部大学の武田教授がブログポストを書かれています。

私のブログにも時折コメントをくださるめぐさんは厚労省に電話をしたそうで、その顛末をブログポストに書かれています。電話部分の追記を転載:

(追記5月1日20時)厚労省に電話した。「放影研は厚労省と外務省所管だが、今回の報告で低線量被ばくでも被ばく量に応じた発がんリスクなどの健康被害が生じたと疫学的に証明された、と理解している。これまで国はICRP準拠で「疫学的証明はないものの放射線防護上はあるものと仮定して防護基準を定めている」と理解していた。今回の報告はこれまでの国の立場を覆すものだが、厚労省として報道発表の予定はあるか。事実関係の理解としては今申し上げた内容で正しいか」聞いた。
担当官は「事実の認識としてそれでよい。放影研が発表しているので厚労省としては発表の予定はない」との回答であった。


さすが日本政府というか。

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