政府および政府の専門家の方々がつい最近になるまでメディアにリークしていたお考えのようなものは、「安定ヨウ素剤の副作用の方が怖い」、「安定ヨウ素剤を配るような放射能レベルではなかった」、という言い訳じみたものでしたが、実際にそれが単なる言い訳であったことが8月の末頃からだんだん明らかになってきました。朝日新聞8月27日付け記事では、「3月17、18日に福島県で実施された住民の外部被曝検査の数値から内部被曝による甲状腺への影響を計算すると、少なくとも4割が安定ヨウ素剤を飲む基準を超えていた恐れがあるという」、とあります。
なぜ福島第1原発周辺自治体に用意してあったはずの安定ヨウ素剤が適切な時期に適切に使用されなかったのか、ウォールストリートジャーナル日本語版の9月29日の記事から抜粋してご紹介します。(強調は私です。)
まず、安定ヨウ素剤は各自治体に十分なだけあった、と記者は言います。
『世界中の原発周辺地域の大半と同様に、福島第1原発周辺地域にも十分な安定ヨウ素剤の備えがあった。これは比較的安全な薬剤で、甲状腺癌の予防に効果がある。甲状腺癌は大きな原発事故の場合、最も一般的かつ深刻な影響と考えられている。
『政府の防災マニュアルでは、原発の周辺地域はこうした薬剤の服用に関し、政府の指示を待つことが規定されている。原発の安全性に関する国内の一部の専門家らは錠剤の即座の服用を勧めたが、政府は3月11日の事故から5日目まで錠剤の配布、服用を命じなかったことが今回の関係文書で明らかになった。』
この重大な不手際に関係者の言い訳は、震災後の混乱。
『複数の政府および地方自治体の当局者らと助言者らは、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、東日本大震災の様々な面の責任を負う異なる政府機関の間でコミュニケーションの行き違いが続いたことを指摘した。』
... 『指示の遅延については、事故直後の政府の突然の動向の変化にも言及されている。その時、地方自治体の当局者らは個人が安定ヨウ素剤や汚染除去による安全措置を受けられる放射線の基準を大幅に引き上げた。
『福島第1原発から30キロ余りの距離にある川内村の村役場の井出寿一総務課長は、「そんなものを飲まなければいけないなんて、殆んど誰も知らなかった。16日に役場に届いたときには、もうみんな避難した後だった」と語った。』
ちょっと待った。「地方自治体の当局者らは個人が安定ヨウ素剤や汚染除去による安全措置を受けられる放射線の基準を大幅に引き上げた」?十分に安定ヨウ素剤があったのならなぜ放射線の基準を大幅に引き上げたのでしょう?
ここにどうも嘘がある。記事の続きを読むと、原子力安全委員会は1号機の爆発の翌日の3月13日に手書きのファックスで保安院宛に安定ヨウ素剤の配布と摂取を勧めているのです。保安院はそのファックスがどうなったのか分からない、と言い、安全委員会はファックスが保安院でどう処理されたのかは知らない、と言い、「住民は安定ヨウ素剤を飲んだものと思っていた」と言明。
『国際医療福祉大学クリニック院長で原子力安全委員会の緊急技術助言組織のメンバーである鈴木元氏は、「我々のような専門家にとって、一番防御しなくてはいけないのは、小児甲状腺ガンのリスクだということは明らかだった」と述べた。さらに、「肝心な住民は安定ヨウ素剤を当然飲んでいるはずだと思っていた」と続けた。
『鈴木氏は、8月にやっと分かった時には、まさか、という感じだったと話す。
『原子力安全委員会は最近になってウェブサイトで、3月13日付の手書きのメモを、錠剤の配布と摂取を勧めた証拠として掲載した。
『一方、原子力安全・保安院はこうしたメモは送られてこなかったと主張している。
『原子力安全・保安院の松岡建志・原子力防災課長は、この行方が分からなくなったメモについて、同院は引き続き調査していると言及。同課長は、「ERC(緊急時対応センター)で混乱があり、それが理由で伝わらないことがあったなら、それは申し訳なく思う」とし、「当時は、まずは避難だという考え方でみんなで動いていた」と述べた。 』
...『原子力安全委員会は最近、ウェブサイトに、検査で特定水準の被曝が確認される場合には、40歳以下の福島県の住民に安定ヨウ素剤が与えられるべきだと主張する3月13日付の文書を掲載した。同委員会はこの文書は、事故の最悪の日となったと考えられている同月15日以前の13日午前10時46分に、原子力安全・保安院に送付されたと主張している。3月15日には原子炉2基の爆発で福島県内の多くの町に放射性プルーム(飛散した微細な放射性物質が大気に乗って煙のように流れていく現象)が広がった。
『震災後の政府当局者間のやり取りの大半と同様、この文書は東京の災害本部に電子メールではなく、ファクスで送付された。原子力安全委員会の都筑英明・管理環境課長によると、災害本部内の原子力安全委員会の担当者がこのコピーを原子力安全・保安院の担当者に手渡した。都筑課長はインタビューで、「その後どのような判断で、どのようになったのかは、我々の知るところではない」と語った。
『原子力安全・保安院の松岡課長は、同院は同院の職員がこのメモを受け取ったかどうか確認できないとし、これに関して調査が続いていると語った。
一方、福島県は管首相自ら率いる災害対策本部からの指示を待ち続けていた、と弁明。それでいて、福島県が行ったのは、放射能汚染の基準を引き上げること。
『状況に詳しい関係者らは、安定ヨウ素剤の配布基準の突然の変更がこの遅延につながった一因であった可能性があると指摘している。今回の災害前に作成された公式の防災マニュアルによると、1万3000cpm(cpm=1分当たりの放射線計測回数:カウント・パー・ミニット)の水準が示された場合には、シャワーや衣服の着替えなどの除染および安定ヨウ素剤の配布が必要とされていた。
『3月14日には福島県はこの基準値を10万cpmに引き上げた。レベルが引き上げられると、1万3000~10万cpmを示した住民には衣服の表面を拭うためにウェットティッシュが配られた。錠剤は与えられなかった。
『3月に1万3000cpm以上を記録した住民は約1000人となり、10万cpmを上回ったのは102人だった。
『先の原子力安全委員会の緊急技術助言組織のメンバー、鈴木氏は、「スクリーニングレベルを上げたいと言ってきたときに、かなりの汚染のレベルだということをすぐに感じた」と言及。「ロジスティクスが間に合わないほど対象者が沢山いるということを暗に言っていた。水も着替えも、人員も間に合わないという状況だった」と語った。
『長崎大学の教授で事故後、福島県でアドバイザーを務めた松田尚樹氏は、3月14日の地域住民のスクリーニングの日以降に行われた浜通りから帰着したスクリーニング部隊との会議を思い出す。同部隊はサーベイメーターの針が振り切れた、と報告した。松田教授は大学のウェブサイトに掲載したエッセイで、「それまでの1万3000cpmではまったく立ち行かないことを示していた」と記した。「避難所の住民の不安を煽らないために、アラーム音は消すこと、タイベックスーツやマスクもなるべく着用しないことなどが申し合わされた」という。
必要な数の安定ヨウ素剤はあった、と記事の前のほうにありました。ではなぜ基準値を引き上げたのか。これを読解すると、「待ち続けていたけれども指示が来ない、指示がないままにヨウ素剤配布などに県が独自で動くと後で問題になる、そこで汚染基準を引き上げれば動かなくて済むし、指示を待っていたのに来なかった、と国のせいに出来、自分たちは安泰」、という可能性。
もう一つは、「必要な数の安定ヨウ素剤があった、というのは嘘で、実はぜんぜん足りず(あるいはまったく無く)、とても全員に配れないので基準を1桁上げてヨウ素剤が無い、足りないのがばれないようにした」、という可能性。1万3000cpmを超えた1000人にも配るヨウ素剤が無かったから、基準を一挙に10万cpmに引き上げた、と。
そして、福島県の行為を追認する形で原子力安全委員会が折れ、結局安定ヨウ素剤は、実際にそこにあったにせよ無かったにせよ、肝心なときにほとんど誰も服用出来なかったのです。
『原子力安全委員会はもともとスクリーニング基準の引き上げには慎重だった。同委員会は3月14日、福島県に対し1万3000cpmに据え置くよう助言する声明を発表した。
『福島県が新基準を数日間使用した後、原子力安全委員会は3月20日に態度を緩め、同委員会は声明で、10万cpmは、緊急事態の初期における国際原子力機関(IAEA)のスクリーニング基準に照らして容認できるとした。
『政府による3月16日の安定ヨウ素剤の配布に先立ち、双葉町と富岡町を除く近隣の町々は住民に同錠剤の服用を指示しなかった。その後福島県内で最も汚染がひどいと確認された浪江町もその1つだった。
『結局、政府による3月16日の指示後、福島県は福島原発から50キロ範囲内に位置する市町村全体の90万人の住民に行きわたる安定ヨウ素剤の錠剤と粉末剤を配布した。その大半は未使用のままだ。
こうして経緯を見ると、やはり肝心なときに安定ヨウ素剤は存在しなかったのではないかと個人的には思います。日本中からかき集めて、あるいはこっそり外国から融通してもらって安定ヨウ素剤が何とか数だけそろったのが3月16日以降で、福島原発から大量の放射能が出てしまった後だった、というお粗末な話を隠すために、「安定ヨウ素剤の副作用」だの「必要なレベルではなかった」、と、そのレベルすらはっきり把握してもいなかった専門家の方々をテレビ、新聞、マスコミに出して大丈夫宣言を出し、深刻な事態だと報道する外国のメディアを「風評を煽る」と攻撃したのは日本政府。
子供が外で遊んでも全く大丈夫、と言ったらしい、某「朝日がん大賞」受賞者の方も、政府の大失態を言いつくろうために3月、4月は福島各地で大活躍でしたね。
3月11日の事故直後に思ったとおりの展開になっているのが非常に残念です。あとは政府・東電の「冷温停止」宣言、そして「除染」とやらの清掃をやって放射能は除去されたことにされ、事故の収束宣言はまあ年内でしょう。放射性がれき、汚泥、一般ごみは燃やし続けられ、各国政府も見て見ないふりをする。そして誰も何も言わなくなる。原発事故?何のこと?
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この記事の英語版には日本語記事に出ていない情報があります。私の次のポストご参照。
これはひどい!!!!
ReplyDelete福島の皆さんはこれを読まなくては!
そうだ、この資料ご存知ですか。もちろんダマシタ俊一監修です。
http://www.pref.fukushima.jp/j/Q&A.pdf
「健康への影響はなく、この数値で安定ヨウ素剤を今すぐ服用する必要はありません」と書いてあります。ついでに、「甲状腺が影響を受けるということは全くありません。また現状のレベルでは全く心配ありません。」ともあります。どちらも二重下線つきで。
初めまして下記のブログをやっております、そふたん(Twitterアカウント「softan01」)と申します。
ReplyDeletehttp://blog.livedoor.jp/hardthink/
アメリカからの安定ヨウ素剤の支給を厚労省が薬事法の理由でということで断ったと言う情報をたかじんの番組で知りました。
また3月24日に公開されたSPEEDIのデータが安定ヨウ素剤が最も効果のある50mSv/yでは無く100mSv/yearのマップであったそうです。
安定ヨウ素剤に関わる欺瞞はまだまだ根が深いと感じております。
今後とも情報交換ができれば幸いです。宜しくお願い致します。
事故の矮小化。国内外へのそれ以外なにものでもない。
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