記事の中で、日本政府の数字が低い理由の一つとして、政府の推定値は国内に降下した放射性物質のみを計算に入れた値であることを挙げています。
セシウム137の放出量(推定値)は、
日本政府: 1.5×10^16ベクレル
新研究: 3.5×10^16ベクレル
と、2倍以上になっています。福島原発由来のセシウムは134と137がほぼ同等存在するため、セシウム134の値もおそらく2倍、そのほかの核種も2倍出ているのではないかと、私の素人考え。
(となると、原発事故で大気中に放出された放射性物質はヨウ素131換算で77万テラベクレル、レベル7、というこれまでの日本政府の評価ですが、この新しい研究によってレベル7には変わりありませんが放出量がぐっとチェルノブイリレベルに近づきますね。汚染水、汚染水処理後の高放射能汚泥となって福島第1原発に毎日溜まり続けている放射性物質は、6月の汚染水処理を始める前の時点で72万テラベクレル、それもヨウ素131換算しないで単にヨウ素とセシウムを合算した状態の数字です。それも含めると...)
キセノン133(希ガス)の放出量も日本政府発表の1.5倍で、チェルノブイリ事故のレベルを超えます。更に重要なのは、キセノン133の漏洩が津波が来る以前に既に始まっている、としていることでしょう。地震で原子炉が既に損傷されていた証拠となるからです。
また、4号機の使用済み燃料プールから放出されたと見られる放射性セシウムの量が予想以上に大きかったことなども研究者の方々は挙げています。4号機の燃料プールは東電のビデオで見る限り損傷がほとんどなさそうで、また4号機上階のオペレーションフロアは他の原子炉建屋に比べて線量も低く、実際に大量の放射性物質が使用済み燃料プールから放出されたとするとこれは謎です。
Atmospheric Chemistry and Physicsにオープン・ピアレビューとして掲載されている研究論文の原文はこちら。
以下、ネイチャー誌記事全訳(私訳)。(H/T東京茶とら猫)
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オンライン版Nature(Nature 478, 435-436 (2011))
2011年10月25日
新研究が放射性物質の放出量を上方修正
福島原発に関する世界のデータが日本政府の推定値に疑問を投げかける
記事:ジェフ・ブラムフィール
3月に起きた福島第一原子力発電所の大事故からは、日本政府の発表よりはるかに多量の放射性物質が放出されていた。そう結論付けるのは、世界中のデータをつなぎ合わせて破壊された原発からの放出物がどれくらいの範囲にどのように広がったのかを推定した、ある研究[注1:Stohl, A. et al.
Atmos. Chem. Phys. Discuss. 11, 28319-28394 (2011)]である。
この研究はまた、日本政府の主張とは裏腹に、セシウム137が放出されるうえで使用済み核燃料プールが大きな役割を果たしたことを示唆している。これは早急に手を打てば防ぐことのできた問題だ。セシウム137は半減期が長く、環境を汚染する。この研究論文は『Atmospheric Chemistry and Physics(大気化学物理学)』誌のオンライン版に掲載され、現在オープン・ピアレビュー(論文に対して誰もが公開でレビューをつけられるシステム)を受けている。
この研究を率いたのは、ノルウェーのシェラーにあるノルウェー大気研究所の大気科学者、アンドレアス・ストール(Andreas Stohl)。ストールによれば、この分析は福島第一原発から放出された放射性物質の量をこれまでで最も総合的に把握しようとしたものである。ストックホルムのスウェーデン防衛研究所で大気モデルを作成しているラーシュエリク・ドゥイェールは、ストールの研究にはかかわっていないものの、「この研究はきわめて価値ある貢献だ」と語った。
放出過程を再現するには、日本国内および世界中に何十とある放射線モニタリングステーションのデータが必要だ。モニタリングステーションの多くは、ウィーンの包括的核実験禁止条約機関が核実験を監視するために構築した世界的ネットワークの一部として設置されている。今回の研究では、それ以外にカナダ、日本、ヨーロッパにある独立ステーションのデータも加え、それを欧米が保管している膨大な量の世界の気象データと組み合わせた。
こうしてできたモデルだが、完璧とは程遠いので注意してほしいとストールは言う。事故直後は計測データが少なかったうえ、一部のモニタリングポストは放射能に汚染されすぎたためにデータの信頼性に欠ける。それ以上に問題なのは、原子炉内で具体的に何が起きたのかという、放出物を把握するうえで不可欠な情報がいまだ明らかになっておらず、今後も謎のままで終わる可能性があることだ。「チェルノブイリ原発事故のときの推定値も同じで、25年たった今でも不明な部分が多々ある」とストールは語る。
それでも、ストールたちの研究からは福島の事故の広範囲な影響が概観できる。「彼らは本当に世界規模の視点から事故を眺め、手に入るあらゆるデータを利用した」とドゥイェールは語る。
疑問を投げかける数字
すでに日本の研究者は、3月11日の地震から原発事故に至るまでの一連の流れを詳細な時刻付きで再現している。福島第一原発の6基の原子炉が地震で激しく揺れてから数時間後、津波が到着し、緊急時に原子炉を冷やすうえでなくてはならない補助ディーゼル発電機を破壊した。事故当時に運転されていた3基の原子炉は、数日のうちに過熱して水素ガスを発生させ、それが大爆発につながった。4
号機では数ヶ月前に原子炉から燃料が取り出されていて、地震時には使用済み燃料プールに保管されていたが、3月14日にプールが過熱し、その後数日にわたって建屋内に火災を起こしたたと見られる。
しかし、原発から放出された放射性物質の量を明らかにするのは、出来事の一連の流れを再現するよりはるかに難しいことがわかった。6月に発表された日本政府の最新の報告書によると、原発からは1.5×10^16ベクレルのセシウム137が放出したとされている。セシウム137は半減期が30年の同位体で、原発事故による長期的な汚染はほとんどこのセシウム137が原因となる[注2:www.kantei.go.
jp/foreign/kan/topics/201106/iaeahoukokushoe.html]。キセノン133については、それよりはるかに大量の1.1×10^19ベクレルが放出されたというのが政府の公式な推定値だ。
今回の新しい研究はこれらの数字に疑問を投げかける。研究チームが独自のモデルで推定したところ、事故によって放出されたキセノン133は約1.7×10^19ベクレルとなり、チェルノブイリ事故で放出された合計推定値1.4×10^19を上回る。福島で膨大な量のキセノンが放出されたのは、3基の原子炉が爆発したためだとドゥイェールは説明する。
キセノン133は人体や環境に吸収されないので、健康への重大な脅威とはならない。しかし、セシウム137の降下物は環境に数十年間留まり続けるので非常に厄介である。ストールが発表した新しいモデルは、福島から放出されたセシウム137が3.5×10^16ベクレルであることを示している。これは日本政府の公式推定値のほぼ2倍、チェルノブイリの場合の2分の1である。住民への健康リスクを正確に見極めるには現在進行中の地表面測定の結果を待つしかないが、放出量が多ければ多いほど明らかに心配だとドゥイェールは指摘する。
なぜ今回の研究と日本政府の発表が大きく食い違っているのか。理由のひとつは、使用したデータの量が今回のほうが多いからだとストールは考えている。日本政府の推定値はおもに日本国内のモニタリングポストからのデータをもとにしたものだ[注3:Chino, M. et al. J. Nucl. Sci. Technol. 48, 1129-1134(2011)]。したがって、太平洋を越えて最終的には北米やヨーロッパに達した大量の放射性物質はいっさい記録されていない。「太平洋上に流れ出た放射性物質も考慮に入れなければ、事故の規模と特徴を正確に把握することはできない」と神戸大学の放射線物理学者で福島県内の土壌の放射能汚染を測定している山内知也は語る。
日本の公式推定値がこのようになったことにストールは理解を示す。「彼らは短期間で何かを出したかったのだ」。やはり福島原発からの放射性物質の飛散モデルを作成している群馬大学の火山学者、早川由紀夫はこう指摘する。「両者の隔たりは大きいように見えるが、どちらにも不確定要素があることを思えば、2つの推定値は実際はかなり近いと言っていい」。
新しい分析は、4号機のプールに保管されていた使用済み燃料から大量のセシウム137が放出されたとしている。日本の原子力当局は、燃料プールからは放射能がほとんど漏れていないと主張してきた。しかしストールのモデルを見ると、燃料プールへの放水によってセシウム137の放出量が目に見えて下がったことがわかる(【図2】参照)。だとすれば、燃料プールへの放水をもっと早い段階で行なっていれば放射性降下物の量をかなり減らせた可能性がある。
日本の原子力当局は、4号機の使用済み燃料は重大な汚染源ではなかったと今も主張している。プール自体に大きな損傷を受けた様子がないからだ。茨城県にある日本原子力研究開発機構の科学者、茅野政道はこう語る。「4号機からの放出はたいした量ではないと思う」。茅野は政府の公式推定値を定める作業にかかわった。しかしドゥイェールは、燃料プールの関与を示唆する今回の新分析には「説得力があるように思える」と言う。
新分析はまた、津波が来る前の地震の直後にキセノン133の放出が起きていたことを明確に示している。つまり、津波で破壊されなくても、地震の揺れだけで原発が損傷するには十分だったことがうかがえる。
日本政府は、揺れの強さが福島第一原発の耐震設計を上回るものだったことをすでに報告書で認めている。反原発の活動家が以前から懸念していたのは、日本政府が原発を認可する際に地質災害に関する審査を十分に行なってこなかった点だ(Nature 448, 392-393; 2007参照)。このキセノンの一件は、原子炉の安全審査のあり方を大幅に見直すきっかけになるかもしれない、と山内は指摘する。
ストールのモデルからもうひとつわかるのは、この事故によって東京都民がもっと壊滅的な被害を受ける可能性が十分にあったということだ。事故後数日は風が海に向かって吹いていたが、3月14日の午後には風向きが変わって陸に向かって吹き始めたために、セシウム137の放射能の雲が戻ってきて日本の広い範囲にかかった(【図3】参照)。雨が降った地域のうち、本州の中央を走る山脈に沿った地域と原発の北西部では、のちに土壌から高レベルの放射能が検出されている。幸い、首都東京とその他の人口密集地域では雨が降らなかった。「かなり高レベルの放射能が東京の上空にかかった時期もあったが、雨が降らなかった」とストールは言う。「そうでなければ事態ははるかに悲惨なことになっていたかもしれない」
【図1】
福島の原発事故により、南相馬など近隣の町では大勢の住民が避難した。
【図2】
放射能危機
福島の原発事故後1週間の放出量推定モデル。
原子炉と使用済み燃料プールから大量の放射性同位体が爆発的に放出されたことがわかる。
(グラフ内)
1号機爆発
3号機爆発
2号機爆発
4号機火災
4号機の使用済み燃料プールに放水
(縦軸)
セシウム137の推定放出量
(単位:ギガベクレル s^-1対数スケール)
(横軸)
3月10日
3月17日
3月24日
【図3】
放射性同位体飛散状況の再現
3月11日に巨大地震と津波が日本を襲ったあと、福島第一原発の3基の原子炉が爆発し、4号機が火災を起こした。放射性同位体が原発からどのように流れ出て日本に広がったかをモデルで再現する。
3月12日から15日までのあいだに3基の原子炉が爆発したが、爆発の前にすでに放射能漏れが起きていた可能性がある。
3月11日から14日にかけては風が放射能の大半を太平洋側に吹き飛ばした。
3月15日に天候が変化して放射性同位体が内陸に戻り、東京上空にかかった。
本州の中央を走る山脈に沿って雨が降り、空中測定からわかるように汚染地域が線状に連なった。
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いつも重要な情報ありがとうございます。
ReplyDelete確か東電も途中で放出量は倍あったと訂正しましたよね。
それがまた実は2倍だったとかもと…。
今更ですが、頭がクラクラします。
それから、あらためて、海外の方にも多大な迷惑をかけたことを申し訳なく思います。