読者の方がコメント欄でチェルノブイリに触れていらっしゃったので、チェルノブイリ事故ではこの核種は検出されていたのか、されていたとしたらどのように解釈され、使われていたのだろうか、と思ったわけです。そこで早速検索を掛けてみると、このような論文が見つかりました。
2002年12月に"Science of the Total Environment"誌に発表された、デンマークとチェコの研究者による論文で、概要に次のような記載が:
Soil samples from areas in Belarus, Russia and Sweden contaminated by the Chernobyl accident were analysed for 129I by radiochemical neutron activation analysis, as well as for 137Cs by gamma-spectrometry. The atomic ratio of 129I/137Cs in the upper layer of the examined soil cores ranged from 0.10 to 0.30, with an average of 0.18, and no correlation between 129I/137Cs ratio and the distance from Chernobyl reactor to sampling location was observed. It seems feasible to use the 129I/137Cs ratio to reconstruct the deposition pattern of 131I in these areas.
チェルノブイリ事故によって汚染されたベラルーシ、ロシア、スウェーデンの地域の土壌サンプル中のヨウ素129を放射化学中性子放射化分析、セシウム137をガンマ分光法によって分析し、比率を調べた。土壌表層部のヨウ素129・セシウム137の原子比率は0.10から0.30、平均が0.18で、この比率はチェルノブイリ原発からの距離に関係なくほぼ一定しており、当初のヨウ素131の拡散、沈降状況を再現するのにこの比率が使用できると思われる。
つまり、文部科学省が今になってヨウ素129の土壌中の濃度を検査させているのは、セシウム137との比率を出して事故初期のヨウ素131の拡散・沈降状況を再現しようとしているのではないか。
事故初期、日本政府がしたことは皆様もご存知の通り、「安全」を連呼することでした。事故初期の土壌サンプルでヨウ素131を測ったのは、3月下旬にIAEAが飯舘村の土壌を測ってキロ当たり2千万ベクレルあった、と発表した以外に記憶がありません。文部科学省がヨウ素131の実測を行ったのは6月になってからで、結果を発表したのは9月になってからでした。
そこで、半減期が非常に長いヨウ素129を測ることによって遅ればせながらヨウ素131の初期の拡散の実態をより正確にしよう、という文部科学省の目論みなのか。相変わらず素人の妄想の域を出ませんが、こっちのほうが可能性は高いかも知れません。
但し、上述の研究概要でも察することが出来るように、万一セシウム137との比率が「一定」でない場合、ヨウ素131の飛散分布状況の推定に使うことが出来ない可能性もあるのではないでしょうか。その場合、今度は比率が一定でないのはなぜか、という疑問が出てきます。偏在するヨウ素129がどこから出てきたのか-どの原子炉あるいは使用済み燃料プールか-を知る手がかりとなるのかもしれません。
ともあれ、文部科学省がヨウ素129の情報を発表するのはいつになるのでしょう。
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なお、飯舘村でヨウ素131が土壌からキロ当たり2000万ベクレル検出されていた件、お見逃しになっていた方のために再掲しておきます。2011年4月1日付け共同通信です。
IAEA、検出はヨウ素 測定値を2千万ベクレルと修正
【ウィーン共同】国際原子力機関(IAEA)は3月31日、福島第1原発の北西約40キロにある避難区域外の福島県飯館村の土壌からIAEAの避難基準を上回る値が検出されたとした放射性物質は、半減期の短いヨウ素131で、測定値は1平方メートル当たり約2千万ベクレルだったと修正した。
IAEA当局者は30日の記者会見で、約200万ベクレルとしていた。数字を取り違えたとみられるが、IAEAは独自の避難基準の2倍に相当する事実は変わらないとしている。
測定日は3月後半で、ヨウ素131の半減期は約8日。当局者は「検出された値は限られた試料に基づいた初期評価で、追加調査が必要」と話している。
一方、日本の原子力安全委員会は31日、国内では土壌でなく空間放射線量を指標にしていると説明。原発から半径20キロを「避難」、20~30キロを「屋内退避」とした設定は妥当で、避難区域の設定の見直しは必要ないとの考えをあらためて示していた。
原子力安全委員会だけでなく、当時の枝野官房長官も同様の発言をしていました。日本では土壌ではなく、他にも総合的に判断する、避難域を見直すことは考えていない、と。
この共同ニュースが出た4月1日、飯舘村では山下俊一教授が村の幹部に非公式のセミナーを開き、まったく心配は無い、飯舘村は風評被害と戦う福島のシンボルだ、とぶち上げていた、と田中隆作さんのブログにありました。
日本政府が飯舘村の住民に避難命令を出したのはその10日後でした。
この説が正しそうですね。ただ、英文資料の方は、多分メインはヨウ素131/ヨウ素129比率で推計して(いずれも化学的挙動は一緒で、重さが少し違うだけ)、その推計の検証用としてヨウ素129/セシウム137を使う感じ示唆しているのではないかな?(素人の理解では)
ReplyDeleteあの研究はチェルノブイリから16年後なので、ヨウ素131は既に測りようがなく、同位体元素の比率の比較がやりようがなかったんだと思います。
Delete3度目なので名前つけておきますね。どうぞ宜しく。
ReplyDelete前のコメント>多分メインはヨウ素131/ヨウ素129比率で推計
理解が違うかもしれないので、補足しておきます。
この2核種は核分裂生成物で、燃料棒を燃やした時間がわかれば構成比率が推計できます。なので、ヨウ素129の分布がわかれば、ヨウ素131の分布が推計できると思います。(素人の理解では・・・)
ただ、フクイチの場合、原子炉3つで、使用済み燃料プール1つか2つなので、燃やした時間がかなりミックスされるので、チェルノブイリの原子炉1つより難しい推計になると思われます(多分チェルノでさえも推計検証が必要だったのでしょう。燃料棒が全て新品というのは滅多にないようですから・・・)。
ああそういえば、去年、福島の炉心の燃焼度を解析していた大学の研究者の方にお聞きしたことがありました。右から左へ抜けましたが。古い燃料が炉心のどの辺にどれくらい配置されていて、どの辺が溶融したと考えられるか、それによって出てくる放射性物質がどんなものでどういう比率ででるか、出てきた放射性物質の量と比率でそれがどの原子炉から出たか、あるいは使用済み燃料プールから出たかがわかるか、など。
Delete聞いてメモしてそのメモファイルをどこにファイルしたか分からない、という情けない有様...。