Sunday, August 30, 2009

民主党の『国家戦略局』案への不安

日本の衆議院選挙は、民主党が定数480議席中308議席を獲得するという、予想以上の圧勝となりました。自民党以外の党が過半数を超えて政権をとるのは戦後初めて、確かに歴史的な出来事でしょう。

民主党支持者の方々、あるいは単に反自民で投票した方々、共にひとまず希望がかなったことになりますが、ニュースを読んでいてちょっと気になったことがあります。

ちょっとどころか、大いに気になっています。新しい政権下、最重要項目として『国家戦略局』なるものを真っ先に制定する予定のようですが、これが私の不安の原因です。毎日新聞の記事によると、

『民主党は、衆院選後政権を獲得した場合に、国家の基本方針や予算の骨格を定める組織として内閣に新設する、首相直属の「国家戦略局」の概要を固めた。トップの議長には専任の閣僚を充て、最重要閣僚の一人と位置付ける。構成メンバーは国会議員、民間の有識者、各政策を担当する官僚の計約30人。同党はマニフェスト(政権公約)に掲げる、子ども手当や高速道路無料化など独自政策の所要額(16兆8000億円、2013年度)について「国の総予算207兆円の全面組み替え」で財源を捻出(ねんしゅつ)するとしており、こうした作業を国家戦略局中心に行う意向だ。』

国家の基本方針、予算の骨格を定める、とありますが、実際に計画されていることを見ると、細かい政策の計画から実施まで、この、内閣直属の戦略局で行うことになるようです。国家の基本方針というからには、内政、外交、軍事のすべてをカバーすると思われます。さらに産経新聞によると、

『民主党の菅直人代表代行は7日の記者会見で、同党の政権構想の柱となる「国家戦略局」について、法律ではなく政令で設置する方針を明らかにした。菅氏は「国家戦略局は内閣官房組織令という政令で置く。』

これは危険です。とても危険です。

政令とは、内閣が制定する成文法のことで、法律とは違って内閣の閣議決定、担当大臣と内閣総理大臣の連署だけで成立し、あとは天皇による公布、官報に掲載された後施行されます。つまり、国民が選んだ議員で構成される、立法機関である議会での討論、投票、承認なしに成立してしまうのです。

さらに、政令は、
  • 特に法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。(憲法第73条第6号ただし書き)
    法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない(内閣法第11条) (ウィキペディア

とあります。

日本の政令は英語で「Cabinet order」と訳されますが、これはアメリカで言う「Executive Order」、行政機関の代表者としての大統領の権限だけで成立してしまう法令と同等のものと思われます。議会の討論、承認なしに大統領の署名だけで成立し、いったん成立してしまうと、これを取り消すには大統領のExecutive Orderが必要になります。議会が取り消すことも可能なのですが、大統領の否定権を乗り越えるにはいわゆる「Super majority」、議会の3分の2の承認が必要になるため、実際上は不可能に近いのです。司法府が取り消した例は過去にわずか2例あるのみ。

ブッシュ前大統領はこのExecutive Orderを乱発したと非難を受けましたが、オバマ大統領も、選挙戦中はこれを強く非難していたものの、いざ大統領に就任すると前任者にも増してExecutive Orderを発行しまくっています。そればかりか、オバマ大統領はすでにExecutive Orderのさらに先を行っています。たとえば、GM、クライスラーを破産させて実質解体を進めたのは、大統領がいわば勝手に作った「自動車業界タスク・フォース」。議会はつんぼ桟敷で、要するに金は出しても口を出すな、と大統領のスポークスマンが平気で言ってました。

また、オバマ大統領が勝手に任命している、「Czar」と通称される、閣僚(ちなみにアメリカの閣僚は選挙で選出された議員であることはほとんどありません。ほとんどが大統領による任命と、議会の承認です)と同等以上の権限を持つ大統領任命の補佐官とでもいうのでしょうか、イギリスや日本で言う「影の内閣」のような人たちが30人近くいます。「影の内閣」と決定的に違うのは、野党がやっているのではなく、大統領自身がやっているところにあります。議会、正式な国の省庁と対抗して、大統領が自身の「影の政府」を作っているわけです。これら「Czar」(半分は女性ですからCzarinaかな)は彼らを任命した大統領にのみ責任を負っています。

内閣直属の、政令だけで成立する『国家戦略局』なるものは、オバマ大統領の「影の政府」と50歩100歩のような、いやな予感がします。杞憂であればいいのですが。わずか30人の『国家戦略局』のメンバーが国家の政策を主導していいものでしょうか?

アメリカ依存から脱却する、というのも民主党の掲げた公約(最近はわけのわからんマニフェストとかいう言葉を使っていますねえ)のひとつだったと記憶していますが?

アメリカでも「ブッシュ憎し」で民主党、オバマ候補に投票した人々が、オバマ大統領の政策(共産主義、ナチズムという言葉がインターネットのニュースサイトでめっきり増えました)と強引な政策の進め方を見て後悔し始めています。「自民党憎し」で投票した方々、民主党の支持者の方々も、新しい政権が何をするのか、最初からしっかり見て、しっかり批判してください。

Wednesday, August 26, 2009

ビル・フレッケンスタインのインフレ・トレード

このビデオは、CNBCの人気番組(と言っても今も人気があるのかどうか)Fast Moneyの8月26日のセグメントです。司会代行のRick Santelliが話を聞いている相手は、Bill Fleckenstein。彼はいわばショート・スペシャリストで、彼のファンドは確か2007暮れ以来の株式市場の下落で大もうけしたはずです。今年の3月に市場が底を打つ直前にショートをカバーしてファンドを閉め、ロングのポジションがあるのか無いのか、この番組を見なくなった私はよく知りません。以前に司会をしていたDylan Ratiganがプロデューサーとの確執で番組を突然降りてから、視聴率がかなり下がったと聞きました。司会代行のSantelliはシカゴの商品先物取引市場の出で、歯に絹を着せない物言いで人気と物議を両方醸していました。CNBCの親会社のGEが政府から資金および資金調達の援助を受けるようになってから特に、番組はぐっと政府寄りのコメントが増えました。

まあそれはともかく。ビル・フレッケンスタインによると、アメリカの財務省が際限なく発行する債券の影響で、ドルは下がる、他の通貨も下がる、ここでのトレードは、金、銀、および金・銀を地中から取り出す採鉱会社への投資だ、ということです。Fast Moneyに出演しているトレーダーは主に株式市場のトレーダーなので、彼らの質問は「でもS&Pは、まだ上があると思うか?」これに対するビルの答えは、株式市場の上昇がどれだけ実質経済を反映しているのか、分からない(彼は疑問視してますね)。確実なのは、政府が大量のドルを投入していること、今後も経済がどうであれこれは続くだろうこと。GDP(国民生産高)をベースにした(つまり株式市場)投資は、失業率が改善する見込みが当分の間ないだろうからまず意味がない。それよりも、政府のドル印刷をベースにした投資をする。ということです。

ハイテク株に対する質問には、ターゲットが低く設定されているので、多分今四半期はOK、但しこれは価値に基づいたものではなく、単なるトレードの手段としてのみ、との答え。Fast Moneyのトレーダーは以前からフレッケンスタイン(とピーター・シフ)のような、米国株式市場をあまり重視しない、あるいはロングのポジションを取らない投資家に対して、あまりいい対応をしません。だいたい、インタビューが終わるとすぐに、「彼はああ言っているけれど、実際はそんなもんじゃない」とすぐこき下ろしにかかります。

まあ、この番組に出演しているトレーダーは、昨年の8月Washington Mutualが政府に差し押さえられる直前に株を勧めたトレーダーもいれば、同じく8月、National Cityが買収候補で株が上がる、と勧めたトレーダーもいる(National CityはいわゆるTake-under、買収こそされましたが、前日に取引されていた株価よりもずっと低い買収価格で、投資家は大損をしたはずです)、9月、10月に市場が急落していた時も、毎日毎日この株は買いだ、あの株も買いだ、と言いくさっていたものです。程度は推して知るべしですね。












Friday, August 21, 2009

ピーター・シフ: ウォーレン・バフェットは間違っている

ウォーレン・バフェットがニューヨーク・タイムズの社説欄にゲストとして書いた記事、"The Greenback Effect" (8/18/09, New York Times) に対する、ピーター・シフの反論です。

億万長者の投資家、ウォーレン・バフェットがオバマ大統領の熱烈な支持者であることは誰もが知っています。NYタイムズの社説で、バフェット氏は増え続ける国の負債に懸念を示し、負債のためにUSドルの価値は下落する、と述べている同じ口で、昨年の秋以来の政府(ブッシュ、オバマ)の対応、つまり、問題が何であれ、また原因が何であれ、とにかく借金に借金を重ねてでもいいから政府の資金を投入する、という対応を、100パーセントサポートする、よくやった、と言うのです。また、そう言ったすぐ後で、たとえ景気が回復しても、政府の収入と支出のギャップは埋まりそうにない、とも言っています。

これに対し、シフの意見は、政府の借金政策について、”Warren Buffet is dead wrong." 明快ですね。 私もまったく賛成です。


Tuesday, August 18, 2009

OT: 国家負債を減らす一方法 (ジョークですよ、ジョーク) 

『アメリカ随一のニュース元』を謳うオニオン(たまねぎ)ニュース・ネットワーク(ONN)のクリップです。

10兆ドルを超す国家負債を抱えたアメリカ政府は、過激な手段で負債を帳消しにすることを決意、大統領、議会がぐるになってクーデターをでっち上げ、外国政府が保有する米国債券の支払い停止を宣言します。 「よく聞け中国、日本、アラブ首長国連邦、アメリカはもう存在しない。従ってアメリカの負債も存在しない!」と、クーデターの主犯。

(実際、いい考えだなあ。)

ちなみに、2009年8月18日カリフォルニア時間午後8時10分現在の米国の国家負債額は、
$11,720,777,380

一秒当たり8万6千ドル(今年の6月現在)で増えています。


Saturday, August 15, 2009

ゼロ・ヘッジ タイラー・ダーデン、インタビュー

マックス・カイザーの”On the Edge”に、ゼロ・ヘッジのタイラー・ダーデン(Tyler Durden)が登場しました。(電話インタービューですが。)

パート2のビデオで、タイラーはHigh Frequency Tradingについて語っています。タイラーの注意深い発言に、ADD(Attention Deficit Disorder、注意欠如障害)気味のマックス・カイザーが痺れを切らしているようです。



Wednesday, August 12, 2009

シティバンク、中国の債券市場のマーケット・メーカーに

最近、英国のメディアだけでなくアメリカの新聞等でも、中国のクレジット市場の加熱ぶりを危惧する記事が増えてきました。昨年12月来、中国政府の経済刺激政策による容易なクレジット(ローン)が実質経済に行かず、不動産、株式、商品先物などの投機に回っていることに対する危惧、つまりバブル化に対する危惧なのですが、そこはバブルに年季の入ったアメリカの金融機関の出番でしょう。ということで…

ウォール・ストリート・ジャーナル紙に明日付けで掲載される記事です。

中国、シティをマーケット・メーカーとして承認 
(8月13日 ウォールストリート・ジャーナル)

『上海発--シティグループの中国現地法人、シティバンク(チャイナ)は、中国国内の銀行間の債券取引市場のマーケット・メーカーとして機能するための政府からの許可を得た、と発表した。中国の債券市場はアジアでは日本に次ぐ規模で、そこでの2番目の外国金融機関のマーケット・メーカーとなるわけである。

『より経験のある海外の投資機関に中国の債券市場での債券の取引を許可することは、今までよりも効率的な価格設定メカニズムを構築する一助となると思われる。また、この動きは国内の債券市場における外銀の役割が拡大していることを示している。中国政府は今年の初め、上海と香港の市場で、外国金融機関の現地法人が中国人民元建ての債券を売る許可を出した。シティバンク(チャイナ)の承認以前、国内の銀行間債券市場のマーケット・メーカーは20社、この中には、中国で初めてマーケット・メーカーとして承認された外銀、J.P.モルガン・チェースの現地法人も含まれている。

『シティバンク(チャイナ)は銀行間の外国為替市場のマーケット・メーカーでもある。』

ちなみに、マーケット・メーカーと言うのは、日本の「仕手」とはちょっと意味が違うようですね。これは英語での定義です。(Wikipedia.org)

”A market maker is a company that quotes both a buy and a sell price in a financial instrument or commodity, hoping to make a profit on the bid/offer spread, or turn.

”In the United States, the New York Stock Exchange (NYSE) and American Stock Exchange (AMEX), among others, have a single exchange member, formerly known as specialists, and now as Designated Market Makers, who acts as the official market maker for a given security. In return for a) providing a required amount of liquidity to the security's market, b) taking the other side of trades when there are short-term buy-and-sell-side imbalances in customer orders, and c) attempting to prevent excess volatility, the specialist is granted various informational and trade execution advantages.”

ともあれ、いったんシティ、JPモルガン・チェースなどの米国金融機関を入れたら(特に債券市場に入れたら)、どういうことになるか、中国政府はよく理解していないのでは?

アメリカに端を発した今回の金融バブル崩壊のきっかけは、これら金融機関(ゴールドマン、モルガン・スタンレー、今は無きリーマン・ブラザーズ、ベアー・スターンズ、カントリーワイド、メリルリンチ、無きに等しいAIGを忘れてはいけませんね)が債券市場で「新しい」債券、つまり、不動産負債、クレジットカード負債などから「新しい」債券(MBS, ABS, CDO) を商品化して全世界に売り出したのが元です。

まあ、余計な世話ですね。日本でも、バブル再来を20年来夢見ている友人がいます。

中国上場企業の株式のダブル・ショートETFのシンボルは、FXP。過去1年の最高値は一株183ドル、今日の終値は10ドルを切りました。私は5ドルぐらいまでは下がる、と思っています。(逆に言えば、中国市場が(バブルのおかげで)ここから更に25%上昇するかもしれない、ということです。)手をつけたいのをまだじっと我慢。

Monday, August 10, 2009

オバマ大統領、人気急降下

ラスミューセン・レポート(Rasmussen Report)は、大統領支持率を毎日計るグラフをサイトに出しています。8月10日月曜日現在の数字はマイナス9、『強い支持』の数字から『強い不支持』の数字を引いた数字です。『支持』は現在49パーセント、『不支持』は51パーセント。『不支持』が『支持』を決定的に上回ったのは7月の下旬、黒人のハーバード大学教授の逮捕を巡ってのオバマ大統領の発言(ケンブリッジ警察をばか扱いした)に反発した人々が思いがけなく多く、不支持率が一段と上がりました。

もっとも、人気降下の最大の原因は、オバマ大統領の進める政策、特に、ヘルス・ケアの改革でしょう。この改革の内容が広まるにつれ、これに反対する一般市民が米国議会上院、下院の議員が開くTownhall Meetingに出かけ、抗議しています。

アメリカでは、医療保険は私的な保険がほとんどで、公的保険は65歳以上のシニアのためのMedicare、低所得者のためのMedicareですが、公的保険はすでに資金が尽きて破産状態。大統領の進める改革では、医療保険をすべて国が運営するHealth Choices Administrationなるものに移管して、大統領が指名するコミッショナーが保険のレベルから治療のレベル、支払いのメカニズムまで、すべて決定する、というものです。このコミッショナーは大統領にのみ報告義務があり、議会は何の権限も持たないのです。

ただでさえ国の保険は破産していると言うのに、すべての医療保険を国の管理下に置いて、どうやって運営するつもりなんでしょうか。

大統領と民主党の計画では、高所得者(この定義がまた問題なんですが)の税引き前の収入に課税して費用をまかなうことになります。更に、所得に関係なく、現在医療保険に入っていない人の税引き前の収入に8.5パーセント課税する、という条項も入っています。保険を提供しない中小企業への追加課税もあります。ヘルス・ケアは「権利」だ、と謳っている割には、その「権利」を行使しない権利は一切認めない、認めないどころか、罰金を科する、と言うわけです。(私は個人的には、ヘルス・ケアは「権利」などではなく、お金で買える商品(Goods)の一つだと思っています。)

私の英語のブログで最近一番ヒットが多いポストは、この改革法案(H.R. 3200)のセクション1233、シニアに対して最低5年毎に、要するにどういう風に生を終えたいか、医者またはNurse Practitionerと相談することを義務付けるセクションです。この医者の相談のガイドラインも前述のコミッショナーが決めます。相談の結果、医者が延命治療を拒否することもあるわけです。また、シニアだけでなく、別のセクションでは障害者に対する治療を限定する条項もあります。

一番呆れるのは、この改革から、議会(議員と大統領、副大統領など)は免除される、という条項です。

そして、まったく胡散臭いのは、ヘルス・ケア業界が賛成に回っていることです。

Townhall Meetingsにやって来る、改革に反対する市民を脅かす意味なのでしょう、下院議長のナンシー・ペローシは、ヒステリックに『反対するのは非国民』、と発言しています。

株式市場はどういうわけか最近上向きですが、アメリカの景気自体はまったく向上している感覚は無く(精々横ばいがいいところ)、この不景気の真っ只中、全世界に対して借金に借金を重ねる真っ只中で、なんで金のかかるヘルス・ケアの改革とやらをしなければならないのか?大統領の『カリスマ性』をまったく感じない私には、まったく分かりません。

昨年の9月末、株式市場が急降下した理由は金融市場でした。金融市場の問題はまったくと言っていいほど何も解決されていません。3月以来株価が毎日のように上がっているので、人々は何となく安心した気になっていますが、タイトなクレジット市場、劣化したアセットの問題はそのまま。改革というならこっちが先だろうに、と私は思いますが、それをしない、ということは、要は「改革」は口先だけ、真の目的は別にある、と見ざるを得ません。

Thursday, August 6, 2009

ウォール・ストリート、AIGからまた儲けるようです

AIG Breakup Is Fee Bonanza [AIGの解体の手数料で大儲け]
(8月7日 ウォールストリート・ジャーナル)

AIG、日本ではアリコとしてよく知られていますが、昨年の9月、CDS (Credit Default Swap)のブローアップで米国政府の救済を仰がざるを得なくなり、結局政府が株式の79.99パーセントを保有する事実上の国営化となったのはまだ記憶に新しい、かな?

(ちなみにこの79.99パーセントと言うのは曲者の数字なのです。政府の株式保有率が80パーセントを超えるとこれは事実上ではなく正式な国営化で、AIGの決算、損益貸借をそっくり国のそれと合算しなければならなくなるため、正式の半歩、4分の1歩手前の保有率にしたわけ。)

政府の計画では、この先数年かけてAIGを解体、売却し、救済に使った金(現在までで総額約1800億ドル、日本円で17兆円強)を回収する、というものです。ウォールストリート・ジャーナル紙の分析によると、この計画を実行するためにはゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーを始めとするウォール・ストリートの金融機関に頼るしかなく、そのためにニューヨーク連邦銀行(AIGの子会社の株式保有者)とAIGがこれらの金融機関に払う手数料はおそらく10億ドル(日本円にして約950億円)、1996年にAT&Tを解体したときの手数料の4倍、2008年のビザIPOの手数料(アメリカで史上最大規模のIPO)の2倍近くになるだろう、というもの。

一番利益をこうむるのは現在ニューヨーク連銀のアドバイザーになっているモルガン・スタンレー。現在までにすでに1000万ドルの手数料を受け取っていますが、AIGの解体で更に2億4000万ドルの収入が見込めるとのこと。ほかにも、ゴールドマン・サックス、バンカメ、JPモルガン・チェースが、AIG解体にかかわるプロジェクトを受けたようです。

AIGを事実上国有化した後、AIGの負債(CDS)を政府がカウンター・パーティに100パーセント支払ったのですが、そのカウンター・パーティがゴールドマン・サックスを含むウォール・ストリートの金融機関だったことが今年の3月に明るみに出、AIGの救済は結局、ウォール・ストリートの金融機関を救済するためだったのでは(まさにその通り)、と非難ごうごうでした。もっとも、ものの1ヶ月もしないうちにマスコミのニュースから消えましたが。

ちなみに、負債の一部を相殺する代わりにアリコの株式をニューヨーク連銀が保有していること、ご存知ですか?ちなみにこれは違法ですが、昨年の9月以来、米国連邦銀行は違法に違法を重ねて金融市場を「守って」きたので、今更だれも何も言いません。(でも違法は違法です。連銀は、国家の債券以外を保有してはいけないことになっているのです。)

AIGの解体でまたもウォール・ストリートが儲ける、となると、政治家がまた騒ぎ出すんでしょうねえ。私は最近とみに、誰からも悪者扱いされている大手金融機関に肩入れしています。(と言っても、株を持っているだけですが。)ここまで誰もが悪者扱いするとその逆を行きたくなる、つむじ曲がり、へそ曲がりなのですが、過去20年間のアメリカの金融市場と住宅市場、政府の政策を知るにつれ、これまでこれらの金融機関が生き延びてきたのが不思議なくらいで、ついつい世間とは逆に応援したくなったのです。(もっとも、根本的な理由は、株価のチャートを見て上昇の可能性がある、と思ったからなんですが。)

AIGは昨日の水曜日の米国株式市場で、株価が何と63パーセント上昇、13ドルから22ドルに跳ね上がりました。水曜日はほかにも「屑同然」の株が急上昇しました。(私もいくつか持っていましたが、もう屑同然で捨てたも同然だったので、びっくりしました。)

Tuesday, August 4, 2009

米国証券取引委員会(SEC)、フラッシュ・トレーディングを禁止?

フラッシュ・トレーディングに関する最新ニュース。

証券取引委員会、フラッシュ・トレーディングを禁止する方向(8月4日 AP)

米国証券取引委員会(SEC)の委員長、メアリー・シャピロ(Mary Shapiro)は、火曜日、SECがフラッシュ・トレーディングを禁止する方向で動いていると発表、「フラッシュ・トレーディングによって発生する不公平性を排除する方法を早急に実施する」意向を示しました。

そんな方法があればの話ですが…。

このブログでも取り上げたように、フラッシュ・トレーディングで一番儲けているのはゴールドマン・サックス、シタデル等がサポートするネットワーク、ダイレクト・エッジ(Direct Edge)です。これに対抗すべく、ナスダック、BATがフラッシュ・トレーディングに参入、大手で唯一フラッシュ・トレーディングを行っていないのは、ニューヨーク証券取引所(NYSE)です。

SECがフラッシュ・トレーディングを禁止して一番利益があるのは、NYSEということになりますね。多分。

ダイレクト・エッジ、BATは、フラッシュ・オーダーの見直し大歓迎、いつでも話し合いに応じる、とコメントを出しています。

Sunday, August 2, 2009

オバマ大統領と日本共産党の共通点?

オバマ大統領の日本での評価(あるのかないのか、私は詳しくは知りませんが)、とグーグルで検索したところ、こんなサイトが引っかかってきました。

オバマ大統領と日本共産党 経済政策の共通性 
(7月29日 土佐のまつりごと

サイトの著者は、日本共産党高知県委員会のメンバーで、政策を担当している方だそうです。ブログのポストの書き出しは、

『国民の暮らしや実態経済を無視し、金融中心に「金儲けできればなんでもよい」という新自由主義が破綻した。あらたな経済・財政の方向をどうするか・・・

共産、財源論示す マニフェスト発表 朝日

共産党:「働く貧困層なくす」…マニフェストを発表 毎日7/28 

勤労者減税、富裕層増税。大企業の課税強化、軍事費の削減・・・ 資本主義の総本山のアメリカの不況脱出策と日本共産党の政策が共通している。日本共産党の主張は、当たり前の話をしているだけである。』

普通のアメリカ人が読んだら仰天するだろうなあと思いますが(試しに英語のブログに記事を載せてみました)、実際のところ、オバマ大統領は社会主義者、あるいはもっと進めて共産主義者ではないか、と疑うアメリカ人が増えています。

それはさておき、この著者の言うことは当たっているのでしょうか?

まず勤労者減税。確かにオバマ大統領は事あるごとに Tax cut for the working class といっています。ところが、アメリカでは、個人所得税収の97パーセントを負担しているのは上位50パーセントの所得層。大統領の言う『勤労者』層は下位の50パーセント、元からほとんど所得税を払っていないのです。この層に対する「減税」はつまるところ富の再分布、持てる層から取り上げて、持たざる層へ分配する、まさに共産党にぴったりの政策ではありませんか。

次に富裕層増税。アメリカのトップ1パーセントの年収所得者(年収38万8千ドル以上)はすでに所得税総額の40パーセントを負担しています。トップ10パーセントの所得者(年収10万9千ドル以上)まで下げると、この10パーセントが所得税の70パーセントを負担しています。この層に更なる所得税負担をかける。ずいぶん不公平な話だと私は思いますが、金持ちからふんだくってどこが悪い、とお思いになる方も多いのでしょう。ここで問題なのは、経済を支えているのはいわゆるこの富裕層、ここからDisposable incomeをさらに取り上げて、それで景気が回復すると考えるのはどうしたものでしょうか。

大企業の課税強化。たしかにこれもオバマ大統領がやろうとしていることですね。この共産党の方は、「税率をあげたら海外に出ていくという根拠はない」とおっしゃっていますが、アメリカの実例を見る限り、間違いなく出て行きますね。

ここまでのところ、日本共産党とオバマ大統領はほぼ完璧な政策一致を見ています。

さて問題はこの先。軍事費の削減。ブログの著者はアメリカがオバマ大統領の下で軍事費を削減する、と思っておられるようですが、多分これは予算内の金額だけを見た発言だと思われます。アメリカの軍事費は、予算外予算の金額が非常に大きいのです。ついこの6月にも、2009年軍事補正予算が議会を通過して成立しましたが、これは正規予算外の予算で、1060億ドル、日本円で10兆円を超す大規模な予算です。また、現実的に考えて、イラクからも撤退しない、アフガン・パキスタンにさらに大規模に軍事介入、おまけにイランとの戦端を開くかもしれない、といった状況で、軍事費が削減されるとはまず考えられません。

さらに、共産党のマニフェストは大型公共事業削減を謳っているようですが、オバマ大統領は多分考えもしないでしょう。大統領の考えはまったくその反対で、大型公共事業の拡大が唯一不況から脱出する手段だ、と公言しています。アメリカの借金は増えるばかり。7月ひと月の債券の発行高は、7000億ドルを超えました。日本円で、70兆円です。短期(一年以内)の債券が50兆円強、中長期の債券が残りを占めます。(自転車操業ですね。)

どうもこの高知県の共産党委員の方は、都合のよい点だけを見ているようですが、共産党がオバマ大統領と共通点を感じていること自体、私には興味深いものがあります。

ただし、ひとつ、決定的に違う点があります。多分日本共産党の方々と違って、オバマ大統領は資産が日本円にして8億円以上。金持ちです。資産の多くは著書(代筆のうわさあり)の印税です。日本共産党のメンバーの方々で億万長者がいらしたらごめんなさい。8月の夏休みに大統領が借りる予定の別荘は、一週あたりの貸し賃が約500万円だそうです。勤労者の年間所得を一週間で使うんですねえ。いいですねえ、金持ちは。(おっといけない、またひがんでしまった。)ちなみに、米国大統領の給料は、年間約4000万円です。