東シナ海のちっぽけな不動産、尖閣諸島を巡る日中の対立がじわりじわりと悪化する中、英テレグラフ紙のアンブローズ・エバンズ=プリチャード氏によると、中国は2千3百億ドル相当(日本円で約18兆2千億円)保有する日本国債を使って、日本に経済的な圧力をかけるべき、と、中国政府関係者が公に提言したそうです。
この記事を引用した米国の金融情報サイト、ゼロヘッジの記事も読み合わせると、この「圧力」はつまり、日本国債をオープン市場で投げ売りして国債価格を下落(=利回り上昇、将来の金利もおそらく上昇)させ、投資家の更なる売りを誘発し、日本の国家財政、企業、大手金融機関の資産価値の悪化、バランスシートの悪化を引き起こし、日本政府に尖閣諸島についての譲歩を迫る、というシナリオかと思われます。
エバンズ=プリチャード氏の記事によると、そうすることによって中国自体が蒙る被害は容認できる範囲で、日本への輸出がなくなっても痛くも痒くもない、逆に日本は、中国市場へのアクセスがないと経済が立ち行かない、と、この政府関係者は考えているとのこと。
さて、寄付金まで募って尖閣諸島の購入に走った東京都の石原知事、国有化に走った野田首相、それと、日銀の白川総裁、覚悟はできてるんでしょうね?
まずは、2012年9月18日英テレグラフ紙のアンブローズ・エバンズ=プリチャードによる記事から、部分 (リンクは元の英語記事へ行きます):
中国、国債を使った日本への攻撃を示唆
中国政府の上級アドバイザーが日本の債券市場への攻撃を要求、日本政府の資金繰りの危機を引き起こして日本を屈服させ、日本政府の東シナ海尖閣/釣魚諸島の国有化の決定を翻させるのが狙い。
中国の商務部国際貿易研究院のJin Baisong氏は、中国は日本国債2千3百億ドルを保有する日本の最大の債権者である立場を十分に利用して、「最も有効な方法で日本に制裁措置を加え」、日本の膿み病んでいる財務危機を露にすべきだ、と述べた。
共産党機関紙である中国日報に掲載の記事で、Jin氏は、中国が世界貿易機関下の「国家安全例外条項」を発動して日本を罰するよう要求し、極東の2大国間の貿易戦争は双方にとって不利益である、という議論を退けた。
それとは別に、香港のエコノミック・ジャーナル誌の記事によると、中国政府はハイテク産業に必要なレア・アースメタルの日本への供給を停止する計画を練っている。
これらの警告は反日デモが中国全土85都市に広がり、日本企業が工場の操業を停止することを余儀なくされている最中に発せられた。
Jin氏は、中国は日本への「低付加価値」の輸出を犠牲にしてもさほどのダメージはないが、それと対照的に日本は自国経済を支え、「再興不可能な」衰退を食い止めるために中国市場に頼っている、と述べた。
「中国が、自分自身はあまり影響を蒙ることなく日本経済に重大な打撃を与えることが出来るのは明らかだ」、とJin氏は述べた。氏の発言が政治局の全面的な支持の元でなされたものなのか、また、保有する日本国債を売ることでダメージが出るものなのかどうかははっきりしない。日銀はこのような中国の動きに対して、国債を購入することで対処できるだろう。円安になることなら何でも歓迎だろうから。
(英語記事の全文はリンク先でどうぞ)
エバンズ=プリチャード氏はケインズ派の経済理論(政府主導の経済)を奉じていたかと思うとまた反対、を繰り返していますが(今は奉じている真っ最中)、中国が国債を投売りしても日銀が喜んで買う、と考えているようです。しかし、ケインズ派の絵に描いた餅をあざ笑う米国金融ブログ、ゼロヘッジは、異なった見方をしています。(以下、意訳。リンクは元の英語ポストへ。)
もしこの驚くべき提言が実行されると、巨額の債権を報復の武器に使った世界歴史上初の事例になるだけでなく、近代戦の進化過程における明確な相転移を示すものとなるだろう。つまり、あからさまな軍事対決から為替戦争、貿易戦争、そして遂に、利息の払えない、返済できない借金でも永久に繰り延べできる、という神話で成り立っている日本のあやうい財政を、それこそ数分のうちに完膚なきまでに破壊する「国債戦争」へ。
これ以上説明するまでもないが、中国が日本国債の投売りを始めるとすれば、長いこと予期されてきた日本の債券市場の崩壊につながるかもしれない。債権者が次々と市場に売りに出し、最良のケースで日銀が最後且つ唯一の買い手、最悪のケースでは、債権者は買い手のつかない市場に国債を売りに出すはめになる。
これは直ちに急激なインフレにつながる。日銀は何としてでも債券を購入して貨幣化せざるを得ず、最初は数千億ドル、そのうち二次市場を数兆ドルの規模で買い支える必要に迫られる。その結果、まったくの真空から作り出されたリザーブ(貨幣)は数兆ドル分に上るだろうが、日本のデフレがこれを止められるとは思えない。このリザーブが経済に流れ出し、最も危険な敵に経済戦争を仕掛けられて日本経済が今にも破壊されるのだ、と日本国民が気づいたらもうおしまいだ。
更に事態を複雑にしているのは、日本には報復のための有効な手段がないことだ。日本は中国の国債を保有していない。せいぜい日本に出来ることは、日本が貿易の相手として役に立たなくなったら中国経済にもダメージが出る、と脅すくらいだろう。
ゼロヘッジの結論は、
確実に言えることは、2週間前に尖閣諸島を「購入」した時、日本は喧嘩を売るのに悪い国を選んでしまった、ということだ。もし日本が、中国は内々で了解してくれる、と思っていたとしたら、大きな間違いだった、としか言いようがない。
日本のオプションは2つ。この2週間で起こったことをすべてないことにして、外交上の大恥をかいて尖閣諸島を元の状態に戻すか、このまま押し通してその結果を甘受するか。ただし、下のグラフのクエスチョンマークの付いている国(日本)にとっての結果は、悲劇的なまでに厳しいものとなるかもしれない。日本だけでなく、一蓮托生で同様に破産している「先進国」すべてにとって。
実際、日経などの記事を読むと、日本政府は「中国は内々で了解してくれるだろう」と正に思っていたようで、なんとも素人集団としか言いようがありません。
ゼロヘッジの言うグラフは、借金の総額と歳入の割合を国別に表示したものです。日本はダントツで一番左。
日銀、政府、国民待望のインフレが遂に起こるかどうか。起こるとしたら、3、4パーセントのかわいいインフレなどではなく、喫茶店で注文したコーヒーが来るまでに値段が倍になった、というような超インフレでしょうか。
英語ブログに同じ記事を出しましたが、英語読者の反応は
「やれるもんならやってみろ」
「日本と日本経済は違う。日本経済は滅んでも日本は滅びない」
「もう中国にはうんざりだ」
それぞれ、いろいろな不満が、特にリーマン危機の2008年以降、世界中に静かに積もり積もっているような気がします。思いがけない「事故」を起こさないよう、極力注意を払うのが責任ある政府というものでしょうが、そんな政府は「先進国」にはもう残っていないような、悪い気がします。