Tuesday, January 15, 2013

日経新聞: 日銀総裁人事「大胆な金融緩和を」 首相と有識者一致


という記事のヘッドラインを見ただけで苦笑してしまいました。自分と同じ意見の学者ばかり集めれば、そりゃ意見が一致することでしょう。

日経新聞の記事にはこの「有識者」の方々の名前と現在の所属が出ていましたので、写しておきます。カッコ内は、ウィキペディアなどでざっと検索した、以前の所属です。実社会で苦労をなさった方はほとんどいらっしゃらないようです。学者、官僚、公的性格の強い銀行(興銀)、このような方々が、日本の実社会で働き生活する人々に大きな打撃を与えるであろう金融政策を決定するのです。

伊藤 元重: 東大教授

岩田規久男: 学習院大教授 

高田 創: みずほ総合研究所チーフエコノミスト (日本興業銀行出身)

竹森 俊平: 慶応大教授

中原 伸之: 元日銀審議委員 (元東亜燃料工業代表取締役社長)

浜田 宏一: 米エール大名誉教授 (東大教授)

本田 悦朗: 静岡県立大教授 (大蔵省・財務省、外務省 官僚)

無制限の金融緩和を続けるアメリカの連邦準備銀行バーナンキ総裁に遅れをとるな、ということなのでしょう。バーナンキ総裁も、実社会で働いた経験がほとんどない学者さんで、株価が上がっているのは経済が好調な証拠だ、と信じているようです。ご自身が毎月合計で800億ドルのお金を刷って、政府の債券や政府企業の債券を買い上げているせいだ、とは信じたくない、という方が当たっているかも知れませんが。

安倍政権は小額(500万円まで)の株投資の非課税制度を10年間施行するとのこと。株式市場を金融緩和で無理にも引き上げ、庶民を引きずりこみ金を巻き上げ、それで大もうけするのは銀行、証券。どこかでみたなあこのパターン。

Sunday, January 13, 2013

ブルームバーグニュース: 「安倍政権、50兆円規模の外債購入ファンドを創設する見込み」


米国の金融ニュースサイト、ブルームバーグに掲載の2013年1月13日付けの記事、とりあえず要点だけスピード訳をお届けします。

題名は、「安倍(首相)、バーナンキ(米国連銀総裁)を支援、5580億ドル(50兆円)の外債を購入の見込み」

Shinzo Abe is set to become the best friend of investors in Treasuries as Japan’s prime minister buys U.S. government bonds to weaken the yen and boost his nation’s slowing economy.

米国債を購入して円安に導き、減速する経済を活性化しようとする日本の安倍晋三首相は、米国債の投資家の最良の友となるようだ。

Abe’s Liberal Democratic Party pledged to consider a fund to buy foreign securities that may amount to 50 trillion yen ($558 billion) according to Nomura Securities Co. and Kazumasa Iwata, a former Bank of Japan deputy governor. JPMorgan Securities Japan Co. says the total may be double that. The purchases would further weaken a currency that has depreciated 12 percent in four months as the nation suffers through its third recession since 2008.

安倍の率いる自由民主党は、外国の有価証券(債券)を購入するためのファンドの創設を考慮することを約束、その規模は50兆円(5580億ドル)の規模になる見込み、と野村證券、元日銀副総裁の岩田一政氏の言。JPモルガン証券日本支社によると、総額はこの二倍かもしれない、という。日本が2008年以来3度目の景気後退に苦しむ中、外債の購入は過去4ヶ月で既に12%下落した円を更に円安に導くと予想される。

The support would help Federal Reserve Chairman Ben S. Bernanke damp yields after the worst start to a year since 2009, according to the Bank of America Merrill Lynch U.S. Treasury Index. Government bonds lost 0.5 percent as improving economic growth in the U.S., Europe and China curbed demand for the relative safety of government debt even with the Fed buying $45 billion in bonds a month.

安倍政権による外債購入は、米国連銀ベン・バーナンキ総裁が米国債券の利回りを抑えるのに有効な支援となろう。欧米中の経済が好転する中、安全な政府債に対する需要が減り、連銀が毎月450億ドル(約4兆円)の債券を購入しているにもかかわらず、米国債は今年に入ってから(価格が)0.5%下落(つまり利回り上昇)している。

(中略)

Strategists are already paring back bearish forecasts for U.S. debt. The 10-year Treasury yield will rise to 2.2 percent by year end, according to the median prediction of economists in a Bloomberg survey. In July, the estimate was 2.7 percent.

既に専門家は米国債に対する悲観的な予測を翻し始めている。米国債10年物の利回りは年末までに2.2パーセントまで上がるだろう、というのがブルームバーグの調査によるエコノミスト達の中央値だ。去年の7月時点での予測(の中央値)は2.7パーセントだった。

Hiromasa Nakamura, a senior investor for Tokyo-based Mizuho Asset Management Co., which oversees the equivalent of $38 billion, is more bullish. Ten-year Treasury yields will fall to a record low of 1 percent by year-end as Japan ramps up purchases, while the yen falls to 90 per dollar, he said in an interview on Jan. 11. Japan’s buying “will be one of the positive factors in the market.”

380億ドル相当の資産を管理する東京のミズホアセットマネジメントの上級投資家であるナカムラ・ヒロマサは、もっと強気だ。日本が購入を増加することで、米国債10年物の利回りは年末までには1パーセントの記録的な低金利にまで落ち、円は対ドルで90円に下落するだろう、と1月11日のインタビューで彼は答えた。日本による購入は「債券市場のポジティブな要因の一つになるだろう。」

(中略)

The election handed the LDP a political mandate to follow through on its bond-purchase plan, George Goncalves, the head of interest-rate strategy at Nomura Securities International, one of 21 primary dealers that trade with the Fed, said in a Jan. 8 telephone interview from New York. “It’s a quantum leap from doing central bank easing in local markets to foreign markets.”

衆院選の勝利によって、自民党は債券購入のプランを実行に移す政治的権限(委任)を得た、と野村證券の金利戦略部を率いるGeorge Goncalves氏は1月8日のニューヨークからの電話インタビューで語った。野村證券は米連銀と直接取引きする公認ディーラー21社の一つである。「中央銀行が自国の市場の緩和から海外市場(の緩和)に踏み切るのは大きな飛躍だ。」

(中略)

“It’s the bazooka strategy,” Tokyo-based Ikeda said in a telephone interview on Jan. 10. “In order to have an impact on the dollar-yen market, the size needs to be very big.”

「これはバズーカ戦略だ。」東京ベースの(野村證券為替戦略部を率いる)イケダ氏は1月10日の電話インタビューで答えた。「円ドル市場にインパクトを与えようと思ったら、(ファンドの)サイズを非常に大きくする必要がある。」

The yen may weaken to about 95 per dollar from 89.18 at the end of last week, Iwata, the president of the Japan Center for Economic Research, said at a forum in Tokyo on Jan. 11. In an October report, he said that a 50 trillion yen fund would enable the BOJ to purchase foreign bonds to rein in the yen.

円は先週末の89円18銭から95円程度まで下がるかもしれない、と日本経済研究センター理事長の岩田氏は1月11日東京で行われたフォーラムで発言した。昨年10月のレポートで、氏は、50兆円のファンドがあれば日銀が外国債を購入し、円高を抑制することが出来る、としている。

The fund could be twice that size or more as “there’s no upper limit,” said Masaaki Kanno, the chief Japan economist for JPMorgan and a former BOJ official. Abe can hold off on unveiling a large plan now until the next time the currency starts to appreciate, Kanno said by telephone Jan. 11.

ファンドのサイズはその倍以上になる可能性もある。というのも、「上限はないのだ」、と、JPモルガン証券の日本経済チーフエコノミストであり元日銀オフィシャルである菅野雅明氏。安倍首相は大規模なプランの公表は今は行わず、円が再び上昇を始める時を待つだろう、と菅野氏は1月11日の電話インタビューで答えた。

Whatever the foreign bond fund’s amount, more than half will probably be funneled into Treasuries because they are the most easily-traded securities, Yoshiyuki Suzuki, the head of fixed-income in Tokyo at Fukoku Mutual Life Insurance Co., which has about $64.8 billion in assets, said on Jan. 8.

外債ファンドの総額がいくらになろうと、その半分以上は最も市場流動性の高い米国債に流れるだろう、と、約648億ドルの資産を有する富国生命保険の債券部門のヘッドであるスズキ・ヨシユキ氏は1月8日のインタビューで答えた。

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残り半分の記事をただいま読破中。外債ファンドについては大体上記の通りです。

日本でもアメリカでも、一般投資家の目が行くのは株式市場ですが、プロが行くのは圧倒的に大きな債券市場。その市場が2008年のいわゆるリーマンショック以来、中央銀行の操作と政府の政策でのみ左右されるような市場になってしまった今、安倍さんが50兆円というとてつもない額の官製ファンドを作って操作に参入するのも驚くべきことではありません。

連銀が毎月4兆円規模の介入を半永久的に続けるのですから、50兆円といっても連銀の介入の1年分。JPモルガン証券のエコノミストが言うとおり、上限は無い、というのが実体だと個人的には思います。連銀をみれば分かるとおり、一旦始めたら、経済を完全にぶち壊さない限り、これはやめることは出来ないのです。

Wednesday, January 2, 2013

2013年初の伝言ゲーム:「福島および首都圏の多くが放射線管理区域並みの汚染」→「東京は福島とほぼ同じくらいの放射線照射を受けている」


事故から1年10ヶ月目を迎える2013年の元日。今になって、「首都圏は福島と同じくらい汚染されている!」という日本語のツイートを見かけました。年末にも、英語ブログ読者が同趣旨の英語記事のリンクをコメントセクションに張ってきました。

なんだろうこれは、今度は何の情報が交錯しているんだろう、と思い、リンクをすべて辿ってみたら、やはり「伝言ゲーム」でした。新年早々脱力ですが、交錯した誤情報で皆様が必要のない心配をなさるのがどうも我慢できないので、辿ったリンクをご紹介します。

まずは、2013年1月2日のツイートから、一つ例を。

『東京は福島と、ほぼ同じくらいの放射線照射を受けている。』


このツイートに出ているリンク先のブログの1月2日付けの記事で紹介しているのが、この

『東京は福島と、ほぼ同じくらいの放射線照射を受けている』

と翻訳された英語の記事のタイトル。元の英語タイトルは、

Tokyo area turned out to be as contaminated as Fukushima -Kyoto Professor


というもので、「東京地区は福島と同程度に汚染されていることが判明した、と京都大学教授」、とでもなりましょうか。放射線照射(irradiation)とは言っていませんが、京都大の教授が東京地区と福島の汚染を同等に見ている、という意味でしょう。

さて、この英文記事タイトルのリンクは、Washington's Blogというブログに2012年12月27日付けで出たポストの一番上に、このブログの筆者が出したものです。筆者はアメリカ人で、日本語を解しません。リンクの記事の信憑性を疑うすべはありませんが、疑おうという姿勢はどうも見られません。

Washington's Blogのポストに出ているリンクを辿ると、行き着く先はEnenewsの2012年8月11日付けのポスト

そこでのタイトルはWashington's Blogとほぼ同じで(日本語訳は私です)、

Japan Newspaper: Tokyo area turned out to be as contaminated as Fukushima -Kyoto Professor

「日本の新聞: 東京地区は福島と同程度に汚染されていることが判明した、と京都大学教授」


と、なっています。更にEnenewsのポストには(日本語訳は私です)、

August 4, 2012 report in the Hokkaido Newspaper translated by Fukushima Diary:

According to government’s research, Tokyo area turned out to be as contaminated as radiation controlled area like in Fukushima.

北海道の新聞の2012年8月4日付け記事、Fukushima Diaryによる翻訳: 「政府の調査によると、東京地区は福島にあるのと同じような放射線管理区域と同程度に汚染されていることが判明した」


え?

まさかと思いますが、radiation controlled areaという言葉を、放射線管理区域ではなく、福島県の原発事故による放射能汚染によって避難区域に指定された区域と考えて使っているわけではないといいのですが、と思い、恐る恐るFukushima Diaryを覗いてみると、2012年8月11日付けポストに(強調は私です)、

“According to government’s research, Tokyo area turned out to be as contaminated as radiation controlled area like in Fukushima. Millions of people are living in radiation controlled area, where I work with a small nuclear reactor.”


これを見たEnenews(こちらも日本語は解しません)は、英語の文法どおりに文章を読み、東京は放射線管理区域と同程度に汚染されている、放射線管理区域と言うのは、福島にあるような地域を指す("like in Fukushima")、と文法的に正しく理解して、記事のヘッドラインを「東京地区は福島と同程度に汚染」としたような気がするのです。

ポストには元記事と思われる画像が出ていました。北海道新聞の、2012年8月4日の記事です。「京都大学教授」というのは小出先生のことで、小出さんが同志社大学で講演をした際の小出さん自身の言葉をそのまままとめたという形式で、書かれています。画像はaikido.co.jpさんからのものです。(元はPDFファイル

さて、その当該部分の元の日本語の記事はこうです。

京大にはおもちゃのような原子炉がある。実験室は放射線管理区域といって、出るとき、1平方メートルあたり4万ベクレルの汚染があると出られない。

ところが政府調査で、福島はもちろん首都圏の多くが同じくらいの汚染と分かった。何百万人もが放射線管理区域に住んでいる。


「東京が福島と同等に汚染/放射線照射」、などとは小出先生は言っていないのです。首都圏の多くが放射線管理区域と同じくらいの汚染だということが分かった、と言っているだけなのです。

小出さんは原子力研究の専門家です。小出さんの使う「放射線管理区域」というのは、日本にいくつもある法律で明確に規定されているもので、

アルファ核種で1平方センチメートルあたり4ベクレル(従って1平方メートルなら4万ベクレル)
アルファ線を出さない核種で1平方センチメートル当たり40ベクレル(従って1平方メートルなら40万ベクレル)

その10分の1、というのが放射線管理区域の設定基準ですから、アルファ以外の核種による汚染で1平方メートル4万ベクレルの汚染があれば、法律の定義的にはそこは放射線管理区域である、と小出さんはおっしゃっているわけです。

小出さんは東京、ではなく、首都圏、とおっしゃっていますが、外国人はTokyoと聞くと、東京都、と理解する人が大半でしょう。

北海道新聞の記事の上記当該部分を小出さんの意図どおりに英訳してみると、

Kyoto University has a nuclear reactor. Almost like a toy reactor. The laboratory is designated as radiation controlled area, and you cannot exit the laboratory if there is 40,000 Bq/m2 contamination.

However, the government survey found that not just Fukushima but many parts of Tokyo Metropolitan areas were as contaminated as in radiation controlled area. It is as if millions of people were living in radiation controlled area [as defined by law].


というところでしょうか。

北海道新聞が昨年8月に記事にした小出さんの言葉が曲訳され、それが英語でアメリカに広まり、それをまたWashington's Blogが「年末大特集」とでも言うように、彼が去年集めた有象無象のリンクをまとめたポストを書き、それが日本のブロガーの目に留まりブロガーはその英語ポストだけを見てポストを書き、そのブログポストが日本人読者の目に留まり、それがツイートで流れる。

そういえば去年の夏過ぎにも盛んに「東京の汚染は福島と同じくらいひどい」という記事や発言をアメリカで多く見かけ、これは一体どこから来たんだろう、といぶかしく思ったのを覚えています。

日本の人々は福島の汚染がどの程度なのか、現在は事故当初よりはるかに正確に把握しています。ところが外国から発信された(実は日本発なんですが)英語の記事に、東京と福島は同程度に汚染されている、ということが書いてあるらしい、これは大変なことだ、日本政府はまだ嘘をついているのか、と発展し、大本の小出先生の発言は原型をとどめないくらいまで変形してしまいました。

日本はアメリカや海外の援助を要請するタイミングを外した、と2011年の3月末にブログで書いた覚えがあります。英語で書いたか、日本語で書いたか、忘れましたが、福島原発事故の記事は海外の大手の新聞、テレビその他のメディアでは3月末でばったり途絶えました。それ以降、海外で福島事故の情報を得ようとすれば、情報源は非常に限られています。現時点では、日本と比べるとほとんど真っ当な情報がありません。何をもって真っ当と呼ぶか、にはまあ議論があるところですが、裏が取れていない、あるいは取れようがないような情報が「真実」として、福島事故を今でも追っている人たちの間で多く流れています。

この数日話題の、アメリカの水兵が東電相手に訴訟を起こした、という記事も、訴状を読んだ英語ブログ読者から、脚注で「論拠」、「証拠」として挙がっているのはWashington's Blog, Fukushima Diary, Enenewsだ、との情報。見てみたらその通りでした。


外国語(この場合英語)で書いてあるから、信憑性が高い、信じられる、と思い込むのは、今年はもうやめませんか?