Monday, April 30, 2012

ブログ読者の挑戦: クラウド・ファンディングで高線量地域からめざせ避難

私の英語ブログの読者には日本在住の外国人が結構多い、と以前にも書きましたが、その中の一人、千葉県印西市に住んでいる読者は、東葛地域のすぐ東側にある高線量の市から避難するために、面白い方法を考え出しました。

 クラウド・ファンディング(Crowd funding)を使うのです。

これは、彼と彼の家族が避難できるように、その費用の寄付を募るためのページ。なぜ寄付が必要なのかを記し、目標額と期限を設定。このサイトでは、目標額に達しなくても、期限内に集まったお金を受け取れることになっています。ページのセットアップ費用は無料。お金の受け取りはペイパル(Paypal)を通じて行われるため、ペイパルの手数料が数パーセントかかりますが、手数料は寄付金から引かれますので、受け取り側が追加で払う必要はありません。

このサイトは、特に健康に関する寄付の募集(病気の治療費など)などが多いようです。印西市の読者はお子さんが3人、そのうち、一番小さい生後10ヶ月の赤ちゃんが川崎病と診断され、これ以上日本にいられない、と判断したそうです。(ちなみに、印西市の数々の除染風景を送ってくれたのは、この方です。まだご覧になっていない方は、ポストはこれこれです。)



ブログ読者のこのページ、ポストを書いている間に寄付総額が2900ドルから3100ドルに増加していました。 クラウド・ファンディングのサイトは他にも数多くあり、サイトによっては目標額に達しなければお金は受け取れないところもあります。誰でも、世界のどこからでも、寄付することが出来ます。

 福島県をはじめ、東北、関東の高線量地域から避難したくても出来ない、という人たちの理由の一つとしてほとんどの場合挙げられるのは、「先立つ金が無い」ことです。避難の費用もさることながら、仕事、家のローンなど、金の心配を合算するとどうしても払えないので半ば仕方が無い、としてそのまま暮らす選択をする家族も多いようにお見受けします。

 が、ネットの進化はクラウド・ファンディングのようなプラットフォームを可能にしています。お子様のため、ご自身の健康のため、本当は避難したい、とお思いの方々、資金を調達する方法はあるんです。

(私もブログを続けていく資金をこれで調達するかなあ...)

Thursday, April 26, 2012

今年のお茶は「安全」なのか?

答は、「わかりません」。というのも、検査方法が変わってしまったので、比べようがないのです。

まず、新しい検査の方式を、埼玉県の狭山茶を例に取って見てみましょう。読売新聞2012年4月25日の記事によると、3段階にわたって詳細に検査する、とのこと:

栽培段階: 摘み取った生葉の検査。100ベクレルを超えれば加工段階には回さない。

加工段階: 全荒茶工場で1検体以上を抽出し、湯で煎じて飲用状態にして検査。抽出液が10ベクレルを超えれば工場がある市町村全体が出荷制限。

流通・販売段階: スーパーなどで抜き打ち検査、加工段階同様の抽出液の検査で10ベクレルを超えれば回収を求める。

注意してお読みください。つまり、去年の検査とは違って、お茶の葉自体を測るのは栽培段階の生葉のみ。後段階では、荒茶、製茶となった乾燥状態の葉を検査していた去年とは違い、お茶を淹れた抽出液のセシウム含有量を測るのです

数々の疑問が沸いてきます。

1. 生葉が荒茶、製茶になると、セシウムはどれだけ濃縮されるのか?

2. 荒茶、製茶自体に入っているセシウムと、抽出液に入っているセシウムの割合は?

埼玉県の狭山茶の昨年の検査は製茶のみでした。そこで、不ぞろいではあるものの、生葉、荒茶、製茶、抽出液すべての検査を去年行っていた、静岡県の例で考えて見ることにします。

まず、生葉が乾燥されて荒茶、製茶になると、セシウムはどれだけ濃縮されるのか。

二番茶の放射能測定結果(6月10日~7月8日公表)に、生葉と荒茶の両方のデータが出ています。それを見ると、かなりばらつきがありますが、最低と最高を除外しても、生葉→荒茶でセシウムは2倍強から7倍強に濃縮されています。

狭山茶のセシウム濃縮の比率が静岡茶と同様だと仮定すると、生葉の段階でキロ100ベクレルあれば、それが荒茶、製茶になった時点でキロ200ベクレルから700ベクレルの放射性セシウムを含んでいる可能性があることになります。

次に、検査数は少ないのですが、製茶のベクレル数とその製茶を淹れた抽出液のベクレル数が出ている「自主検査に基づく追加調査(6月14日~16日公表、6月28日~29日公表、8月5日公表)」を見てみます。製茶の形態で、すべて今年3月までの暫定基準値キロ500ベクレルを超えていたお茶です:

製茶  飲用茶 (飲用茶/製茶)

614   5.8 (0.94%)

602   7.8 (1.30%)

604   7.8 (1.29%)

581   7.6 (1.31%)

654   7.3 (1.12%)

つまり、製茶の段階で旧暫定基準のキロ500ベクレルを超えるものでも、お茶として液体になると新基準キロ10ベクレルをらくらくクリアするのです。飲用茶/製茶の比率を見ると、製茶に含まれるセシウムのうち約1パーセントが湯に移行するようですので、飲用茶(抽出液)からキロ10ベクレル出たとすると製茶(おそらく荒茶も)にはキロ1000ベクレル以上入っている可能性があるわけです。生葉で100ベクレルははねる、と埼玉県は言っているので、荒茶、製茶の状態で1000ベクレルを超えるお茶はでないことと思いますが、1番茶と2番茶では濃縮度が違うのかも知れず、また、埼玉と静岡の土地の違いで濃縮度が違うのかも知れず、実際お茶になった時点でテストしないと分からないのですが、今年はテスト方式が異なる。

お茶に関しては、どうやら静岡知事の去年の言い分がそっくり通ったようですね。新基準と新基準のテスト方法は、お茶に関しては実質的基準緩和となりました。

お茶は淹れて飲むのだからかまわないじゃないか、とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。個人的には、キロ10ベクレルの抽出液が出るお茶の茶がら(99%のセシウムが残っている)を家庭ごみに捨てていいものか、迷うでしょう。また、淹れたからといってお茶の葉が完全に抽出液に入っていないか、といえばそんなことはなく、私が愛飲する粉茶は湯飲み茶碗の底に緑の粉茶が汚泥のように溜まります。また、日本製の茶の粉末エキスは健康サプリメントにも使われています。

新基準、新テスト方法をこれ幸いと、静岡、埼玉などは今年の検査では抽出液のベクレル数しか出すつもりは無いようです。もし自治体が「風評被害」とやらを防ぎたいのなら、消費者が昨年のデータと比較が出来るよう、荒茶、製茶のベクレル数も出すべきだと思います。静岡のように、知事が安全宣言を出して安全イベントをやった後で民間の業者の検査で暫定基準値超えが見つかるような失態は、昨年だけで十分ではないんでしょうか?

ウクライナの首相、チェルノブイリ周辺地域の「活性化」を計画

日本のニュースは「チェルノブイリの周辺地域の半分は永久に立ち入り禁止」という部分に着目しましたが、ロシアのニュースは「その他の半分」に注目して記事を書いています。 RIA Novostiの2012年4月23日付けの英語記事です:

ウクライナは現在、チェルノブイリ原発周辺の汚染地域を美化する政府のプログラムを拡大する方向で進めている、とミコラ・アザロフ首相は月曜日に発表した。

専門家によるとチェルノブイリ周辺の強制避難区域の放射線レベルは近年大幅に低下している、とアザロフ首相は述べ、避難区域外でもキエフ地方の居住地域で放射線レベルの高い場所は無い、と付け加えた。

「これらの放棄された家々、町、住宅地などを活性化して、『第二の生』を与える十分な理由があります。新たな仕事場となり、政府の新たな財源になります」とアザロフ首相は言う。

3月下旬、ウクライナのビクトル・ヤヌコヴィチ大統領は、4月26日、チェルノブイリ事故26周年記念の日に、チェルノブイリ原発で新しい石棺の建設を開始する、と発表した。

チェルノブイリの石棺建設の費用は9億3500万ユーロ(米12億ドル[日本円で約970億円])、大半の資金は昨年の世界各国政府からの寄付でまかなわれた。ウクライナの寄与分は全体のわずか6パーセントだ。

封じ込めるための施設は鉄製で高さ105メートル、長さ260メートル。これで原子炉を覆う。2015年までには完成する予定である、とウクライナ政府は以前に発表した。

破壊されたチェルノブイリの原子炉は1986年の事故から数ヵ月後にコンクリ製の建物で覆われたが、以来建物は劣化しており、放射能が漏れ出す恐れがある。

政府の新たな財源。どこの国でも金儲けを優先ですね。国が率先しておこなうところも、最近では全世界の傾向として著しい。

というわけで、チェルノブイリ周辺で永久立ち入り禁止にならない残りの1000平方キロは、「活性化」されるのです。日本政府と違って、一応公式には26年待っただけ上等でしょうか。何しろ日本は1年で住民を避難地域に帰還させる、という離れ業をやってますからね。

ああ、ということは、26年経って避難地域の「活性化」を図るウクライナ以上に日本の国の財政が逼迫している、ということなんでしょうか?(と、わざとらしく聞いてみる。)

ツイッターでリンクを出しましたが、去年、チェルノブイリ事故から25年経った去年制作された映画を出しておきます。ベルギーの Alain de Halleux というディレクターが作ったものだそうです。英語ですが、ナレーションは割と聞きやすいブリティッシュ英語なのでトライしてみてください。(と言いつつ、私もまだ全部見ていませんが。)チェルノブイリ周辺の荒涼とした風景、原発で今も作業をする人々の、何かロボットのような動き。

このウクライナの首相が「活性化」されたチェルノブイリ周辺の町に住むわけもなし。

Friday, April 20, 2012

今日の発見: 福島第1原発3号機の格納容器の機器ハッチシールドプラグはわずかに開いていた

もともとの事実、報道から次第にかけ離れて、遂には大本の情報とは似ても似つかぬものになる「伝言ゲーム」の例を2つポストに出しましたが(ここここ)、今日はドイツのドイチェ・ヴェレ(Deutsche Welle)までこの「伝言ゲーム」に参加していることに失望しました。(「ミスキャンパスを農水省が「食べて応援学生大使」にした」、という今年2月の脱力記事が、ドイチェ・ヴェレでは「農水省の後援で、福島の食べ物だけを食べた一番かわいい学生を選ぶコンテストがあった」に化けたと思われます。)最近この類が特に海外で余りに多く、いったいこれは何なんだろうかと思っています。(まあ、いい加減な英語記事を出す日本の新聞が一番悪いんですが。)

そんなときに私が気晴らしに逃げる場所は、日本、世界の多くの人々が「うそつきだ」、とそしる東京電力のサイト。特に気に入っているのは、写真・動画集のページです。最近このページは改良され、日にち別、テーマ別、号機別のメニューまで出来ています。

最近では、3号機使用済み燃料プールのビデオ、4号機使用済み燃料プールのビデオを興味深く見ていました。特に3号機は、あれは「核爆発だ」とか「即発臨界だ」というのが海外の専門家を含めた一種の定説になっていましたので、燃料集合体のハンドルが見えたときには、おや、と思いました。もっともプールの一部だけしかカメラは撮影できませんでしたので、そのほかの部分で専門家の方々がおっしゃるように「核爆発」、「即発臨界」が起きていた可能性もあるのでしょう。

今日は2号機のトーラス室のビデオが出ていました。2号機からはざるのように放射能が漏れている、と言うガンダーセン氏の言も聞いていたので(4月17日ラジオインタビュー)、どんなざるかと思ったら、目に見える部分ではほとんど損傷が見当りませんでした。

一見にしかずです。たとえ東電の資料であっても。(何しろ東電しか資料を出してこないし出せないからですが。)

それよりいっそう興味深かったのは、最新の資料として東電のページに上がっている、3号機の格納容器機器ハッチ調査の資料

あまり注目が集まらなかったようですが、東電は去年の11月、3号機の原子炉建屋にパックボットを入れて、格納容器機器ハッチ前の溝の調査をしていました。パックボットに溝を撮影させ、溝に溜まった水をウェスでふき取らせていました。溝の線量は最高で毎時1.32シーベルト出ていました。(詳細は去年の11月16日のポストをご参照。)

つまり、汚染水が漏れていたのです

このときはハッチが開いているかどうかの言及はありませんでしたが、私はハッチから水蒸気が漏れているのだと思いました。

それ以降、この件については続報が無く、いぶかしんでいたところ、4月19日に東電は自社社員2名を3号機の建屋に入れ、格納容器機器ハッチのシールドプラグ隙間からカメラを差し入れて内部の床を撮影したのです。

姑息なことに、隙間の写真は去年の11月、パックボットが取ったもの。この写真は11月の時点では未公開です。(こういうことをやるから東電は信用を落とすんですが...)

やはり隙間が開いていたのです

去年の3月11日に地震が起きたとき、3号機は通常運転中でした。地震でスクラムがかかり、原子炉は停止しましたが、運転中の原子炉の格納容器のハッチのプラグが開いていたはずもありません。ということは、3号機の建屋が爆発したときの衝撃なのでしょうか?

ということは、あの爆発は「燃料プールの核爆発」ではなく、格納容器(ドライウェル)自体から、Ex-Vesselの爆発だったのでしょうか?

2012年4月19日の東電のプレス発表から(強調は私):

[目的]原子炉へ注入した冷却水が、原子炉建屋まで漏えいしている状況であり、原子炉建屋1階北東の原子炉格納容器機器ハッチからの漏えい状況を確認する。

[内容]
過去の映像より、機器ハッチ前のシールドプラグと原子炉建屋の間に隙間があることを確認
・シールドプラグと原子炉建屋の隙間からイメージスコープを挿入し、機器ハッチフランジの漏えい状況を確認。

[作業実績]
・作業時間:平成24年4月19日13:27 ~ 13:48(原子炉建屋に入域時間は約4分)
・作業員:当社社員2名(被ばく量最大:8.01mSv 計画:15mSv)

[原子炉格納容器機器ハッチの状況]
・原子炉格納容器機器ハッチフランジ部近傍の状況は確認でき、水が漏えいしていると思われる床面を確認
・今回の調査結果については、今後、詳細に確認。



隙間:



乾燥床面:



水の漏洩と推定される床面:

原子炉建屋に4分で8ミリの被曝。単純に被曝量が付近の空間線量と一致していると考えても、毎時120ミリシーベルト。その約2倍の15ミリを計画していたと言うことは、やはり去年の11月の時点でパックボットが計測していた毎時200ミリシーベルト以上の線量を予想していたのでしょう。

Saturday, April 14, 2012

(伝言ゲーム・パート2)新聞記事見出し比べ: 福島3号機使用済み燃料プールでクレーン発見(日本語新聞)→福島3号機のMOX燃料が入っている使用済み燃料プールに機械が落ち、プールが損傷した(英字新聞)

4月11日の「伝言ゲーム」ポストで、毎日新聞の日本語版→英語版→海外のブログと記事が書かれる過程で、「首都圏住民の避難を余儀なくされるという想定の最悪シナリオ」が「政府は現在首都圏全住民の強制避難計画の詳細を策定中」に化けた事例を書きました。

今回は内容ではなく、記事の見出し。またも出所は日本の新聞。

東電が4月13日に出した福島第1原発3号機使用済み燃料プールの内部の写真についての記事です。

まず、数社から拾った日本語記事の見出し。

朝日: 使用済み燃料プール内の画像公開 福島第一3号機
読売: 福島第一3号機、燃料交換機がプール内に落下
共同: プールでクレーン発見 3号機、爆発で落下か

これが英語になると、
朝日: New photos show damaged fuel storage pool at Fukushima plant (新しい写真で、福島原発の燃料貯蔵プールの損傷が明らかに)
読売: (存在せず)
共同: TEPCO finds 35-ton machine fallen in Fukushima No. 3 spent fuel pool (東電、福島3号機の使用済み燃料プールに35トンの機械が落下しているのを発見)
ジャパンタイムズ: Machine fell into MOX spent-fuel pool: Tepco (東電発表: MOX使用済み燃料プールに機械が落下した)

共同通信は日本語から英語になった時点でクレーンの重量の情報が付け加えられ、爆発で落下したのかという推測が消えていますが、特に問題はありません。日本語も英語も、機械(クレーン)が落下しているのを発見した、と正確に描写しています。

結構問題なのは朝日。日本語から英語になった時点で、日本語で単に「使用済み燃料プール」というだけだったのが、「損傷を受けた燃料貯蔵プール」、という風になっています。おそらく、記事の書き手は ”Damage in the fuel storage pool”、つまり、プールの中に破損したものが入っている、という認識だったのではと好意的に解釈していますが、朝日の英語記事の見出しを日本語の忖度ができない外国人が読むと、「プール自体が損傷を受けている」、と理解します。実際にプールが損傷しているかどうかは別にして、記事の中身は日本語も英語も同じで、プールの中にがれきが散乱しており、35トンの燃料交換機の一部が見つかった、というもの。プール自体の損傷についてはどこにも記載されていません。

しかし、英語の見出しをこのようにしたおかげで、見出しだけを見てすべてを判断する傾向がより強いアメリカ人などは、「3号機プールはやはり壊れているんだ」と考え、そのように記事にします。折も折、日本でもフォローする人々の多いガンダーセン氏が「3号機も危ない」とラジオ番組で発言したばかり。この朝日の英語記事の見出しを引用して、3号機の使用済み燃料プールは壊れていた、という印象を与える記事を出している英語サイトもあり、ブログ読者があわててリンクを送ってきました。(この英語サイトでは見出しに更に拡大解釈が付いて、「広範の損傷を受けたプール」ということになっていました。)

今回の伝言ゲームの最悪の結末はジャパンタイムズ。ジャパンタイムズの見出しは、3号機使用済み燃料プールに重機が落ちた、とあたかも落ちたのが最近のような印象を与えるに留まらず、3号機使用済み燃料プールにはMOX燃料が入っているかのような書き方になっています。共同ニュースの記事を引いている、ということになっていますが、共同ニュース英語版で現在検索できた限りの記事はジャパンタイムズの記事とは見出しも内容も異なります。

このジャパンタイムズの見出しが、多くの海外の読者が福島事故の情報を求めて訪れるENENEWSに出、それを見た読者が私のブログに、「これは大変だ!」とリンクを送って来ました。ジャパンタイムズを参考にする読者は朝日、読売、毎日、共同などの英語版の記事も参考にしますので、読者の頭の中では今回は朝日とジャパンタイムズの見出しを組み合わせ、その結果「MOX燃料が入っているプールに機械が落ちて、プールが壊れている!」という話が出来上がりました。

MOX燃料についてはまったくの「風評」、プールが壊れているかどうかについては現在のところ不明だが、見た限りでは見当たらなかった、というところが妥当だと思うのですが、もう既に外国人読者の頭の中では4号機に続いてMOX燃料の入った3号機の使用済み燃料プールも今にも壊れる、あるいはもう壊れている、というイメージが出来つつあります。

日本のメディアが外国メディアに対して「風評を煽る」、とはよく言えたものだなあ、と感心しています。

東電の出した3号機燃料プール水面、水中の写真をまだご覧になっていない方、こちらです

Wednesday, April 11, 2012

福島第一原発事故「伝言ゲーム」: 日本政府の「最悪シナリオ」には、首都圏住民が避難を迫られる状況が記されていた(毎日)→日本政府は首都圏3千9百万人の住人の強制避難の詳細計画を作成中(海外ブログ)

原発事故の発生から13ヶ月、事故に関して世の中を駆け回っている情報の質は向上しているとはいえないように思います。

これは最近の小さな事例。英語ブログの読者が「大変だ、これは本当か?」と送って来たリンクをざっと辿った結果です。

発端は2012年4月2日付けの毎日新聞コラム「風知草: 宙に浮く燃料プール」。そこにこのような記載があります。

「福島原発事故独立検証委員会」(いわゆる民間事故調)報告書は、原発事故の「並行連鎖型危機」の中でも4号機プールが「もっとも『弱い環』であることを 露呈させた」と書く。政府がまとめた最悪シナリオ(同報告書に収録)も4号機プール崩壊を予測。さらに各号機の使用済み燃料も崩壊し、首都圏住民も避難を迫られるというのが最悪シナリオだ。

これが毎日新聞の英語版、毎日デイリー(毎日サイトでは既にリンクが無いので、ここから取りました)になると、

A report released in February by the Independent Investigation Commission on the Fukushima Daiichi Nuclear Accident stated that the storage pool of the plant’s No. 4 reactor has clearly been shown to be “the weakest link” in the parallel, chain-reaction crises of the nuclear disaster. The worse-case scenario drawn up by the government includes not only the collapse of the No. 4 reactor pool, but the disintegration of spent fuel rods from all the plant’s other reactors. If this were to happen, residents in the Tokyo metropolitan area would be forced to evacuate.

毎日で日本語記事を英語記事にした際に、ちょっと見では気が付かないかもしれないミスがあります。さあどこでしょう?

それは最後の文章。それまでは日本語を忠実に訳していますが、最後になって文章を独立させてしまった。これがミスです。毎日デイリーの英語記事の文章、最後の2文を反訳してみます:

政府による最悪シナリオでは4号機の燃料プールの崩壊が想定されているだけではなく、原発内の他の原子炉すべての使用済み燃料が崩壊することが想定されている。もしそのようなことが起これば、首都圏の住人は避難を余儀なくされる。

元の日本語毎日記事では、「首都圏住民も避難を迫られる」のは政府(実際は原子力委員会)が想定した最悪シナリオの一部として記載していますが、英語部分ではこの部分を最悪シナリオの言及を省いた文章にしたため、これが政府のシナリオの中の想定ではなく、この文章を書いたコラムニストの見解である、という捕らえ方が可能になる書き方です。

実際、毎日デイリーで英語記事を読んだ読者はそう思ったようです。また、毎日の英語に頼った海外のサイトもそのように解釈し、記事に仕立てました。上記のMainichi Dailyの記事コピーをとったサイトでは、”It’s Not Over: Government Plans for the Worst: Forced Evacuation of Tokyo (事故はまだ終わっていない: 日本政府の最悪の事態に備えた計画: 東京の強制避難)”というタイトルの記事で、

Even more alarming is that the U.S. Nuclear Regulatory Commission (NRC) and other agencies have warned that the nuclear storage pools (the containment units that are being used to cool the nuclear fuel) have been damaged and may collapse under their own weight.

さらに恐ろしいのは、米国原子力規制委員会などの省庁が核貯蔵プール(核燃料を冷却するために使用される、格納ユニット)複数が損傷しており、自重で崩壊するかもしれない、と警告していることである。

Such an event would cause widespread nuclear fallout throughout the region and force the government to evacuate the nearly 10 million residents of Tokyo and surrounding areas, a scenario which government emergency planners are now taking into serious consideration.

このような事態が起きると広範囲に放射能が広がり、日本政府は1千万人の東京都民および周辺地域の住民を避難させざるを得ない。そのようなシナリオを日本政府の緊急災害対策担当者は真剣に検討を始めている。

使っている用語を見る限りこれを書いた人は原発のことをあまり知らない人だろうと思われますが、このサイトの残りの記事を読むと、日本政府が検討している、という話の根拠は毎日デイリーの記事のみ。悪いことには、このような海外メディア(特にブログ)は、「最悪シナリオ」を管政権が「存在しないこと」にして握りつぶしていたことをおそらく知らないため、「最悪シナリオ」を政府が持っているということは政府はそれに基づいて計画を立てているのだ、と短絡的に思い込み、このような記事を書きそれが全世界に広がる、という事態になっています。(知っていて書かなかった可能性ももちろんあります。)

このサイトを更に引用しているのがこのサイト。タイトルは更にエスカレートして、”Fukushima Forcing Tokyo To Evacuate! (福島事故で東京は強制避難に!)”、内容も更にエスカレートして、

If the storage pool were to fracture, the nuclear fuel would immediately heat up and explode. Radioactive fallout would be dispersed over a wide and uncontainable area. At this time now, the Japanese government are creating blueprints for forcibly removing 39 million people from the Tokyo metro-area.

貯蔵プールにひびが入れば、核燃料は直ちに加熱して爆発する。放射能が広い地域に拡散し、拡散を抑えることは出来ない。現在、日本政府は、首都圏の3千9百万人の住民を強制的に避難させるための詳細な計画を作成中である。

(ちなみにこのサイトは上記の記載の直前に、「日本では放射能の不安を口にする人々を精神病院に監禁している」という出典不明の文章があります。)

というわけで、元は単に

民間事故調の報告書にも掲載されていた日本政府の「最悪シナリオ」には、首都圏住民が避難を迫られる状況が記されていた

というだけの話が、

日本政府は首都圏3千9百万人の住人の強制避難の詳細計画を作成中

に化けました。

これが日本に逆輸入される日も近いでしょう。(既にされていますかね。)海外のネットメディア、メッセージボードなどでは、この話で持ちきりのところもあります。大変だ、日本脱出だ!というわけです。折も折、福島4号機が倒れるとか、4号機使用済み燃料プールにひびが入れば地球は終わりだ、というような発言が国内外で再び相次いでいる昨今、このようなブログ、ウェブサイトの「妄想」はそのまま信用されているようです。

実際に、英語ブログでこの妄想を指摘したところ、「でもありうる話だ、何しろ4号機が倒れそうなんだから」という答。それと、二言目には「日本政府、東電、マスコミの言うことは信用できない」。そんな計画など、立てたくても立てようがないだろう、という真っ当な意見はわずか1名。

こと福島原発事故、放射能汚染についての報道でマスメディアを信用しない傾向は日本も外国も同じようになってきましたが、かといって独立メディアやネットメディアが信用できるわけでもありません。マスメディアとひっくくられる中に入るニューヨークタイムズ紙などでも、日本在住の記者が取材に基づいて書いた丁寧な記事が出ます。ただ、そのような優秀な記事でもまずニューヨークタイムズに出た、と言うだけで疑いの目で見られ、扇情的なことも書いていないので「信用されない」というおかしなことになっています。

結局、読み手が賢くなって情報を精査できるようになるしかないのですが、そこまでする時間がまずないのでしょう。事故から1年以上経って、そこまでする気力もなくなってきているように思えます。特にこの1、2ヶ月で、このような「伝言ゲーム」がずいぶん増えているような気がします。そして、そのゲームの一番最後の方に登場する、大本の情報からかけ離れた言葉が独り歩きしています。

皮肉なことに、発端を作った毎日新聞はオンラインのサイトを再構成し、英語版と日本語版のサイトを合体させ、「英語を学ぶ日本人の読者もターゲット」にする、とのこと。まあ、この例で見た限りは、毎日の記事で英語を勉強したらちょっとずれるかな、と思います。

Saturday, April 7, 2012

米ブルームバーグニュース:今までに日本が行った食品放射能検査の件数は、去年ベラルーシが行った件数の1%

2012年3月18日付けの米ブルームバーグニュースは、農林中金総合研究所の理事研究員、石田信隆氏の言を引用して、このように述べています:

Inadequate testing by the government of rice, milk and fish from the region has prompted consumers to leave them on supermarket shelves and instead select produce from other regions or from overseas. Checks conducted nationwide so far are only 1 percent of what Belarus checked in the past year, a quarter century after the Chernobyl disaster, according to Nobutaka Ishida, a researcher at Norinchukin Research Institute.

政府による検査が不十分なため、消費者は[福島産の]コメ、牛乳、魚がスーパーに並んでいても買わず、他の地域産、あるいは外国産の物を選んでいる。これまでに全国で行われた検査の点数は、チェルノブイリ事故から4半世紀[25年]経った昨年、ベラルーシが行った検査の点数のわずか1パーセントに過ぎない、と農林中金総合研究所の研究員、石田信隆氏は言う。

更に、東京のJSC Corp商品取引アナリストのシゲモト・タカシ氏の言を引き、

“Consumer worries may deal a severe blow to farming in the region for the next five years or more,” said Takaki Shigemoto, commodity analyst at research company JSC Corp., in Tokyo. “The number of farmers will decline and agricultural production will decrease, leading to further increase in Japan’s farm imports.”

「消費者の不安は、今後5年あるいは更に長い間、福島の農業に大きな痛手を与えるかもしれない」、と言うのは、東京のJSC Corpの商品取引アナリスト、シゲモト・タカシ氏である。「農業従事者の数が減り、農業生産が落ち、日本の農作物輸入が増加する。」

福島第1原発事故自体の初動対応からケチがついた日本政府は、昨年4月以降放射能汚染の実態が明らかになってからも対策は後手にまわり、消費者とすれば自衛するしかありません。

農林中金の石田氏が言うとおり、日本の食品放射能検査の件数が昨年のベラルーシのわずか1%だったとすれば、それで安心する消費者がいるのが不思議なくらいですね。

ベラルーシの検査件数については既にご存知の方も多いと思いますが、金融機関のアナリストの発言の中での言及だったのが興味深い。福島および日本の農業のあまり芳しくない将来展望に、彼らはどのような投資機会を見出しているのか、知りたいものです。

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追加情報(4月9日):

「めぐ」さんのブログで、更に詳しい考察があります。人口比で考えると、日本はベラルーシの1330分の1の検査数の可能性:

http://ameblo.jp/megumi-jk/entry-11217848493.html

Tuesday, April 3, 2012

「東電、福島の木くず拒否」の読売新聞報道日本語版に欠けていた情報

読売新聞オンラインに2012年4月3日付けで、「東電、福島の木くず拒否…積み上がり発火恐れも」という記事が出ていました。

同じトピックで英文記事が存在し、英語版の読売新聞であるYomiuri Dailyに4月4日付け記事として出ています。記事の3分の2ほどは、文章の順序が日本語と多少違うものの内容は同じものをカバーしています。ところが、英文記事の後半の3分の1に、日本語の記事にまったく存在しない内容が出ています。

福島第1原発事故から13ヶ月になろうとしている現在でも、事故当初の1、2ヶ月と同じように、英語と日本語で同じ新聞社でも出す情報が違う、ということをまだやっているのか、それとも読売新聞の紙面では英文記事と同じ内容が出ていたのか、不明です。

まず日本語記事

東京電力福島第一原発事故の影響でがれき処理が問題になる中、製材で発生する木くずでも、受け入れを巡り業者が苦境に立たされている。

 一部で高い濃度の放射性セシウムが検出されたこともあって、行き場を失った木くずは福島、栃木両県で計約2万5000トンに上る。業者は東電の火力発電所で燃料として使ってほしいと要請したが、東電は拒否。林野庁などは「風評被害をあおりかねない行為」として、近く東電に受け入れを要請する。

 「このままでは工場の操業がストップしてしまう。廃業に追い込まれる業者も出るだろう」。福島県内の製材業者など約200社で作る県木材協同組合連合会(福島市)の幹部は頭を抱える。

 悩みの種は、木を切り出し、製材する過程で剥がす樹皮。通常は、堆肥や家畜の寝床用に1トン1000円前後で引き取られる。

 だが、原発事故後の昨年8月、林野庁の調査で一部の樹皮から1キロ・グラム当たり最大約2700ベクレルの放射性セシウムを検出。その後は同200~300ベクレル程度に下がり、国の定める堆肥の基準(同400ベクレル)より低くなったが、それでも、毎月4000トン発生する樹皮のうち、引き取ってもらえるのは4分の1程度だ。

 連合会によると、現時点で計2万トンが業者の敷地内などに仮置きされている。圧縮しても高さ4~5メートルほどに積み上がり、発酵して発火する恐れもあるという。同様の問題は隣接する栃木県にも及び、3月時点で十数業者の抱える計約5000トンが処理できない状態だ。


そして、英文記事にだけ存在する箇所:

まず、「県木材協同組合連合会(福島市)の幹部」の方のお名前: ムナカタ・ヨシアキさん

そして、

The association came up with the idea of using the wood chips as fuel to generate thermal power. Chugoku Electric Power Co. began power generation by burning coal and wood biomass such as bark simultaneously in 2005. Since then, other utilities have followed suit and TEPCO had also planned to start from this fiscal year.

[県木材協同組合]連合会は木くずを火力発電の燃料として使うアイデアを思いついた。中国電力は2005年、石炭と木の皮などの木質バイオマスを同時に燃焼して発電を開始した。以来、他の電力会社も同調し、東電も本年度から同様に発電を開始する計画だった。

The association said it asked TEPCO to take the wood chips on four occasions between October and February, but the requests were declined.

連合会によると、昨年の10月から今年の2月にかけて4回、東電に木くずを受け入れるように要請したが、そのつど拒否された

TEPCO initially told the association that using the wood chips to generate thermal power is technically difficult. But the utility later changed its rationale, saying such a measure is difficult to be taken at the moment because burying ash that contains radioactive cesium requires consent from local residents.

東電の連合会に対する当初の説明は、木くずを火力発電に使うのは技術的に難しい、というものだった。しかし、その後、放射性セシウムを含む灰を埋め立てるのには地元住民の同意が必要であるため、そのようなことを行うのは現在は難しい、という理由に変わっている

According to the Forestry Agency, the density of radioactive cesium in ash from burned bark is about 30 times higher than that of bark before incineration. But the radiation level for the bark ash is expected to be less than 8,000 becquerels per kilo-gram--an allowable level for landfill.

林野庁によると、樹皮を燃やした灰に含まれる放射性セシウムの濃度は、燃焼前の樹皮に含まれる濃度の約30倍になる。しかし、樹皮を燃やした灰の放射能レベルは、処分場に埋め立てが可能なキロ当たり8000ベクレル以下になるものと予想される。

Officials of the Forestry Agency and the Natural Resources and Energy Agency view TEPCO's refusal as an act that goes against the purpose of the special law requiring the utility to cooperate in antiradiation measures. The agencies therefore plan to ask TEPCO to take in the bark, the sources said.

林野庁と資源エネルギー庁は、東電の拒絶を、東電が除染対策[だと思う]に協力することを求めた特別措置法の目的に反する行為だと見ている。関係者によると、両庁は東電に木くずを受け入れるよう要請する予定とのことである。

Meanwhile, a TEPCO spokesperson said the refusal is due to concern over a stable power supply.

一方、東電のスポークスマンは、木くずの拒否は安定電力供給についての懸念によるものだ、としている。

"If we don't have clear prospects for disposal of the [bark] ash, that would affect operations of our power stations," the spokesperson said.

樹皮からの灰の処分についてはっきりした目処が立たないと、発電所の運転に支障が出るからです。」

樹皮を燃やすとセシウム濃度が30倍になる、と日本語の記事に書けないのでしょうか?

読売の記事によると樹皮のセシウム量は一時より下がって「300ベクレル」ですが、これが灰になって濃度が30倍になるとすると、キロ当たり9000ベクレルとなり、環境省が勝手に全国基準にしてしまった通常埋め立て基準8000ベクレルを軽く超えます。

(ちょっと待った。下がって、と言うけれど、セシウム137の半減期は30年、1年で2700ベクレルのものが300ベクレルに下がるわけが無い。つまり、取ってくる場所が違っているだけでしょう。)

今年の3月27日に林野庁が発表した木質ペレットの燃焼試験結果では、広葉樹樹皮から作ったペレットのセシウム濃縮は20倍以下になっていますが、検体はわずか2検体。(ちなみに、他の木質ペレットの濃縮度は100倍から200倍、最高は243倍です。)読売が根拠とした林野庁の資料は、ざっと見た限りなのでまだ見つけていません。(ご存知の方お知らせください。)

ちなみに、林野庁のウェブサイトには、(樹皮の付いた)薪を燃やすとセシウム濃度が182倍になる、と書いてあります。林野庁では、8000ベクレルを超えないために、薪の放射性セシウム濃度をキロ当たり40ベクレル、としています。この濃縮度を福島の木くずに当てはめると、300ベクレルの182倍で5万4600ベクレルとなり、埋め立て不可能の濃度になります。今年の2月、福島産の薪を使っていた沖縄の飲食店で、使用後の灰からキロ当たり4万ベクレル近いセシウムが出ています。

また、放射性セシウムを含む灰を埋め立てるには地元の住民の同意が必要、と言うのも、書けないのでしょうか?英文の当該段落では、埋め立てるベクレル数は明示していません。

さて、この件では、東電がんばれ。木くずを引き受けるだけならともかく、火力発電所で焼却させられたら、付近の住民は堪ったものではありません。

とりあえず福島第1原発の敷地に仮置きするくらいは出来そうですが。

また、ツイートで出しましたが、読売英語記事を読んだ英語ブログ読者から、

細野が東京都知事を連れて、メガホンを持って東電本社に行き、「(木くずを)焼却して福島の復興を助けましょう!」と叫ぶパフォーマンスが見られるかね、まあ無理だろうが

とのコメント。(見たい。)

Sunday, April 1, 2012

「福島第1原発事故で、2号機原子炉から大量の放射性物質が大気中に放出されるシナリオ」 - 圧力抑制室と格納容器の損傷

という論文が、Journal of Nuclear Science and Technology Volume 49, Issue 4, 2012 (日本原子力学会の公式雑誌)に掲載されています。論文を書いたのは社会技術システム安全研究所田辺文也氏。去年の8月に、3号機は2度炉心溶融を起こし、その2度目が3月21日ごろで、圧力容器から格納容器に燃料が落ち、そのために大量の放射能が拡散されて東北関東の広い地域で放射線量が跳ね上がった、という仮説を出された方です。

また、11月19日には、2号機の圧力抑制室は3月11日の地震で損傷を受けたか劣化した可能性が高い、という解析を発表されています。今回の論文は、この11月の解析の論文のようです。

論文概要を見ると、それに加え、3月15日の早朝に、溶融炉心からの高熱のために格納容器も損傷している可能性を挙げています。

Taylor & Francis Online掲載の論文概要の私訳:

福島第1原発事故で、2号機原子炉から大量の放射性物質が大気中に放出されるシナリオ

田辺文也

概要

炉心溶融事故について、計測されたデータの解析と計算結果の検討に基づき、2号機から大量の放射性物質が放出されるシナリオを考察する。格納容器圧力抑制室(S/C)は、2011年3月11日の巨大地震による地震荷重のみによって、あるいは地震による劣化と逃がし安全弁からの蒸気流入による動的荷重によって、3月12日の正午までには損傷していた可能性がある。逃がし安全弁(SRV)2つを3月14日21時18分に開放したことによって大量の放射性物質が圧力抑制室の損傷部分から放出された可能性があり、21時37分、原発正門付近での空間線量が毎時3.13のマイナス3乗シーベルト[3.13ミリシーベルト]を記録している。格納容器ドライウェル(D/W)は3月15日6時25分に、圧力容器から格納容器ドライウェルの床上に落ちた溶融燃料から来る高温のためにケーブル貫通部のシールが損傷し、格納容器が損傷した可能性がある。格納容器損傷部分から大量の放射性物質が拡散された可能性があり、3月15日の午前9時には空間線量が最高毎時1.193のマイナス2乗シーベルト[11.93ミリシーベルト]に達した。

A scenario of large amount of radioactive materials discharge to the air from the Unit 2 reactor in the Fukushima Daiichi NPP accident

Fumiya Tanabe

Abstract:

Based on an analysis of the measured data with review of calculated results on the core melt accident, a scenario is investigated for large amount of radioactive materials discharge to the air from the Unit 2 reactor. The containment pressure suppression chamber (S/C) should have failed until the noon on 12 March 2011 only by seismic load due to the huge earthquake on 11 March or by combination of seismic deterioration and dynamic load due to steam flowing-in through safety relief valve. Opening of the two safety relief valves (SRVs) at 14 March 21:18 should have resulted in discharge of large amount of radioactive materials through the S/C breach with the measured air dose rate peak value of 3.130E-3Sv/h at 21:37 near the main gate of the site. The containment drywell (D/W) should have failed at 15 March 06:25, at the cable penetration seal due to high temperature caused by the fuel materials heating up on the floor of the D/W, which had flowed out from the reactor pressure vessel. Then large amount of radioactive materials should have been discharged through the D/W breach with the measured air dose rate peak value of 1.193E-2Sv/h at 15 March 9:00.

(H/T 名古屋大遠藤知弘さん@hyd3nekosuki)