Tuesday, September 22, 2009

経済不況脱出政策:日米中の比較

1930年代の世界大恐慌以来の経済危機、と誰もが言う、アメリカのサブ・プライム・ローン危機に端を発した現在の経済不況。さて、これを克服するために世界の主要先進国、途上国を問わず、政府が前面に出て、主に金融操作、経済刺激策(まあ、金のバラまきですね)で事を解決しようとこの1年間、いろいろやってみたものの、成果が出ている、と公言しているのはアメリカでは政府関係者のみ。

アメリカでも、企業のレイオフはペースが鈍ったものの依然として高い水準、実質賃金の減少、労働時間の更なる短縮の傾向が続き、不況のきっかけとなった金融機関の劣悪な資産は依然としてそのまま。今年の年頭から急速に増加したものと言えば、国の借金(債券)と、「Czar」と通称される大統領直属の私的顧問の数ぐらいでしょう。

そんな中、世界の3大経済、アメリカ、日本、中国は、どのような政策で不況脱出を図ろうとしているのでしょうか?この3か国を見る限り、不況脱出は残念ながら不可能ではないか、と悲観してしまう今日この頃です。

まずアメリカ。この夏以来、人気がどっと落ちたオバマ大統領ですが、路線はまったく変わらず。医療改革が何としても第一、という、不可解な姿勢もまったく変わっていません。上院の委員会で討議されている改革案には、高額の医療保険に入っている人々から追徴金を取る、とかいう、とんでもない条項が入っています。また、耳掻きから生理用品、コンタクトレンズの果てから高度医療機器まで、「医療器具」と引っくくって課税する、と言う案が出ています。下院の委員会を通過した改革案(H.R.3200)は、医療保険に入っていない人々すべてから追徴金を取る、従業員に保険を提供しない企業(雇用の大半を生み出す中小企業です)に追加課税、大統領任命のコミッショナーに、税金納付の詳細から銀行口座の詳細まで、あらゆる情報のアクセスを許す、など、この「改革」なるものが成立してしまったらアメリカは二度と不況から立ち上がれないのでは、と思わせるような条項ばかり。しかも悪いことに、日本に先駆けて、キャップ・アンド・トレードが下院を通過してしまいました。

次に日本。民主党に政権が変わり、そのこと自体は非常に良いことだと思います。ただ、残念なのは、民主党がマニフェストなるものに掲げている政策の多くは、アメリカの民主党の政策の引き写しのようにしか見えないことです。その最たるものが、民主党の掲げるキャップ・アンド・トレード。これがアメリカの引き写しだとすると、現在の税金に更に20%上乗せするようなものです。しかも、企業が支払うのではなく、国民が広く負担することになります。

最後に中国。日本以上に輸出に経済を頼る中国の不況脱出の政策は?昨年末の経済刺激策で巨額の政府資金をばら撒いたおかげで、上海株式市場は急上昇しました。と同時に、インフレも上昇、政府は銀行の貸出し条件を強化する方針のようです。ばら撒き政策以外には、と見てみると、何と福祉政策が不況脱出策として挙げられているではありませんか。詳細は英語版のブログ・ポストを参照していただけると幸いですが、例えば、政府企業所有の鉱山からの垂れ流しで汚染された川の水のために、村人がガンで苦しみ、作物にも重大な被害が出ている、と言ったそのすぐあと、「だから中国も国家レベルの医療福祉体制の強化が必要」という結論なのです。それより汚染を何とかするほうが先だろうに、と私などは思ってしまいますが、どうも違うんですねえ。

英語ブログ・ポストの2つ目のリンクはBBCラジオのインタビューで、モルガン・スタンレー・アジアの会長(社長かな?)Stephen Roach氏が登場。中国の不況脱出には「福祉政策」の充実が第一、医療保険、失業保険、年金などの、社会の「安全ネット」を充実させれば、国民も安心して稼いだ金を貯めこむ代わりにどんどん使うだろう、と言うのが論理のようです。Roach氏のすぐ後に登場する中国政府関係者もそれにすっかり同意している様子。

日本で郵便局を民営化したのはアメリカの住宅バブルの絶頂期でしたねえ。郵便貯金を狙ってアメリカ、ヨーロッパの投資銀行がどっと押し寄せたようですが、中国に「福祉政策」とやらをけしかけて、集まるであろう巨額の資金を、多分モルガン・スタンレーを初めとするアメリカの銀行は狙っているんでしょう。(中国はイギリスのアヘン貿易を覚えていないのかなあ。)

経済不況脱出の政策が「医療政策」(アメリカ)、「環境政策」(日本)、「福祉政策」(中国)。どれをとっても、経済不況の只中に、国民の負担を増加するものばかり。Does it make sense to you?

私はオーストリア学派の経済学の考え方に賛成で、政府が前面に出て経済を牽引するのには反対です。牽引など出来ないどころか、より事態を悪化させると思っています。日米中政府の政策を見ると、最大課題の経済不況脱出を助ける、あるいは妨げないどころか、個人、私企業の自助努力を妨害し、更に不況に追い込みかねないのでは、と危惧しています。

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