Wednesday, January 2, 2013

2013年初の伝言ゲーム:「福島および首都圏の多くが放射線管理区域並みの汚染」→「東京は福島とほぼ同じくらいの放射線照射を受けている」


事故から1年10ヶ月目を迎える2013年の元日。今になって、「首都圏は福島と同じくらい汚染されている!」という日本語のツイートを見かけました。年末にも、英語ブログ読者が同趣旨の英語記事のリンクをコメントセクションに張ってきました。

なんだろうこれは、今度は何の情報が交錯しているんだろう、と思い、リンクをすべて辿ってみたら、やはり「伝言ゲーム」でした。新年早々脱力ですが、交錯した誤情報で皆様が必要のない心配をなさるのがどうも我慢できないので、辿ったリンクをご紹介します。

まずは、2013年1月2日のツイートから、一つ例を。

『東京は福島と、ほぼ同じくらいの放射線照射を受けている。』


このツイートに出ているリンク先のブログの1月2日付けの記事で紹介しているのが、この

『東京は福島と、ほぼ同じくらいの放射線照射を受けている』

と翻訳された英語の記事のタイトル。元の英語タイトルは、

Tokyo area turned out to be as contaminated as Fukushima -Kyoto Professor


というもので、「東京地区は福島と同程度に汚染されていることが判明した、と京都大学教授」、とでもなりましょうか。放射線照射(irradiation)とは言っていませんが、京都大の教授が東京地区と福島の汚染を同等に見ている、という意味でしょう。

さて、この英文記事タイトルのリンクは、Washington's Blogというブログに2012年12月27日付けで出たポストの一番上に、このブログの筆者が出したものです。筆者はアメリカ人で、日本語を解しません。リンクの記事の信憑性を疑うすべはありませんが、疑おうという姿勢はどうも見られません。

Washington's Blogのポストに出ているリンクを辿ると、行き着く先はEnenewsの2012年8月11日付けのポスト

そこでのタイトルはWashington's Blogとほぼ同じで(日本語訳は私です)、

Japan Newspaper: Tokyo area turned out to be as contaminated as Fukushima -Kyoto Professor

「日本の新聞: 東京地区は福島と同程度に汚染されていることが判明した、と京都大学教授」


と、なっています。更にEnenewsのポストには(日本語訳は私です)、

August 4, 2012 report in the Hokkaido Newspaper translated by Fukushima Diary:

According to government’s research, Tokyo area turned out to be as contaminated as radiation controlled area like in Fukushima.

北海道の新聞の2012年8月4日付け記事、Fukushima Diaryによる翻訳: 「政府の調査によると、東京地区は福島にあるのと同じような放射線管理区域と同程度に汚染されていることが判明した」


え?

まさかと思いますが、radiation controlled areaという言葉を、放射線管理区域ではなく、福島県の原発事故による放射能汚染によって避難区域に指定された区域と考えて使っているわけではないといいのですが、と思い、恐る恐るFukushima Diaryを覗いてみると、2012年8月11日付けポストに(強調は私です)、

“According to government’s research, Tokyo area turned out to be as contaminated as radiation controlled area like in Fukushima. Millions of people are living in radiation controlled area, where I work with a small nuclear reactor.”


これを見たEnenews(こちらも日本語は解しません)は、英語の文法どおりに文章を読み、東京は放射線管理区域と同程度に汚染されている、放射線管理区域と言うのは、福島にあるような地域を指す("like in Fukushima")、と文法的に正しく理解して、記事のヘッドラインを「東京地区は福島と同程度に汚染」としたような気がするのです。

ポストには元記事と思われる画像が出ていました。北海道新聞の、2012年8月4日の記事です。「京都大学教授」というのは小出先生のことで、小出さんが同志社大学で講演をした際の小出さん自身の言葉をそのまままとめたという形式で、書かれています。画像はaikido.co.jpさんからのものです。(元はPDFファイル

さて、その当該部分の元の日本語の記事はこうです。

京大にはおもちゃのような原子炉がある。実験室は放射線管理区域といって、出るとき、1平方メートルあたり4万ベクレルの汚染があると出られない。

ところが政府調査で、福島はもちろん首都圏の多くが同じくらいの汚染と分かった。何百万人もが放射線管理区域に住んでいる。


「東京が福島と同等に汚染/放射線照射」、などとは小出先生は言っていないのです。首都圏の多くが放射線管理区域と同じくらいの汚染だということが分かった、と言っているだけなのです。

小出さんは原子力研究の専門家です。小出さんの使う「放射線管理区域」というのは、日本にいくつもある法律で明確に規定されているもので、

アルファ核種で1平方センチメートルあたり4ベクレル(従って1平方メートルなら4万ベクレル)
アルファ線を出さない核種で1平方センチメートル当たり40ベクレル(従って1平方メートルなら40万ベクレル)

その10分の1、というのが放射線管理区域の設定基準ですから、アルファ以外の核種による汚染で1平方メートル4万ベクレルの汚染があれば、法律の定義的にはそこは放射線管理区域である、と小出さんはおっしゃっているわけです。

小出さんは東京、ではなく、首都圏、とおっしゃっていますが、外国人はTokyoと聞くと、東京都、と理解する人が大半でしょう。

北海道新聞の記事の上記当該部分を小出さんの意図どおりに英訳してみると、

Kyoto University has a nuclear reactor. Almost like a toy reactor. The laboratory is designated as radiation controlled area, and you cannot exit the laboratory if there is 40,000 Bq/m2 contamination.

However, the government survey found that not just Fukushima but many parts of Tokyo Metropolitan areas were as contaminated as in radiation controlled area. It is as if millions of people were living in radiation controlled area [as defined by law].


というところでしょうか。

北海道新聞が昨年8月に記事にした小出さんの言葉が曲訳され、それが英語でアメリカに広まり、それをまたWashington's Blogが「年末大特集」とでも言うように、彼が去年集めた有象無象のリンクをまとめたポストを書き、それが日本のブロガーの目に留まりブロガーはその英語ポストだけを見てポストを書き、そのブログポストが日本人読者の目に留まり、それがツイートで流れる。

そういえば去年の夏過ぎにも盛んに「東京の汚染は福島と同じくらいひどい」という記事や発言をアメリカで多く見かけ、これは一体どこから来たんだろう、といぶかしく思ったのを覚えています。

日本の人々は福島の汚染がどの程度なのか、現在は事故当初よりはるかに正確に把握しています。ところが外国から発信された(実は日本発なんですが)英語の記事に、東京と福島は同程度に汚染されている、ということが書いてあるらしい、これは大変なことだ、日本政府はまだ嘘をついているのか、と発展し、大本の小出先生の発言は原型をとどめないくらいまで変形してしまいました。

日本はアメリカや海外の援助を要請するタイミングを外した、と2011年の3月末にブログで書いた覚えがあります。英語で書いたか、日本語で書いたか、忘れましたが、福島原発事故の記事は海外の大手の新聞、テレビその他のメディアでは3月末でばったり途絶えました。それ以降、海外で福島事故の情報を得ようとすれば、情報源は非常に限られています。現時点では、日本と比べるとほとんど真っ当な情報がありません。何をもって真っ当と呼ぶか、にはまあ議論があるところですが、裏が取れていない、あるいは取れようがないような情報が「真実」として、福島事故を今でも追っている人たちの間で多く流れています。

この数日話題の、アメリカの水兵が東電相手に訴訟を起こした、という記事も、訴状を読んだ英語ブログ読者から、脚注で「論拠」、「証拠」として挙がっているのはWashington's Blog, Fukushima Diary, Enenewsだ、との情報。見てみたらその通りでした。


外国語(この場合英語)で書いてあるから、信憑性が高い、信じられる、と思い込むのは、今年はもうやめませんか?

6 comments:

  1. >訴状を読んだ英語ブログ読者から、脚注で「論拠」、「証拠」として挙がっているのはWashington's Blog, Fukushima Diary, Enenewsだ、との情報。見てみたらその通りでした。

    訴状を一通り読んでみた者ですが、論拠、証拠として上記のサイトへのリンクが記されているのは、数多のfootnotesのうちの、ごく数件だけでしたね。
     
    さらに、それらリンク先の「元ソース」を辿ってみますと、その情報ソースはTepcoのHPであったり、University of South Carolinaであったりすることがわかります。

    Enenewsなどのサイトの情報だから云々と決め付けてしまわれる前に、その情報の元ソースがどこから出ているものなのかを、面倒でも一つ一つ確認されてみてはいかがでしょうか。。。

    失礼いたしました。

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    1. 別に決め付けたつもりはございません。ブログ読者の言うとおりだった、と申し上げたまでです。

      私も脚注はチェックしました。脚注の中には出典が無いもの、リンクが切れているもの、リンクを辿れるもの(大学研究者の論文など以外)では、そこの元データはブログ、新聞記事、その元データは東電であることもありますが、訴状が引いているのはリンク先の記事の筆者の個人的な見解であることも。

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  2. Hey, la primavera, great post. I'm afraid this year we are going to continue with the circus of mis-translations and chinese whispers. This year, and the next, and the next, and finally someone would gather all the bullshit and write a book called "Japan's Hidden Nuclear Genocide" or something similar. Happy New Year!

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  3. 検証ご苦労様です。

    私も以前(震災から数か月だけ情報収集のため)ツイッターを利用しておりましたが、テレビやメディアが報じていないスクープ的な断定的発言の7~8割が虚偽や推測の域を出ないものであることに嫌気をさし、利用を止めました。もちろんその有用性を全否定するつもりはありませんが、やはり裏付けの重要性という観点からみた場合、企業や個人の実名を提示し、記事の正確性を期すための取材を欠かさないメディアに分があることは否定できないと思います。

    ところで、記事中のアメリカ兵による東電相手の訴訟、個人的には大変気になっております。もちろん結論がどうなるかという点なのですが、もし万が一にでも原告勝訴となった場合、福島市在住の私も米国で訴訟を起こして億万長者にとかいう妄想を抱いておりますので(笑)。この続報も楽しみに待っております。それでは、失礼いたします。

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  4. 推進する時は「演繹法(えんえきほう)」で押し進め、批判する時は「帰納法(きのうほう)」で揚げ足を取る。これはインターネット内に限らず、世間一般に見受けられる現象です。それを嫌って「帰納法」で主張を徹(とお)そうとすれば、細かい事実で足を引っ張られ、結局、主張そのものが間違っていると結論付けられてしまいます。

    今、日本のメディアでは「部活動での体罰自殺」が大きく取り上げられていますが、0歳~19歳の自殺率は日本全体の3%に過ぎず、40%近くは40~50歳に集中しています。大手メディアは、この社会システムの不具合に切り込む勇気など全くありません。貴方は、例え事実に不備な点があったとしても、ご自分の主張をとおされることを切に願う次第です。

    では、また。

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  5. 米中西部よりいつもありがたく拝読させてもらっております。 情報源を検証しなかったため、まったく誤った危ない情報がインターネットで次々にチェックなく広まるという点で、被爆対策に困ってる一般日本人の窮地につけこんで、とんでもない情報が広まってるのを発見しました。よかったら英日で報告してあげてください。

    今日本で「姫川薬石」とか「放射性物質から身を守るためにラジウム石を使おう」とかいうのが流行ってるのをご存知ですか? たまたま、あの南相馬のブロガー「ぬまゆ3ブログ」を久しぶりに読んだら、彼女が「姫川薬石」で痛かった腕が治療できたなどと書いておられたので、何のことかと調べてみたら、これはなんとラジウム石であることがわかりました。(ぬまゆ3のポスト http://vera5963.blogspot.jp/2013/01/blog-post_18.html | http://vera5963.blogspot.jp/2013/01/blog-post_15.html )

    しかも、グーグルすると殆どの検索結果が「姫川薬石」つまり天然ラジウムによる被爆対策とか健康増進とかの情報で、日本のアマゾンでさえラジウム石の製品を多数販売していてびっくり仰天しました。どうも、日本は、天然放射能物質(土、石、温泉)のリスクを理解する風潮がなく、反対に天然放射能こそ健康利益ありと信じて、法律管理がない(人形峠ウラン鉱山残土の例)ので、ラジウム石などで作ったブレスレットや温泉湯などが一般市民製品として自由に出回ってるようなのです。「広島、長崎で被曝した人は厚生省が指定した全国のラジウム温泉で被曝治療をしました」とか「ラジウム石による治療に健康保険が使える」というびっくりするような情報サイトもあり、これらを見たほとんどの人が頭からラジウム石の安全性を信じているようなのです。

    ラジウムといば、昔は夜光塗料として腕時計晩に塗られてました(東京あたりでラジウムの入ったビンが民家の床下から発見された事件がありましたよね)。日本ではラジウム湯とかラドン温泉とかも私が子供の頃は人気だった気がします。

    ラジウム鉱石はアルファ線を出すそうですから、ラジウム石を水につけると、その放射能エネルギー自体は水でさえぎられるかもしれませんが、ぬまゆさんはどうもその石を多数入れた風呂桶につかっておられるようですから、石に直接接してることになります。また、ラジウム石からはとラドンなどの有毒気体がでますから、それを吸入したら内部被爆になるのではないしょうか。(彼女のブログは書き込み機能がないので、彼女に直接これをお伝えする手段がありません)

    キューリー婦人はラドンの青白い光に魅せられてラジウム石を頻繁に触っていたらしく、彼女の直筆原稿や料理メモは今でも放射汚染され鉛の箱に貯蔵されているほどです。彼女のアシスタント達も彼女もついには放射能の影響で逝かれました。今やラジウムやラドンの危険は科学的に証明されてます。なぜそれを多数の日本人が知らないのか、どうも科学的につじつまの合わない放射物質の解釈をなぜ確証せず頭から信じきってしまっているのか、日本人の私もびっくりしてます。

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