Ambrose Evans-Pritchard は英国のテレグラフ紙のビジネス・エディターですが、辛口の(悲観的という人もいますね)経済・ビジネス評で知られています。最新の記事で、中国の経済刺激政策の資金が実質経済に行かず、バブル化している、と指摘しています。
China's banks are an accident waiting to happen to every one of us (6/28/09 Telegraph)
「中国の銀行は抑制が効かなくなりつつある。改革未だ途上の中国経済は、昨年12月以来発行された新しい資金を吸収できない。資金はカジノ化した上海株式市場に流れるか、破産同然の建設会社に流れるかして、世界経済をスランプから脱出するのにほとんど貢献していない。」
「フィッチ(アメリカのクレジット査定エージェンシー)の中国のマクロ・リスク査定は、カテゴリー1(安全)からカテゴリー3(アイスランドなどと同じカテゴリー)に移行する恐れがある。北京大学の Michael Pettisによると、中国の公的負債はGDPの50パーセントから70パーセントである可能性がある。」
「中国政府は成長ターゲット8パーセントを何としてでも達成したいあまり、銀行の資金貸出しに対して政府の無言の保証をつけたようなもので、これが巨額の貸出しにつながっている。」
「フィッチは現在のクレジットバブルを、銀行支払準備金に払っていた利息を0.72パーセントに切り下げた中央銀行の決定に端を発している、とする。銀行はこの利鞘縮小に対応するために、貸出し金額を増加したのである。しかも新しい負債の半分以上は短期の負債。中国の11月以来の金融刺激策はリーマン・ブラザーズ倒産後の米国連邦銀行の介入よりさらに過激なのだが、そのことはあまり注意を引いていない。」
上海株式市場の底値は確かに去年の11月でした。今年に入ってから、原料市場が真っ先に底値を打って上昇をはじめたとき、これは中国からの買い付けのせいだ、中国の景気刺激対策は実効を上げている、などの解説を読んだ覚えがあります。これが単なる投機のバブルだったとしたら(投機だ、とこの記事は言っています)、中国が世界経済を牽引するどころか世界経済を破綻しかねない可能性があるわけです。
アメリカの新しい大統領の矢継ぎ早の政策は、どれもこれも莫大な借金を新たに作るものばかりで、アメリカの経済が実質的に回復する見込みは短期的にはまずない、と見ていいと思われます。(アメリカの新しいバブルは政府のバブルだ、と私は思っています。)アメリカの経済もだめ、中国も実はだめだとしたら、どこが牽引車になれるんでしょうかね?
Monday, June 29, 2009
中国の貸出し資金バブル
Sunday, June 28, 2009
Sunday, June 21, 2009
米国債券持出しで逮捕されたのは財務省の役人?
ラジオをなんとなく聴いていたら、耳に飛び込んできたのは『6月初め、米国債券をスイスに持ち出そうとしてイタリアで逮捕された日本人は、日本の財務省の役人だった』、というとんでもないニュース。
そこで、インターネットでニュースを検索したところ、唯一ひっかかってきたのがターナー・ラジオ・ネットワークのニュース。(ちなみに、このネットワークは眉つばものとされていますので、ご注意。5月の初旬にも、米国金融機関の資産査定(ストレス・テスト)の”結果”をいち早く発表して悪名を上げました。)
1340億ドル相当の米国債券をスーツケースに隠して持ち出そうとしてイタリアで逮捕されたのは日本の財務省の役人 (6月20日 ターナー・ラジオ・ネットワーク)
『1340億ドル相当の米国債券をスーツケースに隠し、スイスに持ち出そうとしてイタリア警察に逮捕された2人の日本人は、日本財務省の役人である。
『イタリアで逮捕された2人は、日本政府が保有していた米国債券を、日本政府の指示で秘密裏に処分しようとしていた。
『債券の連番から、この1340億ドル相当の債券は日本政府が公式に保有する6860億ドル相当の米国債券の一部であることが判明した。
『イタリアの司法当局によると、当初は逮捕された2人はやくざだろうと考えられており、彼らが所持していた債券も偽物と思われていた。しかし、逮捕されて拘置が数日を越えたころ、2人はそれまでの供述を変え、日本の財務省の役人であることを認めたという。』
詳しくは、上記のリンクをクリックして記事を読んでみてください。マユツバでしょうが、この記事が言うとおり、また、数日前のBloombergの記事も言うとおり、この不思議な事件に関する報道は日本でも、アメリカでも、ほとんど皆無です。1340億ドルという半端な金額、また、逮捕から2週間が経つにもかかわらず何の公式発表もないところから、これはもしかして本物の債券ではないか、と疑いだしたブログが日本でも、アメリカでも、出始めたようです。
下手なスパイ小説より面白いかな。
Wednesday, June 17, 2009
オバマ大統領の金融規制改革案
オバマ大統領は6月17日、包括的な金融規制改革案を発表しました。案の骨子は前日までリークされていましたので、さほどの驚きは表面的には無く、株式市場の反応もほとんど皆無でした。
しかし、大統領の改革案、考えてみると、原因と結果を取り違えていると思います。
大統領の言では、「大手金融機関の破綻や適切な規制の枠組みの欠如が経済低迷をもたらした」ことになっていますが、現在の経済低迷は2007年12月から始まったものです。大手金融機関の破綻が本格化したのは、2008年の9月。
大統領はさらに続けて、「責任回避のカルチャーがウォール・ストリート(金融機関)から始まり、ワシントン(政府)、メイン・ストリート(一般市民)に広がった。」
果たしてそうでしょうか?私は逆だと思います。責任回避のカルチャーは、ワシントンに始まり、メイン・ストリート、ウォール・ストリートに広がったのだ、と。
詳しくは、英語版のブログ・ポストをご覧ください。
ポストの要点をかい摘んで見ると、
- 連邦銀行の過去20年近くにわたるルーズな金融政策(低金利、容易なクレジット)が、問題の核。
- 連邦銀行の政策は、連邦銀行が勝手に作り出したわけではなく、経済低迷から脱出するための政府の政策、特に住宅政策の一環として機能した。つまり、政府の政策あってこその連邦銀行の金融政策
- 過去2代にわたる大統領の、安易な住宅政策の破綻が金融危機の根本にある
- ワシントン(政府)の責任を問わないばかりか、金融危機を引き起こした張本人(連邦銀行、政府財務省)を金融規制改革の責任者に据える案は、本末転倒
米国の連邦銀行は政府機関ではありません。日銀と違って公的資本は一切入っておらず、昨年9月来の大規模な金融操作の繰り返しでバランスシートが未曾有の規模になっているにもかかわらず、公的監査が入ったことは一度もありません。現在、米国下院の共和党ロン・ポール議員提案の『連邦銀行監査法案』(H.R. 1207)の共同提案者数が、民主党の共同提案者60名以上を含む下院の過半数を突破しています。
問題を取り違えると、解決案は解決にはならず、逆に新たな問題を作り出す原因となっていくことが往々にしてあります。今回の改革案、その轍を踏むことにならなければよいのですが。
Friday, June 5, 2009
『外れ』を探す:WSJマネー・フロー(1)
ウォール・ストリート・ジャーナル・オンラインのサイトには、市場データセンターというページがあります。その中の「マネー・フロー」のページを私はよく利用しています。ページは誰でも無料でアクセスできます。
「マネー・フロー」ページは株式市場の取引時間中は1時間に1回の割合で更新され、その時間内にどのセクター、どの株に資金が流れているかをまとめた表形式になっています。
このポストはまず第1部ということにして、「市場とセクター概観」(Market and Sector Overview)のページから見ていきましょう。(スクリーンショットをご参照ください。または、前出のリンクをクリックしていただけると、新しいウィンドウにページが開きます。)
今月に入ってから、先月とは一転して金融株の売りが非常に大きくなっています。ヘルスケアは先月からの流れを引き続いて、売られています。
大体の金の流れを見た後、私が注意するのは、『外れ』です。例えば、セクター自体は上昇しているにもかかわらず資金が出て行ったものはあるか、あるいはその逆はあるか。
今日の市場で例を挙げれば、原材料(Basic Materials)です。セクターとしては下げているにもかかわらず、資金は引き続き入ってきています。このような動きをしたセクターは、今日の市場では原材料のみ。このセクターは3月の市場底打ち以来、もっとも資金の流入しているセクターの一つです。金融セクターへの資金流入は大きかったのですが、ここ2週間で反転、資金流出セクターになってしまいました。
いま改めてスクリーンショットを見ていたら、大きな『外れ』に気がつきました。表の右側、過去1ヶ月のマネーフローの欄です。過去1ヶ月、アメリカ株式市場は上げています。にもかかわらず、資金は市場から出て行っているようです。これは要注意のサインでは?
次のポストでは、「マネーフロー」内の、Selling on Strength、Buying on Weaknessのページを見てみたいと思います。
Thursday, June 4, 2009
SKF、FAZの価格想定
私のもう一つのブログに、SKF(レバレッジ2倍金融ショートETF)とFAZ(レバレッジ3倍金融ショートETF)の価格想定表を出しましたので、よろしかったらご覧ください。
SKF: http://shoulda-coulda-trade.blogspot.com/2009/06/possible-future-for-faz.html
FAZ: http://shoulda-coulda-trade.blogspot.com/2009/06/possible-future-for-faz.html
表からも分かるように、ここからすぐ株式市場が連日下降しない限り、あまり価格上昇は期待できません。
Monday, June 1, 2009
GM破産宣告と大統領の自動車産業タスク・フォース
ゼネラル・モーターズ(GM)は6月1日月曜日に破産宣告、Chapter11でのリストラを開始することが確実になったようです。政府は新会社の株式の60%を保有する予定。(最新のニュースはこちら)
もともと政府のローンが出た理由は確か破産を防ぐためだったのですが、まずCEOが突然3月に解雇され、GMヨーロッパのビジネスはカナダの自動車部品メーカー(マグナ)とロシアのトラック製造会社、ロシアの銀行が主体のコンソーシアムに売られ、あれよあれよという間に破産。
この一連の流れをを画策したのはオバマ大統領直属の「自動車産業タスク・フォース」。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事が指摘するように、米国議会はほとんどまったく関与していません。破産後のリストラでさらに300億ドル、国が融資することになるようですが、どうも議会はつんぼ桟敷に置かれている感が否めません。
この議会を超える権限を執行している「自動車産業タスク・フォース」のメンバーは、いったい誰なのでしょうか。
2月20日のホワイト・ハウスの発表によると、正規メンバーとして政府閣僚10人、実行の補佐として閣僚の補佐官クラスが10人、アドバイザーが一人となっていますが、肝心なのはこのリストに載っていない、いわゆるスタッフ、実際にゼネラル・モーターズのCEOを首にし、クライスラーと交渉し、クライスラーの債権保有者を脅し、GMのオペルをカナダの会社に売り渡す、といったことを行っている人たちです。このスタッフの情報はほとんど明らかにされておらず、ごく稀にニュースの中でたまたま言及されているのを記録したのが、次の5人です。
- Brian Deese: 31歳、元オバマ選挙キャンペーン補佐
- Alan Krueger: プリンストン大学経済学者
- Matthew Feldman: Willkie Farr & Gallagher LLP パートナー(企業破産とリストラ専門)
- Harry J. Wilson: 37歳、元ヘッジ・ファンドのスター・プレーヤー。ヘッジ・ファンド以前はブラックストーン、ゴールドマン・サックスに所属。
- Clay Calhoon: ウォルト・ディズニー社のアナリストとして、2年間のインターンを終えたばかり。
このような人々を統括するのが、
- Steven Rattner: インベストメント・バンカー。タスク・フォースの名目上のボスである財務長官 Tim Geithner と Lawrence Summers に報告義務がある。彼の運営するファンド(Quadrangle) は、現在もニューヨーク州の公的年金にまつわる贈賄疑惑の真っ只中。また、彼は、クライスラーの現オーナーであるCerberus Capital Management からの借金を踏み倒したことでも知られる。クライスラーの債権保有者を脅したのも、ゼネラル・モーターズのCEOを首にしたのも、彼。
なんだかがっかりしますね。クライスラー、ゼネラル・モーターズの、長年車を(良かれ悪しかれ)造ってきた人々が、ウォール・ストリートから来たこのような人たちにあれこれ言われて挙句の果て倒産の羽目になるとは。
再建後のゼネラル・モーターズは、さらに米国内の工場を閉鎖し、ディーラーを削減し、中国で生産した車の逆輸入を大いに増やす予定だそうです。ゼネラル・モーターズに公的資金を入れる理由の一つは、アメリカ国内の雇用を確保し、アメリカの製造業を守ることだったと記憶しているのですが。。。