Sunday, August 30, 2009

民主党の『国家戦略局』案への不安

日本の衆議院選挙は、民主党が定数480議席中308議席を獲得するという、予想以上の圧勝となりました。自民党以外の党が過半数を超えて政権をとるのは戦後初めて、確かに歴史的な出来事でしょう。

民主党支持者の方々、あるいは単に反自民で投票した方々、共にひとまず希望がかなったことになりますが、ニュースを読んでいてちょっと気になったことがあります。

ちょっとどころか、大いに気になっています。新しい政権下、最重要項目として『国家戦略局』なるものを真っ先に制定する予定のようですが、これが私の不安の原因です。毎日新聞の記事によると、

『民主党は、衆院選後政権を獲得した場合に、国家の基本方針や予算の骨格を定める組織として内閣に新設する、首相直属の「国家戦略局」の概要を固めた。トップの議長には専任の閣僚を充て、最重要閣僚の一人と位置付ける。構成メンバーは国会議員、民間の有識者、各政策を担当する官僚の計約30人。同党はマニフェスト(政権公約)に掲げる、子ども手当や高速道路無料化など独自政策の所要額(16兆8000億円、2013年度)について「国の総予算207兆円の全面組み替え」で財源を捻出(ねんしゅつ)するとしており、こうした作業を国家戦略局中心に行う意向だ。』

国家の基本方針、予算の骨格を定める、とありますが、実際に計画されていることを見ると、細かい政策の計画から実施まで、この、内閣直属の戦略局で行うことになるようです。国家の基本方針というからには、内政、外交、軍事のすべてをカバーすると思われます。さらに産経新聞によると、

『民主党の菅直人代表代行は7日の記者会見で、同党の政権構想の柱となる「国家戦略局」について、法律ではなく政令で設置する方針を明らかにした。菅氏は「国家戦略局は内閣官房組織令という政令で置く。』

これは危険です。とても危険です。

政令とは、内閣が制定する成文法のことで、法律とは違って内閣の閣議決定、担当大臣と内閣総理大臣の連署だけで成立し、あとは天皇による公布、官報に掲載された後施行されます。つまり、国民が選んだ議員で構成される、立法機関である議会での討論、投票、承認なしに成立してしまうのです。

さらに、政令は、

  • 特に法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。(憲法第73条第6号ただし書き)
    法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない(内閣法第11条) (ウィキペディア

とあります。

日本の政令は英語で「Cabinet order」と訳されますが、これはアメリカで言う「Executive Order」、行政機関の代表者としての大統領の権限だけで成立してしまう法令と同等のものと思われます。議会の討論、承認なしに大統領の署名だけで成立し、いったん成立してしまうと、これを取り消すには大統領のExecutive Orderが必要になります。議会が取り消すことも可能なのですが、大統領の否定権を乗り越えるにはいわゆる「Super majority」、議会の3分の2の承認が必要になるため、実際上は不可能に近いのです。司法府が取り消した例は過去にわずか2例あるのみ。

ブッシュ前大統領はこのExecutive Orderを乱発したと非難を受けましたが、オバマ大統領も、選挙戦中はこれを強く非難していたものの、いざ大統領に就任すると前任者にも増してExecutive Orderを発行しまくっています。そればかりか、オバマ大統領はすでにExecutive Orderのさらに先を行っています。たとえば、GM、クライスラーを破産させて実質解体を進めたのは、大統領がいわば勝手に作った「自動車業界タスク・フォース」。議会はつんぼ桟敷で、要するに金は出しても口を出すな、と大統領のスポークスマンが平気で言ってました。

また、オバマ大統領が勝手に任命している、「Czar」と通称される、閣僚(ちなみにアメリカの閣僚は選挙で選出された議員であることはほとんどありません。ほとんどが大統領による任命と、議会の承認です)と同等以上の権限を持つ大統領任命の補佐官とでもいうのでしょうか、イギリスや日本で言う「影の内閣」のような人たちが30人近くいます。「影の内閣」と決定的に違うのは、野党がやっているのではなく、大統領自身がやっているところにあります。議会、正式な国の省庁と対抗して、大統領が自身の「影の政府」を作っているわけです。これら「Czar」(半分は女性ですからCzarinaかな)は彼らを任命した大統領にのみ責任を負っています。

内閣直属の、政令だけで成立する『国家戦略局』なるものは、オバマ大統領の「影の政府」と50歩100歩のような、いやな予感がします。杞憂であればいいのですが。わずか30人の『国家戦略局』のメンバーが国家の政策を主導していいものでしょうか?

アメリカ依存から脱却する、というのも民主党の掲げた公約(最近はわけのわからんマニフェストとかいう言葉を使っていますねえ)のひとつだったと記憶していますが?

アメリカでも「ブッシュ憎し」で民主党、オバマ候補に投票した人々が、オバマ大統領の政策(共産主義、ナチズムという言葉がインターネットのニュースサイトでめっきり増えました)と強引な政策の進め方を見て後悔し始めています。「自民党憎し」で投票した方々、民主党の支持者の方々も、新しい政権が何をするのか、最初からしっかり見て、しっかり批判してください。

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