Thursday, May 26, 2011

フェアウィンズアソシエーツ・アーニー・ガンダーセン:「福島第1原発事故の教訓」

フェアウィンズ・アソシエーツのアーニー・ガンダーセン氏の最新(5月22日)のビデオの翻訳です。

福島第1原発の事故の教訓ということで、現在稼動中のアメリカの原発の福島同様の問題点、当局と事業者の馴れ合いを指摘しています。まあ、ご安心くださいというのもなんですが、東電と政府、規制担当のはずの保安院などとの馴れ合いは、日本に限ったことではありません。日本だけが特別ひどいわけではなく、たまたま事故になってしまったのでこれまでのいい加減な規制、馴れ合いがばれてしまった、というところでしょうか。

今回のビデオでガンダーセン氏が言っていることで耳に止まったのは、ドイツのシーメンス(まあドイツ語発音ではジーメンスですが)のサイトに、4号機の使用済み燃料プールにひび割れが入ったのは津波ではなく地震のせいだ、と言う報告書がある、と言っているところです。え、ひびが入ってたのか?とお思いになる方もいらっしゃるかと思います。

もうひとつは、福島原発事故の賠償責任の金額が日本円で約16兆円になる見込み、と氏は言っていますが、AREVA社の汚染水処理に払う金額が噂どおり1トン(1立方メートル)あたり2億円なら、予定水量の20万トンを処理するだけで40兆円が吹っ飛ぶ計算です。ははははは。どこの誰だ、原発はローコストのクリーンな発電だ、とか言ってほらを吹いていたのは?

フェアウィンズ・アソシエーツのサイトには、ビデオに出てくる米国の発電所関係のレポートがリンクされています。


The Implications of the Fukushima Accident on the World's Operating Reactors from Fairewinds Associates on Vimeo.

(以下、ビデオ全訳。h/t あ)

こんにちは。フェアウィンズのアーニー・ガンダーセンです。前回のビデオから一週間ちょっとたってしまいました。私たちのコンピュータがメルトダウンを起こしたために、ビデオの制作スケジュールが少し遅れてしまったのです。ですが、皆さんからのご寄付で前より高性能のコンピュータを手に入れることができましたので、このビデオシリーズは今後もずっと続けていけるでしょう。改めましてありがとうございます。

今日は、福島の事故からどんなことが学べるかをお話したいと思います。建設中の原子炉ではなく、すでに世界中で稼動している原子炉にとっての教訓です。まず、一番あからさまな問題点は格納容器についてです。格納容器は放射線を閉じこめるための設備です。ベントという排気設備があって、それが故障したことはご存知だと思いますが、このベントというのはあとから付け足されたものです。これらの原子力発電所が設計された1970年代から80年代、原子力発電所はべントがつくようなデザインではなかったのです。実際、世界中の加圧水型軽水炉には現在でもベントがついていないのです。だから格納容器のベントはいわばバンドエイドのような応急処置として、原子炉が建設された後で認識された問題に対応するために追加されたわけです。これまでベントの性能が試される機会は3回ありました。福島第1原発の1号機、2号機、3号機です。3回とも故障しました。故障率100%です。これはベントの設計に深刻な欠陥がある証拠です。しかもこうした事故はここアメリカでも起きるかもしれません。ドイツでも起きる可能性がありますし、世界中の沸騰水型原子炉ならどこでも起こる可能性があるのです。

したがって真っ先にすべきことは、沸騰水型原子炉のベントをすべて見直し、改良できるか取り外すべきかを見極めることです。取り外すとしたら、事故が起きたときの圧力に耐えられない格納容器をどうすべきでしょうか。

ベント自体にも問題があります。たとえばアメリカ・バーモント州の原発では、事故が起きたら原子炉を加圧して原子炉内に水を注入するシステムになっています。ですが、もしもベントを開けて開放したままにしておいたら、圧力が下がって原子炉を冷却できなくなり、メルトダウンが起きます。これはバーモントに限りません。イリノイ州のドレスデン原発でも、サウスカロライナ州のHBロビンソン原発でも同じです。アメリカ原子力規制委員会(NRC)はこの問題を放置しています。格納容器の圧力を上げて水をポンプに送り込む作業を電気事業者に任せているのです。それを禁じる規制があるのに、ドレスデン原発、ヤンキー原発、ロビンソン原発などが出力を上げた時にNRCはその規制を免除したのです。

忘れてはならないのは、ベントは格納容器の圧力の問題を防ぐためにつくられたはずなのに、いったん開放したベントが閉まらないとベント自体が問題を起こしかねないということです。福島第一原発の事故を見れば、事故が起きたらベント弁が閉まるとはとても考えられません。私は長年、格納容器の漏れの問題でNRCを追求してきました。ペンシルベニア州のビーバーバレー原発では、格納容器の側面に穴が1個開きました。私は何年か前にその問題をNRCに指摘しました。報告書の全文はこのウェブサイトに掲載されています。ニューヨーク州のフィッツパトリック原発では、格納容器の側面に亀裂が生じました。私は昨年この問題をNRCに指摘しました。さらにコネチカット州のミルストーン原発では、出力に比した格納容器の大きさが同型の原子炉の中で世界一小さいのです。私は2年ほど前にこの問題をNRCに指摘しました。するとNRCはまさにそのミルストーン原発から、「自分たちに格納容器の安全性を解析する能力はない」と言ってきたのです。その言葉は文書にはっきり残っています。それなのにNRCはいまだに、格納容器が漏れることはないと考えているのです。昨年10月の原子力諮問委員会の会合でそう明言しています。つまり、格納能力のない格納容器と、規制能力のない規制当局というわけです。そして、格納容器に亀裂や穴が次々に見つかっても、格納容器が漏れる可能性はゼロだと信じ続けている原子力産業。

この辺で話題を変えましょう。次は耐震基準についてお話したいと思います。福島第一原発は津波ではなく地震が原因で損傷したことがわかっています。津波に襲われる前の時点ですでに放射能漏れがありメルトダウンが起きていたのです。また、シーメンス社のウェブサイトにアップされた報告書によれば、4号機の燃料プールのひび割れも津波ではなく地震によって生じたのがわかっています。だとすれば、これまでの耐震解析の基準が間違っていたということです。本来なら割れるはずがない、壊れるはずがないのです。

福島を襲った地震はさほど大きかったわけではありません。たしかに沖合いで発生した時点ではマグニチュード9でしたが、福島原発に到達する頃には少なくとも耐震という点では何とか乗り切れるレベルだったと推測します。これが意味するものは、これらの原発を分析するのに私たちが拠り所にしてきたものが通用しない、という可能性です。4基のうち2基が地震でひび割れています。本来なら耐えられるはずでした。アメリカ・フロリダ州のクリスタルリバー原発では、蒸気発生器を交換するために格納容器に穴を開けたところ、格納容器に60フィート[約18メートル]もの亀裂が入りました。この原発は史上最も入念な解析がなされたにもかかわらず、亀裂が生じるとは誰も予想していませんでした。2年かけて亀裂を修復し、いよいよ再運転というときに、今度は別の方向に別の亀裂が走っていることが判明しました。このような巨大な構造物に対しては、私たちには耐震基準を設定して解析する能力が明らかにないのです。クリスタルリバー原発がアメリカでそれを証明し、福島第一原発が世界にそれを証明しました。

ほかにもいくつか大きな問題点があります。ひとつは非常用蓄電池です。数が足りません。アメリカの原発の場合、一番長くもつものでも8時間。ほとんどはわずか4時間です。もしも福島のような電源喪失事故がアメリカで起きたら、とても切り抜けられないでしょう。いや、もっとひどい事態に陥ります。

もうひとつは高波です。今回、福島原発は津波に襲われました。原発は6~7メートル(約20フィート)の津波を想定して作られていましたが、実際の津波は15メートルに達しました。カリフォルニア州のサンオノフレ原発は30フィート[約9メートル]の津波を想定して設計されています。ですが、日本の津波をフィートに換算すれば45フィートであることを考えると、私たちも高波対策に目を向ける必要があるでしょう。高波によって、かりにディーゼル発電機そのものは壊れなくても、水を注入するポンプが壊れるおそれがあるからです。

東海岸のフロリダ州は、ハリケーンによる高波の被害がある地域です。つまり、ハリケーンによって巨大な水の壁が内陸にまで押し寄せる可能性があるわけです。フロリダ州のターキーポイント原発などは、高波に襲われて水に浸かるかもしれません。今まではこうした事態は起こりえないと言われてきましたが、福島ではありえないことが現実になったわけですから、こうした事象に対しても対策を検討する必要があるでしょう。

あと2点。ひとつは緊急時の避難計画です。アメリカでは原発から半径10マイル[約16キロ]以内を避難対象地域としていますが、じつは10マイルという数字に科学的根拠はありません。風向きがどうなるかもわからないのに、原発の周りに半径10マイルの円を描いて、その範囲内の住民は数時間のうちに避難出来るはずだ、と言ってきたわけです。しかし、福島原発の例で明らかになったように、事故は何週間も続くうえ、放射能の雲は曲がりくねりながらはるか内陸まで流れてきます。アメリカでは、原発から50マイル[約80キロ]離れた地域については住民の避難を想定していません。しかし、福島ではすでに50マイル以上離れたところまで放射能で汚染されてしまいました。イリノイ州のドレスデン原発や、ニューヨーク州のインディアンポイント原発の場合、50マイルの範囲内にはシカゴ市やニューヨーク市という大都市が含まれます。原発の位置を考えたうえで、現在の机上の計画の代わりに本当に実効性のある緊急避難計画を真剣に検討する必要があります。

最後に、原発内に複数の原子炉が存在する場合の問題です。福島第1原発の事故からもわかるように、1つの原子炉が爆発すれば、ほかの原子炉のトラブル修復が遅れます。アリゾナ州のパロベルデ原発には敷地内に3基の原子炉があるのに、NRCは2週間前にあと20年の免許延長を認めました。NRCが福島で起きたことをすでに分析し終え、複数原子炉を持つ[パロベルデのような]発電所を満足に分析できた、とはとても思えません。

さて、以上が技術的な問題点のまとめです。もうひとつ、政治的な問題点を指摘しておきましょう。「プライス・アンダーソン法」です。プライス・アンダーソン法は、いわば電気事業者が加入している保険です。事故が起きた場合には、アメリカ中のすべての原発が1原子炉につき約1億ドルずつを拠出することになっており、事業者に課される賠償責任は1回の事故につき約100億ドル上限と決まっています。福島の損害賠償額は2,000億ドル[16兆円強]前後にのぼる見通しと言われています。もし同じ規模の事故がアメリカで起きたらどうなるでしょうか。残りはすべて私たち納税者の肩にのしかかってくるということです。私たちは1,900億ドルの借金を抱えるわけです。それがプライス・アンダーソン法の正体です。電気事業者はこの法律があるかぎり自分の懐をたいして傷めない。そんなことを許していいのかどうか、福島の事故を受けて私たちはしっかり考えるべきではないでしょうか。

今日は以上です。ありがとうございました。

1 comment:

  1. 和訳ありがとうございました。
    いつも首を長くして、待っております。

    今回はあまり悪い話がなかったので、すこし安堵しました

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