Sunday, May 22, 2011

日本には安定ヨウ素剤配布、服用の基準がなかった?

いつものことながらどこをどう辿って行き着いたのか、忘れましたが、ivanmonitoring.net と言うサイトで、安定ヨウ素剤を市民に配布、服用させる際の、世界各国の基準を表にしたものが載っていました。

このサイトはアメリカ西海岸の諸州で放射能を計っている有志の方々が運営しているサイトのようですが、表の出所を調べたら、アメリカのThe National Research Council of the National Academies が2004年に発行した、”Distribution and administration of pottassium iodide in the event of a nuclear incident”(原子力事故の際の、安定ヨウ素の配布と服用について)という、240ページほどの本の中に出ているでした。

このブログでも事故直後の3月に安定ヨウ素の使用法となぜ安定ヨウ素が必要になるのかを書きましたが、要するに、甲状腺は放射性ヨウ素と通常のヨウ素の区別がつかないので、そこにヨウ素があれば放射性であろうとなんだろうと取り込んでしまう、そこで、取り込みを防ぐために、あらかじめ甲状腺を安定ヨウ素でいっぱいにしておけば放射性ヨウ素は入ってこれない、というメカニズムなのです。

表を見ると、日本以外の国(オーストラリア、カナダ、アメリカ、ヨーロッパ諸国)は、原子力事故の際に安定ヨウ素剤を国民に配布する基準として、甲状腺等価線量が一定の量を超えた時点で、という決まりがあるようです。低いところでスウェーデンの10ミリシーベルト(子供用)、ヨーロッパ諸国は大体100ミリシーベルトから300ミリシーベルト、アメリカは40歳以上の大人は5グレイ(5シーベルト)という、何かタイプミスのような高い数字が出ていますが、18歳以下の子供は50ミリグレイ(50ミリシーベルト)です。

さて、日本はどうか。

そうです。空欄なのです。基準なし。一番右の欄に、"Where a high thyroid dose is anticipated, stable iodine prophylaxis taken according to judgment of experts" 、つまり、

「高い甲状腺線量が予測される場合、安定ヨウ素剤を使った予防は専門家の判断に委ねる」

と書いてあります。

その専門家の判断とは、では何だったんでしょうか?福島第1原発の事故後、早急に放射能拡散を予測し、影響が大きいと思われる地域の住民に安定ヨウ素剤をあらかじめ配り、いざと言う場合の服用法を教え、とにかく出来るだけ安全を図る?

違います。彼らは、データを隠したのです。

放射能拡散の予測が数千キロにわたる広い範囲で可能だと言われるWSPEEDIのデータが2枚だけ、文科省のサイトにある時(5月10日)にこっそり載ったのは皆さんもご存知かと思います。そこに出ている地図のひとつが、「幼児(1才未満)のヨウ素131による甲状腺等価線量」という地図です。下に出したのは、3月25日時点での予測です。(県名は私が入れました。英語ブログ用。)

地図を見ると、500ミリシーベルトを超える地域すらあります。福島の太平洋沿岸はほとんど赤色、つまり、100から500ミリシーベルト、ヨーロッパでも北米大陸でも、18歳以下の子供に安定ヨウ素剤を配っている線量です。福島の内陸でも10から100ミリシーベルト、茨城の沿岸でも20から50ミリシーベルト、千葉でもかなりの地域が10ミリシーベルト以上が出ています。

東電が今になって公表した地震津波直後の原発の状況を見ると、もう3月11日の夜までには1号機から高い放射線量が測定され、これは危ないことになる、 ということは少なくとも東電の福島の現場では分かっていたようです。本社も分かっていたようです。地震が起きてすぐの時点で、既にSPEEDIの予測は作成されていました。1号機が水蒸気爆発して大量の放射能がばら撒かれる前に、安定ヨウ素剤の配布、周辺住民の避難勧告、いくらでも出来たはずです。

しかし国も自治体も東電も何もせず、14、15日に3号機、4号機が爆発しても一部の地域で安定ヨウ素液を服用させたぐらいで(放射能を吸い込んでからでは遅いんですが)、大規模な配布、服用指示は無く、結果として、

「国民がパニックになると困るから黙っていよう、子供にはまあ甲状腺被爆を我慢してもらおう」

ということになりました。「言わなきゃ誰もわからない」と。

それとも、「原発は事故らないことになっているし、今度の福島の事故(事象、と彼らは言ってましたね)も大したことがないといっている手前もあるし、安定ヨウ素剤を配ったら国民にいらぬ不安を与えるだけだ」と考えた政府の誰かがいるんでしょうか?

それとも、まさかのまさかですが、安定ヨウ素剤を切らしていたとか?

何しろ原子炉に入れるホウ素が足りなくなって韓国から提供してもらったくらいですから...。

6 comments:

  1. 東京在住です。ヨーロッパ人の友人に武田教授のブログの内容を知らせたくて、どなたか翻訳されていないか探していたら、こちらに辿りつきました!ママ達にとっては、武田教授のブログの内容は子供を守るためにとっても役に立ちます。とっても感謝しています。友達にもこちらのブログを教えてあげたいと思います。日本より感謝をこめて・・

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  2. こちらこそ、お読みくださってありがとうございます。これからもがんばりましょう。

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  3. ありがとうございます、がんばります!つい先日、放映されたNHK ETV 特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」というドキュメンタリーはもうご覧になられましたか?放射能汚染の実態を調査しており、反響をよんでいるようです。今なら動画もネットで見れるようです。よかったら、参考までに・・

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  4. ヨウ素剤切らしてたかもしれませんね。事故発生直後からアメリカからヨウ素剤が消えてましたから。あるサイトには日本に回しているようなことも書いていましたし。まさか官僚とその家族に配っていた!? そんな事無いように思いたいですが...

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  5. こんにちは。時々お邪魔させていただいてます。英語でも発信されててすごいですね。

    実は私は双葉町出身でして、自分なりにいろいろ調べてみました。

    ヨウ素剤の服用基準に関しては、平成14年の原子力安全委員会の資料に、「放射性ヨウ素による小児甲状腺等価線量の予測線量100mSv」とする旨が書かれています。(21ページ)
    http://www.nsc.go.jp/bousai/page3/houkoku02.pdf

    平成22年8月に改訂された「原子力施設等の防災対策について」の中でも、服用については平成14年の資料を基にするというようなことが書かれています。(20ページ④)

    それから日本を視察したCham Dallasという人がこんな批判をしていました。できればブログの中で紹介していただけると嬉しいのですが、いかがでしょうか。
    http://www.cbsnews.com/8300-503543_162-503543.html?keyword=Cham+Dallas

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  6. とすると、原子力安全委員会は自分たちで作った基準すら適用しなかったわけですね。あきれるばかりです。

    CBSニュース、ありがとうございます。たった23万人分のヨウ素安定剤しかなかった?あああため息。その23万人分はせめて使ったんでしょうかね。ブログに出します。

    双葉町は本当に残念なことです。何と申し上げてよいのか。

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