1月31日、東京都23区清掃一部事務組合は、大田区と品川区の清掃工場で12月中旬に行った宮城県女川町の災害がれきの焼却試験の結果を発表しました。それによると、
宮城県女川町から発生した災害廃棄物を当組合の施設で焼却処理するのに先立ち、当該廃棄物を法令及び当組合の管理基準に適合した処理ができることを確認するため試験焼却を実施しました。試験焼却において、当該廃棄物を当組合の施設でおおむね20%の混合比率で焼却した結果、別紙「災害廃棄物試験焼却評価書」のとおり、法令等に適合した処理ができました。また、ごみ焼却の状況は通常ごみ焼却時と同程度でした。
ということです。
私が注目していたのは放射能濃度。本当に「ごみ焼却の状況は通常ごみ焼却時と同程度」なのか?
何しろ、福島第1原発からの放射性物質をかぶってしまった被災地のがれきの広域焼却を推し進めることに賛成する理由として、「どうせ関東は汚染されているんだから、今更追加の放射能が出ても大差ない」、「東京の方が宮城、岩手より汚染されている、がれきを燃やせばかえって焼却炉がきれいになる」といった、ほとんど意味不明の議論をする人々が出現、ツイッター上でも、「汚染度の低いところから高いところに移すというのが原則ですが...」などと勝手に原則をつくって取りまとめようとする人まであらわれ、大いに不満に思っていたのです。(感情論をぶち上げる人はまず論外です。)
東京の汚染は宮城、岩手よりひどいのか?
燃焼試験結果を見る前に、まずこちらをご覧ください。女川町のがれきが一般ごみと混ぜて焼却される、東京23区の清掃工場の昨年12月上旬の飛灰の放射性セシウム濃度です。
一時は1万ベクレルを超えるセシウムが出ていた江戸川工場でさえ、最高時の半分程度まで飛灰の放射能は下がっています。大田区と品川区を見ると、12月上旬の試験直前の時点で、
大田区: キロ当たり2135ベクレル
品川区: キロ当たり706ベクレル
それでは、1月31日発表の燃焼試験結果、まず大田区:
がれき混合率18.8%
飛灰放射性セシウム濃度: キロ当たり2440ベクレル
12月の大田区の一般ごみを燃したあとの飛灰の放射能が2135ベクレル、この数字を使って、女川がれき100%で燃焼した場合の飛灰セシウム濃度(X、エックス)が次の式で計算できます。
X x 0.188 + 2135 x 0.812 = 2440
0.188X = 2440 - 1733.62 = 706.38
X = 3757.34
つまり、女川のがれきを大田区の12月の一般ごみと混ぜずに焼却すると、キロ当たり3757ベクレルの飛灰が生じた可能性があるのです。
大田区の焼却炉の方式は全連続燃焼式焼却炉(ストーカ炉)です。元のがれきの放射能を逆算すると、この数値を33.3(環境省が使うストーカ炉による濃縮の倍率;後述の環境省資料参照)で割って、キロ当たり112.83ベクレル。環境省が安全だと言って全国に推しているがれきの放射能レベルに合致します。
一般ごみの飛灰の放射能が2000ベクレルを超え、東京でも低くないレベルの大田区でも、飛灰から見る限り、12月時点では一般ごみは女川のがれきよりも汚染度が低いのです。
次に品川区を見てみましょう。
がれき混合率:20.0%
飛灰放射性セシウム濃度: キロ当たり1043ベクレル
大田区の場合と同様に計算すると、
0.2X = 1043 - 706 x 0.8
X = 2391
飛灰の放射濃度はキロ当たり2391ベクレル、元のがれきの放射能度を逆算すると、キロ当たり約72ベクレルになります。
飛灰の放射能が女川がれきを100%燃やした場合の想定飛灰放射能(上記の計算)よりも高い工場は、12月時点では東京23区清掃工場20工場のうち1工場、江戸川区だけです。江戸川区以外の区にとっては、女川のがれきを燃やすことで飛灰に通常より多くの放射能が発生することになります。
その江戸川区でさえ、「女川のがれきを燃やせば焼却炉がきれいになる」などという馬鹿なことはなく、通常のごみ処理に加えて女川のがれき処理が加わるわけですから、総量的には放射能が減るどころか増えるばかり。
宮城、岩手のがれきの方が東京の一般ごみよりも汚染されていない、という主張は、飛灰から計算した限りは根拠がなさそうです。
まして、このがれきを放射能汚染のはるかに少ない北海道、東北日本海側、北陸、関西、中国、四国、九州に運んで焼却して埋め立てるなど、正気の沙汰とも思えません。
ちなみに、英語ブログの欧米読者は、ごみ、がれきを焼却する、ということ自体が理解できないようで、まして放射性のごみ、がれきを通常のごみ焼却炉で燃やすと聞き、日本人は頭がどうかしているんだろう、と思っているようです。これ以上世界を汚染しないでくれ、とも言っています。もっとも、フクシマの事故や放射能汚染を気にする人々は世界でもおそらく極少数ですから、彼らも自国で変人あつかいされているような節はありますが。
とまれ、なぜ東京23区清掃一部事務組合の燃焼試験は、女川町のがれきを100%燃やして指標にしなかったのか。そうしていたら、大田区、品川区の数字より飛灰の放射能が高い値で出てしまうため、混ぜて分かりにくくした、と勘ぐれないこともありません。
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災害放射性がれきの広域処理についての問題点、考察については、@tsunamiwaste さん、@tautautau1976さんによる、随時更新中のTogetterがお勧めです。余りに膨大な情報のため、目次がしっかり付いています。こちらでどうぞ → http://togetter.com/li/239885
また、環境省ががれき受け入れを「検討」している自治体向けに作成したガイドラインはこちら。→ http://www.env.go.jp/jishin/attach/memo20120111_shori.pdf
一般用はこちら。→ http://www.env.go.jp/jishin/attach/waste_koiki_mat20111206.pdf
一般用を更に簡略化したのはこちら → http://www.env.go.jp/jishin/attach/waste_koiki_pamph.pdf
「検討」の意味はもう皆さんもお気づきになったと思いますが、「受け入れるための検討」なのです。
そもそも国は何でがれき(放射能)を全国に拡散させたいんだろうか?「復興のため」は単なる大義名分で、目的はほかにあるとしか思えない。
ReplyDeleteX x 0.188 + 2135 x 0.812 = 2440
ReplyDeleteすみません、計算式でつまづいてしまいました。どうして0.812をかけないといけないのでしょうか。。。
焼却物100%のうち、女川町のがれきが18.8%、のこりの大田区の一般ごみは100%マイナス18.8%の81.2%。
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