Wednesday, December 21, 2011

International Journal of Health Services誌掲載記事:福島原発事故の影響で米国の死亡者数1万4千人増加か

記事に関する12月19日付けのプレスリリースが、時々訪ねる金融サイト、MarketWatch/Wall Street Journalに出ていました

福島由来の放射性降下物の影響で、アメリカで事故後14週間の間の死亡率が上昇、1万4千人が福島由来の放射性降下物の影響で亡くなったかもしれない、という論文がピア・レビューの科学雑誌、International Journal of Health Services誌12月号に掲載された、と言うのです。

実は私は、論文の共著者である ジャネット・シャーマン博士に今年の6月にメールを出して、博士が当時発表していた同様の記事にある福島事故後の死亡率上昇はどの期間と比べたものなのか、と尋ねています。そのときの博士の答は、事故直前の期間と比べたものだ、ということでした。しかも、そのときは14週間ではなく4週間(前後あわせて8週間)のデータ、とのことでした。季節性などもあると思い、博士のデータが事故以前の同時期と比べたものでない限り、統計的にあまり有意な意味はないのではと思い、その時点ではブログには出しませんでした。

しかし、12月19日のプレスリリースを見る限り、博士と共著者のジョセフ・マンガノ氏は、福島事故から14週間のデータを、2010年の同時期のデータと比べているようです。

以下、プレスリリースの本文:

WASHINGTON, Dec. 19, 2011 /PRNewswire via COMTEX/ -- Impact Seen As Roughly Comparable to Radiation-Related Deaths After Chernobyl; Infants Are Hardest Hit, With Continuing Research Showing Even Higher Possible Death Count.

ワシントン発2011年12月19日・PRNewswire via COMTEX 福島事故の影響はチェルノブイリ事故後の放射能被曝に関連した死者数とほぼ同等か。幼児がもっとも影響を受け、今後の研究では死者数が更に増える可能性も

An estimated 14,000 excess deaths in the United States are linked to the radioactive fallout from the disaster at the Fukushima nuclear reactors in Japan, according to a major new article in the December 2011 edition of the International Journal of Health Services. This is the first peer-reviewed study published in a medical journal documenting the health hazards of Fukushima.

アメリカでの1万4千人の予想を超えた死者数は日本の福島原発事故による放射性降下物に由来するものである、とする新しい論文が、2011年12月号のInternational Journal of Health Services誌に掲載された。福島事故の健康への被害を詳細に記載して医学誌に掲載された、最初のピア・レビューの研究論文である。

Authors Joseph Mangano and Janette Sherman note that their estimate of 14,000 excess U.S. deaths in the 14 weeks after the Fukushima meltdowns is comparable to the 16,500 excess deaths in the 17 weeks after the Chernobyl meltdown in 1986.

著者のジョセフ・マンガノとジャネット・シャーマンによると、福島原発メルトダウンから14週間の間のアメリカでの予想を超えた死者数は彼らの推定で1万4千人、これは1986年チェルノブイリ原発のメルトダウンから17週間の間の同死者数1万6500人とほぼ同等である、という。

The rise in reported deaths after Fukushima was largest among U.S. infants under age one. The 2010-2011 increase for infant deaths in the spring was 1.8 percent, compared to a decrease of 8.37 percent in the preceding 14 weeks.

福島事故後に報告された死亡者数の上昇はアメリカの1歳児以下の幼児でもっとも大きかった。2011年春の幼児の死亡数は2010年と比較して1.8パーセントの上昇、それに引き換え福島事故直前14週間の死亡者数は8.37パーセントの減少を示している。

The IJHS article will be published Tuesday and will be available online as of 11 a.m. EST at http://www.radiation.org .

IJHS記事は火曜日に出版され、オンラインhttp://www.radiation.orgで東海岸時間午前11時から閲覧可能。

Just six days after the disastrous meltdowns struck four reactors at Fukushima on March 11, scientists detected the plume of toxic fallout had arrived over American shores. Subsequent measurements by the U.S. Environmental Protection Agency (EPA) found levels of radiation in air, water, and milk hundreds of times above normal across the U.S. The highest detected levels of Iodine-131 in precipitation in the U.S. were as follows (normal is about 2 picocuries I-131 per liter of water): Boise, ID (390); Kansas City (200); Salt Lake City (190); Jacksonville, FL (150); Olympia, WA (125); and Boston, MA (92).

3月11日に福島の4つの原子炉で壊滅的なメルトダウンがおきてわずか6日後[実際メルトダウンが起きたのは3基ですが]、科学者達は有害な放射性プルームがアメリカに到達したことを検知した。その後の米国環境保護庁(EPA)の測定で、アメリカ中で大気中、水、牛乳の放射能レベルが通常よりも数百倍のレベルになっていることが判明した。降雨中のヨウ素131の最高濃度は次の通り(通常の濃度は1リットル当たり2ピコキューリー[0.074ベクレル]): ボイジー、アイダホ州390、カンザスシティー200、ソルトレークシティー190、ジャクソンビル、フロリダ州150、オリンピア、ワシントン州125、ボストン、マサチューセッツ州92.

Epidemiologist Joseph Mangano, MPH MBA, said: "This study of Fukushima health hazards is the first to be published in a scientific journal. It raises concerns, and strongly suggests that health studies continue, to understand the true impact of Fukushima in Japan and around the world. Findings are important to the current debate of whether to build new reactors, and how long to keep aging ones in operation." Mangano is executive director, Radiation and Public Health Project, and the author of 27 peer-reviewed medical journal articles and letters.

疫学者のジョゼフ・マンガノ(公衆衛生学修士、経営学修士)は次のように語る。「福島の事故による健康被害の研究が科学雑誌に発表されるのは、これが初めてです。この研究は懸念を掻き立てるものであり、原発事故が日本と世界に及ぼす真の影響を理解するには健康調査を継続する必要があることを強く提案しています。今回の調査結果は、今議論されている新規原発の建設の是非や、老朽化しつつある既存の原発をあとどれくらい運転するかという問題にも重要な意味をもっています」。マンガノは「放射線と公衆衛生プロジェクト」のエグゼクティブ・ディレクター。ピア・レビューの医学雑誌に27件の論文やレター[速報性を重視した比較的短い論文]を発表している。

Internist and toxicologist Janette Sherman, MD, said: "Based on our continuing research, the actual death count here may be as high as 18,000, with influenza and pneumonia, which were up five-fold in the period in question as a cause of death. Deaths are seen across all ages, but we continue to find that infants are hardest hit because their tissues are rapidly multiplying, they have undeveloped immune systems, and the doses of radioisotopes are proportionally greater than for adults. "Dr. Sherman is an adjunct professor, Western Michigan University, and contributing editor of "Chernobyl - Consequences of the Catastrophe for People and the Environment" published by the NY Academy of Sciences in 2009, and author of "Chemical Exposure and Disease and Life's Delicate Balance - Causes and Prevention of Breast Cancer."

内科医で毒物学者のジャネット・シャーマン(医学博士)はこう話す。「私たちは今も調査を続けていますが、それによると実際の死者数は18,000人に達するかもしれません。増える分はインフルエンザと肺炎による死者です。この2つが原因となる死者数が問題の期間に5倍に増えていました。死亡はあらゆる年齢層に見られますが、最も強く影響を受けるのが乳児であることが引き続き確認されています。乳児は組織の細胞が急速に分裂しているうえ、免疫系も未発達です。また、大人と同じ量の放射性同位体を取り込んでも体重に対する割合が大きくなります」。シャーマン博士はウェスタンミシガン大学の非常勤教授。2009年にニューヨーク科学アカデミーから出版された『チェルノブイリ――大惨事が人々と環境に与えた影響』の編集者であり、『化学物質への曝露と病気と命の微妙なバランス――乳がんの原因と予防』[どちらも邦訳なし]の著者でもある。

The Centers for Disease Control and Prevention (CDC) issues weekly reports on numbers of deaths for 122 U.S. cities with a population over 100,000, or about 25-30 percent of the U.S. In the 14 weeks after Fukushima fallout arrived in the U.S. (March 20 to June 25), deaths reported to the CDC rose 4.46 percent from the same period in 2010, compared to just 2.34 percent in the 14 weeks prior. Estimated excess deaths during this period for the entire U.S. are about 14,000.

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、人口100,000人以上の全米122都市について毎週1回死者数の報告書を発表している。アメリカの総人口の25~30パーセントをカバーする人数が対象になっている。福島からの放射性降下物がアメリカに到達してから14週間(3月20日~6月25日)のあいだに、CDCに報告された死者数は前年同期より4.46パーセント増加した。放射性降下物が到達する前の14週間では、前年比死者数の増加は2.34パーセントに過ぎなかった。到達後14週間のあいだに、予想されるより増えた死者数を全米レベルで推計すると、約14,000人となる。

なお、論文は、このリンクでどうぞ。(PDFファイルです。)

ちなみに、この論文がリリースされた翌日の12月20日には、アメリカの権威ある科学雑誌といわれるサイエンティフィック・アメリカン誌がブログでこの論文を「いかさま研究だ」と、非常に感情的にこき下ろしています。ブログの著者マイケル・モイヤーの論点は2つにまとめられるでしょう。

  • まず、「福島の原子炉が最初に爆発してから6日でアメリカに到達したという放射能プルームなんてものはない」、という主張。その根拠として、米国環境保護庁(EPA)のデータがない、と言っています。

  • そして、全人口の2、3割しかカバーしないCDCのデータを基にして全米の追加の死亡者数を推定するのは統計的に正しくない、ということ。

一番目の論点(とも思えないような論点ですが)については、プルームは来てましたよ、としか言いようがありません。EPAのデータが少ない、と言うのは興味深い理由があって、EPAの観測ステーション、特に西海岸、カリフォルニアにあるステーションは半分以上、使えなかったのです。そのほとんどが、メンテナンスをしていなかったための故障。故障していたことすらEPAは知らなかったというお粗末さ。EPAは移動式の観測ステーションを持っていますが、福島事故後それをカリフォルニアに配置しようとする動きはなぜか立ち消え、ろくに測っていなかったのです。

その測定自体、測定器についているエアーフィルターを、経費節約のためにEPA職員ではなく市民ボランティアが測定器の場所まで出向いていってフィルターを外し、それを封筒に入れて、アトランタ州の分析所まで郵便で送り、検査結果が再び郵送でEPAの方に送られる、という、実は東電にも劣る悠長なプロセスなのです。(英語ブログに出した3月27日付けポストご参照。)

日、仏、ノルウェーなどの科学者が行った拡散シミュレーションを見れば、プルームが西海岸に届いたどころか全米を横断して太平洋に抜けていくさまを見ることが出来ますが、放射能プルームは単なるたちの悪い風評だと思いたい人たちにはまあ何を見せても「でっち上げのいかさま研究」になるのでしょう。サイエンティフィック・アメリカンのブログの著者もそのお一人でしょうか。

そういえば、3月、4月の時点で、カリフォルニア大学バークレー校の原子力工学部がカリフォルニアの有機牛乳(乳牛を放牧して草を食べさせて育てる)から通常のレベルをはるかに超えるヨウ素131、セシウム134、137、半減期の短いテルルなどを検出して発表した時、あちこちから非難され、そのデータは無視されていました。降雨、有機栽培のイチゴからも出ていました。

モイヤー氏の2点目、CDCのデータを使って全米の死亡者数を推測するのは有効なのか、無効なのか、については、私には直ちに判断できません。氏は、なぜ氏が無効と判断するかの確たる根拠を「CDCの調査は全米の人口の3割に満たない」こと以外にはろくに挙げていません。

全人口の2割から3割のサンプルからの推測は十分に有効だと私は思いますが、放射能は届いていない、と思い込みたい人にとってはどうあっても無効になるのでしょう。

私個人は、シャーマン博士の論文が正しいのか、正しくないのかよりも、その「反論」としてサイエンティフィック・アメリカンに出たブログ記事の感情的な反発の方により興味を覚えました。

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