Monday, April 30, 2012

ブログ読者の挑戦: クラウド・ファンディングで高線量地域からめざせ避難

私の英語ブログの読者には日本在住の外国人が結構多い、と以前にも書きましたが、その中の一人、千葉県印西市に住んでいる読者は、東葛地域のすぐ東側にある高線量の市から避難するために、面白い方法を考え出しました。

 クラウド・ファンディング(Crowd funding)を使うのです。

これは、彼と彼の家族が避難できるように、その費用の寄付を募るためのページ。なぜ寄付が必要なのかを記し、目標額と期限を設定。このサイトでは、目標額に達しなくても、期限内に集まったお金を受け取れることになっています。ページのセットアップ費用は無料。お金の受け取りはペイパル(Paypal)を通じて行われるため、ペイパルの手数料が数パーセントかかりますが、手数料は寄付金から引かれますので、受け取り側が追加で払う必要はありません。

このサイトは、特に健康に関する寄付の募集(病気の治療費など)などが多いようです。印西市の読者はお子さんが3人、そのうち、一番小さい生後10ヶ月の赤ちゃんが川崎病と診断され、これ以上日本にいられない、と判断したそうです。(ちなみに、印西市の数々の除染風景を送ってくれたのは、この方です。まだご覧になっていない方は、ポストはこれこれです。)



ブログ読者のこのページ、ポストを書いている間に寄付総額が2900ドルから3100ドルに増加していました。 クラウド・ファンディングのサイトは他にも数多くあり、サイトによっては目標額に達しなければお金は受け取れないところもあります。誰でも、世界のどこからでも、寄付することが出来ます。

 福島県をはじめ、東北、関東の高線量地域から避難したくても出来ない、という人たちの理由の一つとしてほとんどの場合挙げられるのは、「先立つ金が無い」ことです。避難の費用もさることながら、仕事、家のローンなど、金の心配を合算するとどうしても払えないので半ば仕方が無い、としてそのまま暮らす選択をする家族も多いようにお見受けします。

 が、ネットの進化はクラウド・ファンディングのようなプラットフォームを可能にしています。お子様のため、ご自身の健康のため、本当は避難したい、とお思いの方々、資金を調達する方法はあるんです。

(私もブログを続けていく資金をこれで調達するかなあ...)

Thursday, April 26, 2012

今年のお茶は「安全」なのか?

答は、「わかりません」。というのも、検査方法が変わってしまったので、比べようがないのです。

まず、新しい検査の方式を、埼玉県の狭山茶を例に取って見てみましょう。読売新聞2012年4月25日の記事によると、3段階にわたって詳細に検査する、とのこと:

栽培段階: 摘み取った生葉の検査。100ベクレルを超えれば加工段階には回さない。

加工段階: 全荒茶工場で1検体以上を抽出し、湯で煎じて飲用状態にして検査。抽出液が10ベクレルを超えれば工場がある市町村全体が出荷制限。

流通・販売段階: スーパーなどで抜き打ち検査、加工段階同様の抽出液の検査で10ベクレルを超えれば回収を求める。

注意してお読みください。つまり、去年の検査とは違って、お茶の葉自体を測るのは栽培段階の生葉のみ。後段階では、荒茶、製茶となった乾燥状態の葉を検査していた去年とは違い、お茶を淹れた抽出液のセシウム含有量を測るのです

数々の疑問が沸いてきます。

1. 生葉が荒茶、製茶になると、セシウムはどれだけ濃縮されるのか?

2. 荒茶、製茶自体に入っているセシウムと、抽出液に入っているセシウムの割合は?

埼玉県の狭山茶の昨年の検査は製茶のみでした。そこで、不ぞろいではあるものの、生葉、荒茶、製茶、抽出液すべての検査を去年行っていた、静岡県の例で考えて見ることにします。

まず、生葉が乾燥されて荒茶、製茶になると、セシウムはどれだけ濃縮されるのか。

二番茶の放射能測定結果(6月10日~7月8日公表)に、生葉と荒茶の両方のデータが出ています。それを見ると、かなりばらつきがありますが、最低と最高を除外しても、生葉→荒茶でセシウムは2倍強から7倍強に濃縮されています。

狭山茶のセシウム濃縮の比率が静岡茶と同様だと仮定すると、生葉の段階でキロ100ベクレルあれば、それが荒茶、製茶になった時点でキロ200ベクレルから700ベクレルの放射性セシウムを含んでいる可能性があることになります。

次に、検査数は少ないのですが、製茶のベクレル数とその製茶を淹れた抽出液のベクレル数が出ている「自主検査に基づく追加調査(6月14日~16日公表、6月28日~29日公表、8月5日公表)」を見てみます。製茶の形態で、すべて今年3月までの暫定基準値キロ500ベクレルを超えていたお茶です:

製茶  飲用茶 (飲用茶/製茶)

614   5.8 (0.94%)

602   7.8 (1.30%)

604   7.8 (1.29%)

581   7.6 (1.31%)

654   7.3 (1.12%)

つまり、製茶の段階で旧暫定基準のキロ500ベクレルを超えるものでも、お茶として液体になると新基準キロ10ベクレルをらくらくクリアするのです。飲用茶/製茶の比率を見ると、製茶に含まれるセシウムのうち約1パーセントが湯に移行するようですので、飲用茶(抽出液)からキロ10ベクレル出たとすると製茶(おそらく荒茶も)にはキロ1000ベクレル以上入っている可能性があるわけです。生葉で100ベクレルははねる、と埼玉県は言っているので、荒茶、製茶の状態で1000ベクレルを超えるお茶はでないことと思いますが、1番茶と2番茶では濃縮度が違うのかも知れず、また、埼玉と静岡の土地の違いで濃縮度が違うのかも知れず、実際お茶になった時点でテストしないと分からないのですが、今年はテスト方式が異なる。

お茶に関しては、どうやら静岡知事の去年の言い分がそっくり通ったようですね。新基準と新基準のテスト方法は、お茶に関しては実質的基準緩和となりました。

お茶は淹れて飲むのだからかまわないじゃないか、とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。個人的には、キロ10ベクレルの抽出液が出るお茶の茶がら(99%のセシウムが残っている)を家庭ごみに捨てていいものか、迷うでしょう。また、淹れたからといってお茶の葉が完全に抽出液に入っていないか、といえばそんなことはなく、私が愛飲する粉茶は湯飲み茶碗の底に緑の粉茶が汚泥のように溜まります。また、日本製の茶の粉末エキスは健康サプリメントにも使われています。

新基準、新テスト方法をこれ幸いと、静岡、埼玉などは今年の検査では抽出液のベクレル数しか出すつもりは無いようです。もし自治体が「風評被害」とやらを防ぎたいのなら、消費者が昨年のデータと比較が出来るよう、荒茶、製茶のベクレル数も出すべきだと思います。静岡のように、知事が安全宣言を出して安全イベントをやった後で民間の業者の検査で暫定基準値超えが見つかるような失態は、昨年だけで十分ではないんでしょうか?

ウクライナの首相、チェルノブイリ周辺地域の「活性化」を計画

日本のニュースは「チェルノブイリの周辺地域の半分は永久に立ち入り禁止」という部分に着目しましたが、ロシアのニュースは「その他の半分」に注目して記事を書いています。 RIA Novostiの2012年4月23日付けの英語記事です:

ウクライナは現在、チェルノブイリ原発周辺の汚染地域を美化する政府のプログラムを拡大する方向で進めている、とミコラ・アザロフ首相は月曜日に発表した。

専門家によるとチェルノブイリ周辺の強制避難区域の放射線レベルは近年大幅に低下している、とアザロフ首相は述べ、避難区域外でもキエフ地方の居住地域で放射線レベルの高い場所は無い、と付け加えた。

「これらの放棄された家々、町、住宅地などを活性化して、『第二の生』を与える十分な理由があります。新たな仕事場となり、政府の新たな財源になります」とアザロフ首相は言う。

3月下旬、ウクライナのビクトル・ヤヌコヴィチ大統領は、4月26日、チェルノブイリ事故26周年記念の日に、チェルノブイリ原発で新しい石棺の建設を開始する、と発表した。

チェルノブイリの石棺建設の費用は9億3500万ユーロ(米12億ドル[日本円で約970億円])、大半の資金は昨年の世界各国政府からの寄付でまかなわれた。ウクライナの寄与分は全体のわずか6パーセントだ。

封じ込めるための施設は鉄製で高さ105メートル、長さ260メートル。これで原子炉を覆う。2015年までには完成する予定である、とウクライナ政府は以前に発表した。

破壊されたチェルノブイリの原子炉は1986年の事故から数ヵ月後にコンクリ製の建物で覆われたが、以来建物は劣化しており、放射能が漏れ出す恐れがある。

政府の新たな財源。どこの国でも金儲けを優先ですね。国が率先しておこなうところも、最近では全世界の傾向として著しい。

というわけで、チェルノブイリ周辺で永久立ち入り禁止にならない残りの1000平方キロは、「活性化」されるのです。日本政府と違って、一応公式には26年待っただけ上等でしょうか。何しろ日本は1年で住民を避難地域に帰還させる、という離れ業をやってますからね。

ああ、ということは、26年経って避難地域の「活性化」を図るウクライナ以上に日本の国の財政が逼迫している、ということなんでしょうか?(と、わざとらしく聞いてみる。)

ツイッターでリンクを出しましたが、去年、チェルノブイリ事故から25年経った去年制作された映画を出しておきます。ベルギーの Alain de Halleux というディレクターが作ったものだそうです。英語ですが、ナレーションは割と聞きやすいブリティッシュ英語なのでトライしてみてください。(と言いつつ、私もまだ全部見ていませんが。)チェルノブイリ周辺の荒涼とした風景、原発で今も作業をする人々の、何かロボットのような動き。

このウクライナの首相が「活性化」されたチェルノブイリ周辺の町に住むわけもなし。

Friday, April 20, 2012

今日の発見: 福島第1原発3号機の格納容器の機器ハッチシールドプラグはわずかに開いていた

もともとの事実、報道から次第にかけ離れて、遂には大本の情報とは似ても似つかぬものになる「伝言ゲーム」の例を2つポストに出しましたが(ここここ)、今日はドイツのドイチェ・ヴェレ(Deutsche Welle)までこの「伝言ゲーム」に参加していることに失望しました。(「ミスキャンパスを農水省が「食べて応援学生大使」にした」、という今年2月の脱力記事が、ドイチェ・ヴェレでは「農水省の後援で、福島の食べ物だけを食べた一番かわいい学生を選ぶコンテストがあった」に化けたと思われます。)最近この類が特に海外で余りに多く、いったいこれは何なんだろうかと思っています。(まあ、いい加減な英語記事を出す日本の新聞が一番悪いんですが。)

そんなときに私が気晴らしに逃げる場所は、日本、世界の多くの人々が「うそつきだ」、とそしる東京電力のサイト。特に気に入っているのは、写真・動画集のページです。最近このページは改良され、日にち別、テーマ別、号機別のメニューまで出来ています。

最近では、3号機使用済み燃料プールのビデオ、4号機使用済み燃料プールのビデオを興味深く見ていました。特に3号機は、あれは「核爆発だ」とか「即発臨界だ」というのが海外の専門家を含めた一種の定説になっていましたので、燃料集合体のハンドルが見えたときには、おや、と思いました。もっともプールの一部だけしかカメラは撮影できませんでしたので、そのほかの部分で専門家の方々がおっしゃるように「核爆発」、「即発臨界」が起きていた可能性もあるのでしょう。

今日は2号機のトーラス室のビデオが出ていました。2号機からはざるのように放射能が漏れている、と言うガンダーセン氏の言も聞いていたので(4月17日ラジオインタビュー)、どんなざるかと思ったら、目に見える部分ではほとんど損傷が見当りませんでした。

一見にしかずです。たとえ東電の資料であっても。(何しろ東電しか資料を出してこないし出せないからですが。)

それよりいっそう興味深かったのは、最新の資料として東電のページに上がっている、3号機の格納容器機器ハッチ調査の資料

あまり注目が集まらなかったようですが、東電は去年の11月、3号機の原子炉建屋にパックボットを入れて、格納容器機器ハッチ前の溝の調査をしていました。パックボットに溝を撮影させ、溝に溜まった水をウェスでふき取らせていました。溝の線量は最高で毎時1.32シーベルト出ていました。(詳細は去年の11月16日のポストをご参照。)

つまり、汚染水が漏れていたのです

このときはハッチが開いているかどうかの言及はありませんでしたが、私はハッチから水蒸気が漏れているのだと思いました。

それ以降、この件については続報が無く、いぶかしんでいたところ、4月19日に東電は自社社員2名を3号機の建屋に入れ、格納容器機器ハッチのシールドプラグ隙間からカメラを差し入れて内部の床を撮影したのです。

姑息なことに、隙間の写真は去年の11月、パックボットが取ったもの。この写真は11月の時点では未公開です。(こういうことをやるから東電は信用を落とすんですが...)

やはり隙間が開いていたのです

去年の3月11日に地震が起きたとき、3号機は通常運転中でした。地震でスクラムがかかり、原子炉は停止しましたが、運転中の原子炉の格納容器のハッチのプラグが開いていたはずもありません。ということは、3号機の建屋が爆発したときの衝撃なのでしょうか?

ということは、あの爆発は「燃料プールの核爆発」ではなく、格納容器(ドライウェル)自体から、Ex-Vesselの爆発だったのでしょうか?

2012年4月19日の東電のプレス発表から(強調は私):

[目的]原子炉へ注入した冷却水が、原子炉建屋まで漏えいしている状況であり、原子炉建屋1階北東の原子炉格納容器機器ハッチからの漏えい状況を確認する。

[内容]
過去の映像より、機器ハッチ前のシールドプラグと原子炉建屋の間に隙間があることを確認
・シールドプラグと原子炉建屋の隙間からイメージスコープを挿入し、機器ハッチフランジの漏えい状況を確認。

[作業実績]
・作業時間:平成24年4月19日13:27 ~ 13:48(原子炉建屋に入域時間は約4分)
・作業員:当社社員2名(被ばく量最大:8.01mSv 計画:15mSv)

[原子炉格納容器機器ハッチの状況]
・原子炉格納容器機器ハッチフランジ部近傍の状況は確認でき、水が漏えいしていると思われる床面を確認
・今回の調査結果については、今後、詳細に確認。



隙間:



乾燥床面:



水の漏洩と推定される床面:

原子炉建屋に4分で8ミリの被曝。単純に被曝量が付近の空間線量と一致していると考えても、毎時120ミリシーベルト。その約2倍の15ミリを計画していたと言うことは、やはり去年の11月の時点でパックボットが計測していた毎時200ミリシーベルト以上の線量を予想していたのでしょう。

Saturday, April 14, 2012

(伝言ゲーム・パート2)新聞記事見出し比べ: 福島3号機使用済み燃料プールでクレーン発見(日本語新聞)→福島3号機のMOX燃料が入っている使用済み燃料プールに機械が落ち、プールが損傷した(英字新聞)

4月11日の「伝言ゲーム」ポストで、毎日新聞の日本語版→英語版→海外のブログと記事が書かれる過程で、「首都圏住民の避難を余儀なくされるという想定の最悪シナリオ」が「政府は現在首都圏全住民の強制避難計画の詳細を策定中」に化けた事例を書きました。

今回は内容ではなく、記事の見出し。またも出所は日本の新聞。

東電が4月13日に出した福島第1原発3号機使用済み燃料プールの内部の写真についての記事です。

まず、数社から拾った日本語記事の見出し。

朝日: 使用済み燃料プール内の画像公開 福島第一3号機
読売: 福島第一3号機、燃料交換機がプール内に落下
共同: プールでクレーン発見 3号機、爆発で落下か

これが英語になると、
朝日: New photos show damaged fuel storage pool at Fukushima plant (新しい写真で、福島原発の燃料貯蔵プールの損傷が明らかに)
読売: (存在せず)
共同: TEPCO finds 35-ton machine fallen in Fukushima No. 3 spent fuel pool (東電、福島3号機の使用済み燃料プールに35トンの機械が落下しているのを発見)
ジャパンタイムズ: Machine fell into MOX spent-fuel pool: Tepco (東電発表: MOX使用済み燃料プールに機械が落下した)

共同通信は日本語から英語になった時点でクレーンの重量の情報が付け加えられ、爆発で落下したのかという推測が消えていますが、特に問題はありません。日本語も英語も、機械(クレーン)が落下しているのを発見した、と正確に描写しています。

結構問題なのは朝日。日本語から英語になった時点で、日本語で単に「使用済み燃料プール」というだけだったのが、「損傷を受けた燃料貯蔵プール」、という風になっています。おそらく、記事の書き手は ”Damage in the fuel storage pool”、つまり、プールの中に破損したものが入っている、という認識だったのではと好意的に解釈していますが、朝日の英語記事の見出しを日本語の忖度ができない外国人が読むと、「プール自体が損傷を受けている」、と理解します。実際にプールが損傷しているかどうかは別にして、記事の中身は日本語も英語も同じで、プールの中にがれきが散乱しており、35トンの燃料交換機の一部が見つかった、というもの。プール自体の損傷についてはどこにも記載されていません。

しかし、英語の見出しをこのようにしたおかげで、見出しだけを見てすべてを判断する傾向がより強いアメリカ人などは、「3号機プールはやはり壊れているんだ」と考え、そのように記事にします。折も折、日本でもフォローする人々の多いガンダーセン氏が「3号機も危ない」とラジオ番組で発言したばかり。この朝日の英語記事の見出しを引用して、3号機の使用済み燃料プールは壊れていた、という印象を与える記事を出している英語サイトもあり、ブログ読者があわててリンクを送ってきました。(この英語サイトでは見出しに更に拡大解釈が付いて、「広範の損傷を受けたプール」ということになっていました。)

今回の伝言ゲームの最悪の結末はジャパンタイムズ。ジャパンタイムズの見出しは、3号機使用済み燃料プールに重機が落ちた、とあたかも落ちたのが最近のような印象を与えるに留まらず、3号機使用済み燃料プールにはMOX燃料が入っているかのような書き方になっています。共同ニュースの記事を引いている、ということになっていますが、共同ニュース英語版で現在検索できた限りの記事はジャパンタイムズの記事とは見出しも内容も異なります。

このジャパンタイムズの見出しが、多くの海外の読者が福島事故の情報を求めて訪れるENENEWSに出、それを見た読者が私のブログに、「これは大変だ!」とリンクを送って来ました。ジャパンタイムズを参考にする読者は朝日、読売、毎日、共同などの英語版の記事も参考にしますので、読者の頭の中では今回は朝日とジャパンタイムズの見出しを組み合わせ、その結果「MOX燃料が入っているプールに機械が落ちて、プールが壊れている!」という話が出来上がりました。

MOX燃料についてはまったくの「風評」、プールが壊れているかどうかについては現在のところ不明だが、見た限りでは見当たらなかった、というところが妥当だと思うのですが、もう既に外国人読者の頭の中では4号機に続いてMOX燃料の入った3号機の使用済み燃料プールも今にも壊れる、あるいはもう壊れている、というイメージが出来つつあります。

日本のメディアが外国メディアに対して「風評を煽る」、とはよく言えたものだなあ、と感心しています。

東電の出した3号機燃料プール水面、水中の写真をまだご覧になっていない方、こちらです

Wednesday, April 11, 2012

福島第一原発事故「伝言ゲーム」: 日本政府の「最悪シナリオ」には、首都圏住民が避難を迫られる状況が記されていた(毎日)→日本政府は首都圏3千9百万人の住人の強制避難の詳細計画を作成中(海外ブログ)

原発事故の発生から13ヶ月、事故に関して世の中を駆け回っている情報の質は向上しているとはいえないように思います。

これは最近の小さな事例。英語ブログの読者が「大変だ、これは本当か?」と送って来たリンクをざっと辿った結果です。

発端は2012年4月2日付けの毎日新聞コラム「風知草: 宙に浮く燃料プール」。そこにこのような記載があります。

「福島原発事故独立検証委員会」(いわゆる民間事故調)報告書は、原発事故の「並行連鎖型危機」の中でも4号機プールが「もっとも『弱い環』であることを 露呈させた」と書く。政府がまとめた最悪シナリオ(同報告書に収録)も4号機プール崩壊を予測。さらに各号機の使用済み燃料も崩壊し、首都圏住民も避難を迫られるというのが最悪シナリオだ。

これが毎日新聞の英語版、毎日デイリー(毎日サイトでは既にリンクが無いので、ここから取りました)になると、

A report released in February by the Independent Investigation Commission on the Fukushima Daiichi Nuclear Accident stated that the storage pool of the plant’s No. 4 reactor has clearly been shown to be “the weakest link” in the parallel, chain-reaction crises of the nuclear disaster. The worse-case scenario drawn up by the government includes not only the collapse of the No. 4 reactor pool, but the disintegration of spent fuel rods from all the plant’s other reactors. If this were to happen, residents in the Tokyo metropolitan area would be forced to evacuate.

毎日で日本語記事を英語記事にした際に、ちょっと見では気が付かないかもしれないミスがあります。さあどこでしょう?

それは最後の文章。それまでは日本語を忠実に訳していますが、最後になって文章を独立させてしまった。これがミスです。毎日デイリーの英語記事の文章、最後の2文を反訳してみます:

政府による最悪シナリオでは4号機の燃料プールの崩壊が想定されているだけではなく、原発内の他の原子炉すべての使用済み燃料が崩壊することが想定されている。もしそのようなことが起これば、首都圏の住人は避難を余儀なくされる。

元の日本語毎日記事では、「首都圏住民も避難を迫られる」のは政府(実際は原子力委員会)が想定した最悪シナリオの一部として記載していますが、英語部分ではこの部分を最悪シナリオの言及を省いた文章にしたため、これが政府のシナリオの中の想定ではなく、この文章を書いたコラムニストの見解である、という捕らえ方が可能になる書き方です。

実際、毎日デイリーで英語記事を読んだ読者はそう思ったようです。また、毎日の英語に頼った海外のサイトもそのように解釈し、記事に仕立てました。上記のMainichi Dailyの記事コピーをとったサイトでは、”It’s Not Over: Government Plans for the Worst: Forced Evacuation of Tokyo (事故はまだ終わっていない: 日本政府の最悪の事態に備えた計画: 東京の強制避難)”というタイトルの記事で、

Even more alarming is that the U.S. Nuclear Regulatory Commission (NRC) and other agencies have warned that the nuclear storage pools (the containment units that are being used to cool the nuclear fuel) have been damaged and may collapse under their own weight.

さらに恐ろしいのは、米国原子力規制委員会などの省庁が核貯蔵プール(核燃料を冷却するために使用される、格納ユニット)複数が損傷しており、自重で崩壊するかもしれない、と警告していることである。

Such an event would cause widespread nuclear fallout throughout the region and force the government to evacuate the nearly 10 million residents of Tokyo and surrounding areas, a scenario which government emergency planners are now taking into serious consideration.

このような事態が起きると広範囲に放射能が広がり、日本政府は1千万人の東京都民および周辺地域の住民を避難させざるを得ない。そのようなシナリオを日本政府の緊急災害対策担当者は真剣に検討を始めている。

使っている用語を見る限りこれを書いた人は原発のことをあまり知らない人だろうと思われますが、このサイトの残りの記事を読むと、日本政府が検討している、という話の根拠は毎日デイリーの記事のみ。悪いことには、このような海外メディア(特にブログ)は、「最悪シナリオ」を管政権が「存在しないこと」にして握りつぶしていたことをおそらく知らないため、「最悪シナリオ」を政府が持っているということは政府はそれに基づいて計画を立てているのだ、と短絡的に思い込み、このような記事を書きそれが全世界に広がる、という事態になっています。(知っていて書かなかった可能性ももちろんあります。)

このサイトを更に引用しているのがこのサイト。タイトルは更にエスカレートして、”Fukushima Forcing Tokyo To Evacuate! (福島事故で東京は強制避難に!)”、内容も更にエスカレートして、

If the storage pool were to fracture, the nuclear fuel would immediately heat up and explode. Radioactive fallout would be dispersed over a wide and uncontainable area. At this time now, the Japanese government are creating blueprints for forcibly removing 39 million people from the Tokyo metro-area.

貯蔵プールにひびが入れば、核燃料は直ちに加熱して爆発する。放射能が広い地域に拡散し、拡散を抑えることは出来ない。現在、日本政府は、首都圏の3千9百万人の住民を強制的に避難させるための詳細な計画を作成中である。

(ちなみにこのサイトは上記の記載の直前に、「日本では放射能の不安を口にする人々を精神病院に監禁している」という出典不明の文章があります。)

というわけで、元は単に

民間事故調の報告書にも掲載されていた日本政府の「最悪シナリオ」には、首都圏住民が避難を迫られる状況が記されていた

というだけの話が、

日本政府は首都圏3千9百万人の住人の強制避難の詳細計画を作成中

に化けました。

これが日本に逆輸入される日も近いでしょう。(既にされていますかね。)海外のネットメディア、メッセージボードなどでは、この話で持ちきりのところもあります。大変だ、日本脱出だ!というわけです。折も折、福島4号機が倒れるとか、4号機使用済み燃料プールにひびが入れば地球は終わりだ、というような発言が国内外で再び相次いでいる昨今、このようなブログ、ウェブサイトの「妄想」はそのまま信用されているようです。

実際に、英語ブログでこの妄想を指摘したところ、「でもありうる話だ、何しろ4号機が倒れそうなんだから」という答。それと、二言目には「日本政府、東電、マスコミの言うことは信用できない」。そんな計画など、立てたくても立てようがないだろう、という真っ当な意見はわずか1名。

こと福島原発事故、放射能汚染についての報道でマスメディアを信用しない傾向は日本も外国も同じようになってきましたが、かといって独立メディアやネットメディアが信用できるわけでもありません。マスメディアとひっくくられる中に入るニューヨークタイムズ紙などでも、日本在住の記者が取材に基づいて書いた丁寧な記事が出ます。ただ、そのような優秀な記事でもまずニューヨークタイムズに出た、と言うだけで疑いの目で見られ、扇情的なことも書いていないので「信用されない」というおかしなことになっています。

結局、読み手が賢くなって情報を精査できるようになるしかないのですが、そこまでする時間がまずないのでしょう。事故から1年以上経って、そこまでする気力もなくなってきているように思えます。特にこの1、2ヶ月で、このような「伝言ゲーム」がずいぶん増えているような気がします。そして、そのゲームの一番最後の方に登場する、大本の情報からかけ離れた言葉が独り歩きしています。

皮肉なことに、発端を作った毎日新聞はオンラインのサイトを再構成し、英語版と日本語版のサイトを合体させ、「英語を学ぶ日本人の読者もターゲット」にする、とのこと。まあ、この例で見た限りは、毎日の記事で英語を勉強したらちょっとずれるかな、と思います。

Saturday, April 7, 2012

米ブルームバーグニュース:今までに日本が行った食品放射能検査の件数は、去年ベラルーシが行った件数の1%

2012年3月18日付けの米ブルームバーグニュースは、農林中金総合研究所の理事研究員、石田信隆氏の言を引用して、このように述べています:

Inadequate testing by the government of rice, milk and fish from the region has prompted consumers to leave them on supermarket shelves and instead select produce from other regions or from overseas. Checks conducted nationwide so far are only 1 percent of what Belarus checked in the past year, a quarter century after the Chernobyl disaster, according to Nobutaka Ishida, a researcher at Norinchukin Research Institute.

政府による検査が不十分なため、消費者は[福島産の]コメ、牛乳、魚がスーパーに並んでいても買わず、他の地域産、あるいは外国産の物を選んでいる。これまでに全国で行われた検査の点数は、チェルノブイリ事故から4半世紀[25年]経った昨年、ベラルーシが行った検査の点数のわずか1パーセントに過ぎない、と農林中金総合研究所の研究員、石田信隆氏は言う。

更に、東京のJSC Corp商品取引アナリストのシゲモト・タカシ氏の言を引き、

“Consumer worries may deal a severe blow to farming in the region for the next five years or more,” said Takaki Shigemoto, commodity analyst at research company JSC Corp., in Tokyo. “The number of farmers will decline and agricultural production will decrease, leading to further increase in Japan’s farm imports.”

「消費者の不安は、今後5年あるいは更に長い間、福島の農業に大きな痛手を与えるかもしれない」、と言うのは、東京のJSC Corpの商品取引アナリスト、シゲモト・タカシ氏である。「農業従事者の数が減り、農業生産が落ち、日本の農作物輸入が増加する。」

福島第1原発事故自体の初動対応からケチがついた日本政府は、昨年4月以降放射能汚染の実態が明らかになってからも対策は後手にまわり、消費者とすれば自衛するしかありません。

農林中金の石田氏が言うとおり、日本の食品放射能検査の件数が昨年のベラルーシのわずか1%だったとすれば、それで安心する消費者がいるのが不思議なくらいですね。

ベラルーシの検査件数については既にご存知の方も多いと思いますが、金融機関のアナリストの発言の中での言及だったのが興味深い。福島および日本の農業のあまり芳しくない将来展望に、彼らはどのような投資機会を見出しているのか、知りたいものです。

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追加情報(4月9日):

「めぐ」さんのブログで、更に詳しい考察があります。人口比で考えると、日本はベラルーシの1330分の1の検査数の可能性:

http://ameblo.jp/megumi-jk/entry-11217848493.html

Tuesday, April 3, 2012

「東電、福島の木くず拒否」の読売新聞報道日本語版に欠けていた情報

読売新聞オンラインに2012年4月3日付けで、「東電、福島の木くず拒否…積み上がり発火恐れも」という記事が出ていました。

同じトピックで英文記事が存在し、英語版の読売新聞であるYomiuri Dailyに4月4日付け記事として出ています。記事の3分の2ほどは、文章の順序が日本語と多少違うものの内容は同じものをカバーしています。ところが、英文記事の後半の3分の1に、日本語の記事にまったく存在しない内容が出ています。

福島第1原発事故から13ヶ月になろうとしている現在でも、事故当初の1、2ヶ月と同じように、英語と日本語で同じ新聞社でも出す情報が違う、ということをまだやっているのか、それとも読売新聞の紙面では英文記事と同じ内容が出ていたのか、不明です。

まず日本語記事

東京電力福島第一原発事故の影響でがれき処理が問題になる中、製材で発生する木くずでも、受け入れを巡り業者が苦境に立たされている。

 一部で高い濃度の放射性セシウムが検出されたこともあって、行き場を失った木くずは福島、栃木両県で計約2万5000トンに上る。業者は東電の火力発電所で燃料として使ってほしいと要請したが、東電は拒否。林野庁などは「風評被害をあおりかねない行為」として、近く東電に受け入れを要請する。

 「このままでは工場の操業がストップしてしまう。廃業に追い込まれる業者も出るだろう」。福島県内の製材業者など約200社で作る県木材協同組合連合会(福島市)の幹部は頭を抱える。

 悩みの種は、木を切り出し、製材する過程で剥がす樹皮。通常は、堆肥や家畜の寝床用に1トン1000円前後で引き取られる。

 だが、原発事故後の昨年8月、林野庁の調査で一部の樹皮から1キロ・グラム当たり最大約2700ベクレルの放射性セシウムを検出。その後は同200~300ベクレル程度に下がり、国の定める堆肥の基準(同400ベクレル)より低くなったが、それでも、毎月4000トン発生する樹皮のうち、引き取ってもらえるのは4分の1程度だ。

 連合会によると、現時点で計2万トンが業者の敷地内などに仮置きされている。圧縮しても高さ4~5メートルほどに積み上がり、発酵して発火する恐れもあるという。同様の問題は隣接する栃木県にも及び、3月時点で十数業者の抱える計約5000トンが処理できない状態だ。


そして、英文記事にだけ存在する箇所:

まず、「県木材協同組合連合会(福島市)の幹部」の方のお名前: ムナカタ・ヨシアキさん

そして、

The association came up with the idea of using the wood chips as fuel to generate thermal power. Chugoku Electric Power Co. began power generation by burning coal and wood biomass such as bark simultaneously in 2005. Since then, other utilities have followed suit and TEPCO had also planned to start from this fiscal year.

[県木材協同組合]連合会は木くずを火力発電の燃料として使うアイデアを思いついた。中国電力は2005年、石炭と木の皮などの木質バイオマスを同時に燃焼して発電を開始した。以来、他の電力会社も同調し、東電も本年度から同様に発電を開始する計画だった。

The association said it asked TEPCO to take the wood chips on four occasions between October and February, but the requests were declined.

連合会によると、昨年の10月から今年の2月にかけて4回、東電に木くずを受け入れるように要請したが、そのつど拒否された

TEPCO initially told the association that using the wood chips to generate thermal power is technically difficult. But the utility later changed its rationale, saying such a measure is difficult to be taken at the moment because burying ash that contains radioactive cesium requires consent from local residents.

東電の連合会に対する当初の説明は、木くずを火力発電に使うのは技術的に難しい、というものだった。しかし、その後、放射性セシウムを含む灰を埋め立てるのには地元住民の同意が必要であるため、そのようなことを行うのは現在は難しい、という理由に変わっている

According to the Forestry Agency, the density of radioactive cesium in ash from burned bark is about 30 times higher than that of bark before incineration. But the radiation level for the bark ash is expected to be less than 8,000 becquerels per kilo-gram--an allowable level for landfill.

林野庁によると、樹皮を燃やした灰に含まれる放射性セシウムの濃度は、燃焼前の樹皮に含まれる濃度の約30倍になる。しかし、樹皮を燃やした灰の放射能レベルは、処分場に埋め立てが可能なキロ当たり8000ベクレル以下になるものと予想される。

Officials of the Forestry Agency and the Natural Resources and Energy Agency view TEPCO's refusal as an act that goes against the purpose of the special law requiring the utility to cooperate in antiradiation measures. The agencies therefore plan to ask TEPCO to take in the bark, the sources said.

林野庁と資源エネルギー庁は、東電の拒絶を、東電が除染対策[だと思う]に協力することを求めた特別措置法の目的に反する行為だと見ている。関係者によると、両庁は東電に木くずを受け入れるよう要請する予定とのことである。

Meanwhile, a TEPCO spokesperson said the refusal is due to concern over a stable power supply.

一方、東電のスポークスマンは、木くずの拒否は安定電力供給についての懸念によるものだ、としている。

"If we don't have clear prospects for disposal of the [bark] ash, that would affect operations of our power stations," the spokesperson said.

樹皮からの灰の処分についてはっきりした目処が立たないと、発電所の運転に支障が出るからです。」

樹皮を燃やすとセシウム濃度が30倍になる、と日本語の記事に書けないのでしょうか?

読売の記事によると樹皮のセシウム量は一時より下がって「300ベクレル」ですが、これが灰になって濃度が30倍になるとすると、キロ当たり9000ベクレルとなり、環境省が勝手に全国基準にしてしまった通常埋め立て基準8000ベクレルを軽く超えます。

(ちょっと待った。下がって、と言うけれど、セシウム137の半減期は30年、1年で2700ベクレルのものが300ベクレルに下がるわけが無い。つまり、取ってくる場所が違っているだけでしょう。)

今年の3月27日に林野庁が発表した木質ペレットの燃焼試験結果では、広葉樹樹皮から作ったペレットのセシウム濃縮は20倍以下になっていますが、検体はわずか2検体。(ちなみに、他の木質ペレットの濃縮度は100倍から200倍、最高は243倍です。)読売が根拠とした林野庁の資料は、ざっと見た限りなのでまだ見つけていません。(ご存知の方お知らせください。)

ちなみに、林野庁のウェブサイトには、(樹皮の付いた)薪を燃やすとセシウム濃度が182倍になる、と書いてあります。林野庁では、8000ベクレルを超えないために、薪の放射性セシウム濃度をキロ当たり40ベクレル、としています。この濃縮度を福島の木くずに当てはめると、300ベクレルの182倍で5万4600ベクレルとなり、埋め立て不可能の濃度になります。今年の2月、福島産の薪を使っていた沖縄の飲食店で、使用後の灰からキロ当たり4万ベクレル近いセシウムが出ています。

また、放射性セシウムを含む灰を埋め立てるには地元の住民の同意が必要、と言うのも、書けないのでしょうか?英文の当該段落では、埋め立てるベクレル数は明示していません。

さて、この件では、東電がんばれ。木くずを引き受けるだけならともかく、火力発電所で焼却させられたら、付近の住民は堪ったものではありません。

とりあえず福島第1原発の敷地に仮置きするくらいは出来そうですが。

また、ツイートで出しましたが、読売英語記事を読んだ英語ブログ読者から、

細野が東京都知事を連れて、メガホンを持って東電本社に行き、「(木くずを)焼却して福島の復興を助けましょう!」と叫ぶパフォーマンスが見られるかね、まあ無理だろうが

とのコメント。(見たい。)

Sunday, April 1, 2012

「福島第1原発事故で、2号機原子炉から大量の放射性物質が大気中に放出されるシナリオ」 - 圧力抑制室と格納容器の損傷

という論文が、Journal of Nuclear Science and Technology Volume 49, Issue 4, 2012 (日本原子力学会の公式雑誌)に掲載されています。論文を書いたのは社会技術システム安全研究所田辺文也氏。去年の8月に、3号機は2度炉心溶融を起こし、その2度目が3月21日ごろで、圧力容器から格納容器に燃料が落ち、そのために大量の放射能が拡散されて東北関東の広い地域で放射線量が跳ね上がった、という仮説を出された方です。

また、11月19日には、2号機の圧力抑制室は3月11日の地震で損傷を受けたか劣化した可能性が高い、という解析を発表されています。今回の論文は、この11月の解析の論文のようです。

論文概要を見ると、それに加え、3月15日の早朝に、溶融炉心からの高熱のために格納容器も損傷している可能性を挙げています。

Taylor & Francis Online掲載の論文概要の私訳:

福島第1原発事故で、2号機原子炉から大量の放射性物質が大気中に放出されるシナリオ

田辺文也

概要

炉心溶融事故について、計測されたデータの解析と計算結果の検討に基づき、2号機から大量の放射性物質が放出されるシナリオを考察する。格納容器圧力抑制室(S/C)は、2011年3月11日の巨大地震による地震荷重のみによって、あるいは地震による劣化と逃がし安全弁からの蒸気流入による動的荷重によって、3月12日の正午までには損傷していた可能性がある。逃がし安全弁(SRV)2つを3月14日21時18分に開放したことによって大量の放射性物質が圧力抑制室の損傷部分から放出された可能性があり、21時37分、原発正門付近での空間線量が毎時3.13のマイナス3乗シーベルト[3.13ミリシーベルト]を記録している。格納容器ドライウェル(D/W)は3月15日6時25分に、圧力容器から格納容器ドライウェルの床上に落ちた溶融燃料から来る高温のためにケーブル貫通部のシールが損傷し、格納容器が損傷した可能性がある。格納容器損傷部分から大量の放射性物質が拡散された可能性があり、3月15日の午前9時には空間線量が最高毎時1.193のマイナス2乗シーベルト[11.93ミリシーベルト]に達した。

A scenario of large amount of radioactive materials discharge to the air from the Unit 2 reactor in the Fukushima Daiichi NPP accident

Fumiya Tanabe

Abstract:

Based on an analysis of the measured data with review of calculated results on the core melt accident, a scenario is investigated for large amount of radioactive materials discharge to the air from the Unit 2 reactor. The containment pressure suppression chamber (S/C) should have failed until the noon on 12 March 2011 only by seismic load due to the huge earthquake on 11 March or by combination of seismic deterioration and dynamic load due to steam flowing-in through safety relief valve. Opening of the two safety relief valves (SRVs) at 14 March 21:18 should have resulted in discharge of large amount of radioactive materials through the S/C breach with the measured air dose rate peak value of 3.130E-3Sv/h at 21:37 near the main gate of the site. The containment drywell (D/W) should have failed at 15 March 06:25, at the cable penetration seal due to high temperature caused by the fuel materials heating up on the floor of the D/W, which had flowed out from the reactor pressure vessel. Then large amount of radioactive materials should have been discharged through the D/W breach with the measured air dose rate peak value of 1.193E-2Sv/h at 15 March 9:00.

(H/T 名古屋大遠藤知弘さん@hyd3nekosuki)

Thursday, March 29, 2012

(こんなんで大丈夫?)千葉県印西市の除染風景パート2

タケノコから4月1日から施行の新しい安全基準を超えるキロ当たり180ベクレルのセシウムが検出された千葉県印西市。

印西市在住のブログ読者から寄せられた、印西市の小学校の「除染」風景を3月18日のポストでご紹介しましたが、更に追加で写真をお届けします。

市内の公園の風景。どこもこんなもの、とのコメント。これは、高線量の砂場の砂を入れ替え、その砂を公園内に埋めるために掘った穴から出た土だ、と言うことです。(どうやって砂を埋めたのか、3月18日の学校校庭の除染の写真を見る限り、あまり安心できなそうですが。)

中学校の校庭。幅跳びに使う砂場。シートをかぶせ、シートの飛散防止に古タイヤを置いています。

雨どいの下。毎時4.37マイクロシーベルト。除染後でも2.5マイクロだそうです。

印西市がとりわけ「適当」にやっているわけではないと思います。東北、関東の市町村は多かれ少なかれ、この程度の「除染」なのではと推測します。(それでも、やるだけまし。東京都などは、周辺の放射線量と毎時1マイクロ以上の差が出なければ何もしない、と公言しています。)

(H/T reader Chibaguy)

Monday, March 26, 2012

がれき広域処理に反対する、ささやかな声 (ゲストポスト)

このブログで今年の1月にご紹介した、ネクタリーナさん(「原発事故、放射能汚染を親しい人と語れない」)のお友達が書かれたものです。東京から山口に避難なさって健康を取り戻したものの、山口県防府市ががれきを受け入れる意向、と知って、以下に掲載する文とほぼ同文の手紙を山口県知事宛に送ったそうです。

ネクタリーナさんと似た素直な文章で、ご自分の体験から書かれています。

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私は昨年3月11日には東京で会社員として勤務していました。
福島原発爆発で放出された大量の放射性物質は風にのって東京にもプルームとしてやってきて、3月15日と21日の雨で降り注ぎ、東京を汚染しました。

放射性物質が含まれた雨に濡れると被曝することを知らなかった私は、仕事の帰りにその雨に濡れてしまいました。右手を怪我していたのに雨に濡れたのは本当に運が悪かったと思います。

クレーターのように皮膚に穴があき、ぼこっと血が噴き出るなど、かつて経験したことのない症状がすぐにでました。そしてその後、下痢がとまらない、倦怠感、頭痛、熱が下がらない、帯状疱疹、リンパの腫れ、紫斑がでる、小さな疱疹が繰り返しできるなどの症状に悩まされました。

11月に心臓が急に痛みはじめた時は、もうこのままでは死んでしまうと避難を決意しました。

日本のどこなら安全だろうと避難先を探した時に、幼い頃住んだことがある瀬戸内海沿いなら地震も津波も少ないし、福島原発からは950kmと離れているし、海の汚染も太平洋側よりはずっと少ないだろうと思いました。

何より東京ではもう水源地が汚染されたために水道水も汚染されていて、炊事はミネラルウォーターを使いましたが、お風呂や洗濯、掃除すべてが汚染された水道水を使うしかなく、もうこの状態では東京で生活していくのは無理でした。

また汚染が少ないであろう西の食材を買いたくても、産地偽装が横行していて、不安は尽きませんでした。

だから安心できる空気や水、食材を求めて山口県に避難することを決意しました。

昨年12月に仕事を辞めて山口県に避難してきた時は、心からほっとしました。
安心して呼吸できる空気、安心して使える水道、新鮮な地元産の野菜が手に入る喜び。綺麗な海や川、優しい山口県の人たちの人情に触れて嬉しくて涙しました。

洗濯ものを外に干せる喜び、マスクなしでも外を歩ける感激、体調もこちらに来てからだいぶ回復しました。
仕事をやめて、生活基盤は失ったけれどもとにかく生きていれば、道が開ける。そのことがとても嬉しかったです。

まだ関東に残っている友人たちに、山口産のお野菜を送り、「新鮮でとても美味しい」と喜ばれています。
みんな「山口県は素晴らしいところだね。山口県に移住したい」と言ってくれています。

しかし先日、防府市が瓦礫を受け入れる意向だと新聞で知りました。
その時もうこれ以上どこに逃げればいいのか、途方に暮れて悲しい気持ちでいっぱいになりました。

この山口県の素晴らしい自然は宝物です。これを汚染させることがないよう、心からお願いいたします。
これからも綺麗な海や空、空気、食べ物を守ってください。

そして私と同じように体調不良に苦しんでいる東日本の人々が安心して移住して来られる山口県でいてください。
今関東にいる多くの友人は避難したいけれども瓦礫受け入れの動向を確かめてからと、じっとことの顛末を注目しています。

是非そういう人たちを受け入れられるよう、「瓦礫は受け入れない」と宣言していただきたいです。

どうかよろしくお願いいたします。

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放射能に対する感受性はそれこそ個人個人によって大きく違います。ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告ですらそのことを明言しており、「平均的個人」を対象とする対策にはあまり意味がない、としています。

アメリカ、ヨーロッパ在住の読者は英語ブログの方に、去年の事故の最初の頃から、「放射線の影響としか思えない健康被害が自分に出ている」というコメントを寄せてきています。最近ではそれに皮肉を利かせて、「山下教授の言うように笑っていないせいだろう」と言い、その裏に「日本人はいったい何やってるんだ?」という気持ちが怒りに変わってきつつあるのが分かります。政治家、官僚のことではありません。一般の日本市民は何やってるんだ、と言うのです。

彼らは日本が放射能に汚染された地震・津波がれきを日本中で焼却するという恐ろしい事態に対して遠方から何をすることも出来ず、何もしていない(ように海外からは見える)一般の日本人が理解不能な不可思議なものに見えるのです。危険が迫ると頭を砂に突っ込むダチョウのように、放射能汚染を見たくない、知りたくないのは日本人の勝手だが、世界にこれ以上汚染を撒き散らすのはやめてくれ、と彼らは言います。

このネクタリーナさんのお友達の文章を英語ブログでも出してみようかと思います。ちゃんと声を上げている日本人もいる証拠に。

Saturday, March 24, 2012

大学研究者2人の好対照な放射能講座

京都大学の小出裕章さんは昨年の事故後早いうちから全国で最初は反原発(「脱原発」)を主にした集会、講演会などを開催していらっしゃいました。その後、放射能汚染について語りだされ、一つ信じたら全部信じなければいけない、と思い込む傾向のある日本人の間で、小出さんの放射能に汚染されたがれき、農作物などについてのお考えを巡って意見が割れました。

それはともかく、USTREAMに小出さんの2012年3月24日の飯能市での講演会のビデオが上がっています。全部で2時間近いビデオですが、1時間過ぎに群馬大早川さんの放射線マップが出てきます。小出さんはそれを使って、集まった飯能の人々に、浜岡が事故っても、柏崎・刈羽が事故っても、飯能はやられる、もうどこにも逃げるところがないんです、と非常にシニカルな口調でおっしゃっています。(1時間9分後)



Video streaming by Ustream

早川さんの地図を使っていながらまるでご自分の地図のような説明をされたのも驚きましたが、あの地図は去年の3月の天気と風向きに拠ったもので非常に個別的なものです。それを適当に回転させて、ほらそれでも飯能市は放射線管理区域ですよ、は違うんではないでしょうか。

更に、「どこにも逃げようがない。日本というこんな狭い国で、危ないからと言って過疎地に押し付けてきたわけですが、事故がおきてしまえばもう後は運だのみ、風がどっちから吹いてくるか、どこももう逃げるところがない、という状態に、既にこの日本と言う国はなってしまったのです」

「どこにも逃げるところがない」というおっしゃりようは、「どうせ汚染されていない食物はどこにもないのだから、みんなで食べて農家を応援しよう」と大差ない言い様です。実際には、福島の浜通り、中通りより東京、神奈川の方が汚染は少なく、関西以西は格段に少ないかほとんど汚染がない。関西以西の原発でも事故が起きる可能性があるのだから逃げるところがない、原発を許してきた一人一人が責任を取れ、というご趣旨だとは思いますが、この内容と伝達方法からは、では具体的にどうするのがいいのか、という個人の行動指針は生まれて来難いのではないでしょうか。

「暗きより 暗き道にぞ入りぬべき」 とでも言うような、ドツボの暗い心境に陥らせてくれる講演でした。このような情報伝達で得られるものは一体なんでしょうか?どこにも逃げるところがない、どこも汚染されている、だから原発を止めろ?

「遥かに照らせ山の端の月」 の部分はないかなあと探して見つけたのが、小出さんに放射線マップを無断使用された群馬大学の早川由紀夫さんの「明るく楽しい放射能リスク学習会」。ビデオは、2012年1月29日に逗子市で行われた学習会のビデオパート2です。

「明るく楽しい」と銘打ってあるものの、話自体はシビアなものです。それでも私が思わず爆笑してしまったのは、早川さんが学習会に保護者と参加している小さな子供たちの注意をひきつけるべく、ご機嫌を取っている様子でした。

注意散漫になってきた幼児に、「ああ、お名前はー?ああそう2歳?」 青プリンマークを指して、「これが変わるから、見ててねー」 「おそうじ、手伝ってねー」 「きれいにすれば住めます。食べ物には気をつけてください」 (子供が、「ばななー」) 「ああバナナは南の国から来たから大丈夫ね」

早川さんも、「どこも汚染されてしまった、食べ物も汚染されてしまった」と小出さんと同じことを言っています。それでも笑えるのは、小さな子供が好き勝手を言っても大丈夫なリラックスした雰囲気であることもさることながら、それではどうしたらいいのか、が個人のレベルで具体的に見えてくるからではないか、と思います。



Video streaming by Ustream

(追記3月25日: それにしても、事が放射能に汚染された災害がれきの話になると、早川さんが「広げろ、燃やせ」になるのには閉口。がれきの拒否は東北の人への差別だ、とどこぞで聞いたせりふ(がれきを米、農作物に置き換えて見ましょう)が飛び出すのには更に閉口。)

Thursday, March 22, 2012

日本政府が異議を唱えたIAEA提案の食物汚染地域の定義は、重大事故を起こした原発から300キロ圏内の地域だった

朝日新聞・Asia Japan Watch (AJW)2012年3月17日付け記事(英文)をざっと翻訳してみました。日本語の元記事があるのかもしれませんが、朝日のサイトからは(購読者ではないので)探せませんでした。ということで、私が勝手にやった私訳です。大急ぎでほとんど直訳でやったので、姑息に後で直すかもしれません。

日本語の元記事があったとすると、それを英訳したものを反訳して日本語にしても元の日本語には絶対に戻りませんのであしからず。強調は私です。

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Asia Japan Watch 2012年3月17日

日本政府はIAEAの食物汚染地域の定義に異議を唱えていた

大岩ゆり


2005年、国際原子力機関(IAEA)が原子力非常時に食物の摂取規制を行う地域を定義することを提案した時、日本政府は異議を唱えた。

その結果、ウィーンに拠点を置く国際的な原子力の監視人[である国際原子力機関]はそのような地域を定義することはなく、6年後に福島第1原発事故が起きてから、厚生労働省があわてて規制を導入する、という有様になった。

朝日新聞の請求に応じて公開された公文書によると、原子力災害に備え、農作物の出荷禁止その他の策を講じて放射能汚染された食物の摂取を規制する地域を指定しようとするIAEAの提案に、日本政府は異議を申し立てた。

IAEAは2005年2月、、重大事故の場合、1ギガワット級の原子力発電所の300キロ圏内で食物摂取規制を行うべきである、とする安全基準の草案を作成した。

文書によると、日本政府の原子力安全保安院、原子力安全委員会、文部科学省が2005年5月にIAEAの提案を検討した。

検討会の出席者は、日本政府の名で、IAEA提案の区域の具体的な距離の数字を削除するよう求めることを決定した。

出席者は、「食物規制区域を定義する前に、悪い評判[風評]やその他の要因を考慮する」必要性を理由として挙げた。また、報告書によると、彼らの意見は、「チェルノブイリのような大きな影響がある事故を想定するのは適当かどうかを考慮する」必要がある、というものだった。

ブラジル政府も同様の抗議を行った。結局、[原発からの]距離の明示は削除された。

昨年3月の東日本大震災が福島第1原発を麻痺させるまで、日本政府が設定していた[原子力]災害対策ガイドラインは、政府の災害対策本部が食物摂取の規制を行う方策の「考慮を開始する」、というものだけだった。当時の政府関係者は、事故の発生から食物摂取規制を実施するまで、「十分の時間がある」、としていた。

福島事故後、厚生労働省は慌てて暫定安全基準を設定したが、これは充分ではなかったかもしれない。

「今回の事故の後、暫定安全基準を超える放射性セシウムが福島原発から300キロ以上離れた静岡県のお茶の葉から検出されました」、と言うのは原子力安全委員会管理環境課の都築秀明課長。[だと思いますが、確定ではありません...。] 「今思えば、300キロ圏は大きすぎるということはなかった。チェルノブイリの経験で、人体に害の出るレベル以下の放射性物質が植物や家畜などに濃縮されうる、ということを私たちは知っていました。

原子力安全委員会は現在災害対応ガイドラインの見直しを行っており、食物、飲料の摂取規制を行う放射性物質のレベルの具体的な数字を定義する予定である。

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チェルノブイリ規模の事故を想定することが適当か、と(原子力推進の)IAEAにいちゃもんを付けておいて、「今思えば300キロ圏内は大きすぎることはなかったんですねえ」、などと今更言われても、「ふざけるな」としか言い様がありません。

決して忘れてはならないのは、日本政府がやったのは出荷の規制どころか、福島・東北・関東の野菜、肉、米を食べよう、というキャンペーンでした。福島県の計画的避難区域の牛、豚は、避難の期日までに大量に全国に売られました。野菜の検査は1市町村の1農場の1つの畑から作物1つ選んで行う、という検査でした。厚生労働省が慌てて食物の規制をかけようとする中、規制が何もなかった稲わら、シイタケ栽培用の培地(木屑など)が、汚染地域から自由に流通していました。

野田首相は外国人記者相手に、「原発事故の責任は個人にはない」と断言していましたが、事故発生後の対応には政府の政治家、官僚、一人一人に重大な責任があると思います。

Tuesday, March 20, 2012

【記録】保安院が握り潰した東電の放射能拡散予測

福島第1原発事故による放射能拡散のシミュレーションについては、文部科学省が握りつぶしたSPEEDIだけでなく、東京電力が事故当日の2011年3月11日から独自に放射能拡散予測を行い、シミュレーションの結果を経済産業大臣(当時の海江田万里)、福島県知事(当時も今も佐藤雄平)、大熊町町長、双葉町町長宛てにファックスで流し続けていたことは英語ブログで昨年の6月に取り上げましたが、保安院がそのことを認めて理由まで述べていたことは知りませんでした。(日本語ブログでもNHKの番組の紹介をして取り上げたと思うのですが、自分のブログの検索がうまくかかりません...。)

保安院がその情報を使いもしなかった理由がふるっているので、記録に残そうと思います。

その理由とは、

予測は保安院でなく、東電の考えだったため(あえて公表しなかった)

ふざけるな。

事故当事者の民間が何を言おうとも関係ない、と言うわけです。東電の拡散予測は福島第1原発の吉田所長の名前で出され、拡散予測マップのほかに手書きで住民の被曝予想、希ガス放出総量予測(約60万テラベクレル)が書いてありました。

保安院のふざけた答弁(あの西山審議官です)を報道した、今は消えてしまった毎日新聞2011年6月26日の記事を、このブログで見つけました:

東日本大震災:福島第1原発事故 拡散予測、公表せず 保安院、東電のベント前報告
 
東京電力福島第1原発1~3号機で、原子炉格納容器を守るため圧力を下げる『ベント(排気)』をする前に、東電が原発周辺への放射性物質の拡散予測をまとめ、経済産業省原子力安全・保安院に報告したにもかかわらず、一般には知らされていなかったことが25日、分かった。

住民が避難行動する際の一助になった可能性もあるため、事故の原因究明や検証をする政府の『事故調査・検証委員会』でも検証されそうだ。

拡散予測は、保安院が24日夜にホームページ上で公開した、計約1万1000枚の資料に含まれていた。

文書は、原子力災害対策特措法に基づき、3月11日の福島原発事故発生直後から送られたもので、同日は5月末までの分が公開された。

これによると、同原発1~3号機でベントをする前に、東電は燃料が損傷するなど重大事故が発生したと仮定。風向きや風速などを考慮しながら、1、3、5、24時間後に放射性物質の希ガスやヨウ素が拡散する状況などを予測した。

東電は結果を保安院や福島県、同県大熊町、双葉町の4カ所にそれぞれファクスで送付していた

一般に公表しなかった理由について、保安院の西山英彦審議官は、

予測は保安院でなく、東電の考えだったため(あえて公表しなかった)。公表すべきだったかは、検証される必要がある』と語った。

(毎日新聞 2011年6月26日)


東電の本店と福島第1原発が事故対応の真っ只中で発信していた情報は、保安院のサイトに今も出ています。ここです→http://www.nisa.meti.go.jp/earthquake/plant/1/230617-1-2.pdf

これは、その資料の一ページ目です。吉田所長の手書きのようです。

去年の3月、東電が資料を出さない、けしからん、と管前首相、政府が騒いでいましたが、何のことはない、出てきた中でもしかしたら一番重要な情報だった東電からの放射能拡散予測を握りつぶしたのは、ほかならぬ政府でした。

今年3月21日付けの東京新聞には、福島県が、文部科学省がSPEEDIを委託している原子力安全技術センターから、SPEEDIのシミュレーション結果を2011年3月11日からメールで受け取っていたにもかかわらず、担当がメールを削除していた、という信じられないニュースが出ています。東京新聞も記事がすぐ消えるので、こちらもコピーしておきます。

一番肝心な時期のシミュレーションを無いことにして、知らぬ顔をして被害者面を下げていたのですねえあの知事は。福島県は事故当初から、文部科学省のSPEEDI、保安院のシミュレーション、東電のシミュレーションを全部、受け取っていたことになります。

福島県が拡散予測消去 当夜から受信5日分

東京電力福島第一原発の事故で、福島県が昨年三月十一日の事故当夜から放射性物質拡散の予測データをメールで入手しながら、十五日朝までの分をなくしていたことが県への取材で分かった。この間に1、3、4号機で相次いで爆発が起きたが、県は原発周辺の自治体にデータを示していない。県の担当者は「(データの)容量が大きすぎて、消してしまった」と話している。

 文部科学省の委託で放射性物質の拡散を予測するシステム(SPEEDI=スピーディ)を運用する原子力安全技術センター(東京)によると、センターは震災当日の昨年三月十一日午後四時四十分、文科省の指示を受け福島第一原発から放射性ヨウ素が毎時一ベクレル放出されたとの仮定で試算を開始。一時間ごとに文科省や経済産業省原子力安全・保安院にデータを送った。

 国の現地対策拠点となったオフサイトセンター(OFC、福島県大熊町)と福島県にも送る予定だったが、震災で回線が壊れたため送れなかった。

 だが、メールの回線ならば送れることが分かり、十一日深夜、OFCに隣接する県原子力センターからの送信依頼を受け、予測データの画像を県側にメールで送信。十二日深夜には県庁の災害対策本部にも同様に送り始め、一時間ごとに結果を更新し続けた。

 ところが、県の担当者によると、十五日朝までメールの着信に気づかず、それまでに届いていたメールは消してしまったという。

 県は「予測は役に立たない」として、その後も送られたデータを公表せず、市町村にも知らせなかった。

 これらとは別に、県は十三日午前十時半ごろ、保安院からもファクスで拡散予測を受け取っていた。こちらも十二~十三日早朝までのデータだったため、「既に過去のもので、正確ではない」として公表しなかった。

 県の担当者は「送られてきたデータは二十キロ圏の範囲で、既に圏内の住民は避難した後だった。本来は国が公表すべきデータだが、結果として、住民が被ばくしたのは事実で、早めにお知らせすればよかった」と釈明した。

「データの容量が大きすぎて」って、いまどきどんなコンピュータ使ってるんでしょう福島県は。余りにいい加減なものを知らない言い訳です。

担当者は名前を公表され、重刑に問われるべき代物だと思います。保安院も同じこと。

残念ながら粘り気が欠けている日本は、これを「スルー」するんでしょうか?

Sunday, March 18, 2012

(こんなんで大丈夫?)千葉県印西市の小学校の除染風景

千葉県印西市在住のブログ読者が、市から堀場のサーベイメーターを借りて測った写真を送ってくれました。今年の3月9日の計測です。見ると雨が降っているようですので、線量は晴れている日とは異なるかもしれません。(特に土の線量など。)

印西市は千葉県の北西部に位置し、流山市、柏市、我孫子市を含むいわゆる「東葛地域」のすぐ東側になります。

小学校の校庭が再び「除染」されている風景。一度既に表土をはがしているそうです。


はがした土を埋めるための穴。黒いビニールシートを適当に敷いてあるだけ。


はがした土の放射線量: 毎時0.224マイクロシーベルト。


小学校1年生が土いじりする土の放射線量: 毎時0.268マイクロシーベルト。


1年生の教室付近の空間線量: 毎時0.275マイクロシーベルト。


はがした土の線量よりも、一年生の土いじりの土、教室近くの線量の方が高い。何をやっているんだか、学校も分かっていないんでしょう。

そして、道路に吹き溜まった「黒い物質」。


表面近くの線量: 毎時0.683マイクロシーベルト。


群馬大早川教授の放射線マップで、印西市はこの位置です。(改訂6版) 

Saturday, March 17, 2012

文部科学省がヨウ素129を調査する理由の可能性その2

昨日のポストでお話した私の妄想の続きですが、文部科学省が半減期が1500万年以上もあるヨウ素129を土壌サンプルから検出を行っている理由がもう一つ、思い当たりました。

読者の方がコメント欄でチェルノブイリに触れていらっしゃったので、チェルノブイリ事故ではこの核種は検出されていたのか、されていたとしたらどのように解釈され、使われていたのだろうか、と思ったわけです。そこで早速検索を掛けてみると、このような論文が見つかりました。

2002年12月に"Science of the Total Environment"誌に発表された、デンマークとチェコの研究者による論文で、概要に次のような記載が:

Soil samples from areas in Belarus, Russia and Sweden contaminated by the Chernobyl accident were analysed for 129I by radiochemical neutron activation analysis, as well as for 137Cs by gamma-spectrometry. The atomic ratio of 129I/137Cs in the upper layer of the examined soil cores ranged from 0.10 to 0.30, with an average of 0.18, and no correlation between 129I/137Cs ratio and the distance from Chernobyl reactor to sampling location was observed. It seems feasible to use the 129I/137Cs ratio to reconstruct the deposition pattern of 131I in these areas.

チェルノブイリ事故によって汚染されたベラルーシ、ロシア、スウェーデンの地域の土壌サンプル中のヨウ素129を放射化学中性子放射化分析、セシウム137をガンマ分光法によって分析し、比率を調べた。土壌表層部のヨウ素129・セシウム137の原子比率は0.10から0.30、平均が0.18で、この比率はチェルノブイリ原発からの距離に関係なくほぼ一定しており、当初のヨウ素131の拡散、沈降状況を再現するのにこの比率が使用できると思われる。

つまり、文部科学省が今になってヨウ素129の土壌中の濃度を検査させているのは、セシウム137との比率を出して事故初期のヨウ素131の拡散・沈降状況を再現しようとしているのではないか。

事故初期、日本政府がしたことは皆様もご存知の通り、「安全」を連呼することでした。事故初期の土壌サンプルでヨウ素131を測ったのは、3月下旬にIAEAが飯舘村の土壌を測ってキロ当たり2千万ベクレルあった、と発表した以外に記憶がありません。文部科学省がヨウ素131の実測を行ったのは6月になってからで、結果を発表したのは9月になってからでした。

そこで、半減期が非常に長いヨウ素129を測ることによって遅ればせながらヨウ素131の初期の拡散の実態をより正確にしよう、という文部科学省の目論みなのか。相変わらず素人の妄想の域を出ませんが、こっちのほうが可能性は高いかも知れません。

但し、上述の研究概要でも察することが出来るように、万一セシウム137との比率が「一定」でない場合、ヨウ素131の飛散分布状況の推定に使うことが出来ない可能性もあるのではないでしょうか。その場合、今度は比率が一定でないのはなぜか、という疑問が出てきます。偏在するヨウ素129がどこから出てきたのか-どの原子炉あるいは使用済み燃料プールか-を知る手がかりとなるのかもしれません。

ともあれ、文部科学省がヨウ素129の情報を発表するのはいつになるのでしょう。

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なお、飯舘村でヨウ素131が土壌からキロ当たり2000万ベクレル検出されていた件、お見逃しになっていた方のために再掲しておきます。2011年4月1日付け共同通信です。

IAEA、検出はヨウ素 測定値を2千万ベクレルと修正

 【ウィーン共同】国際原子力機関(IAEA)は3月31日、福島第1原発の北西約40キロにある避難区域外の福島県飯館村の土壌からIAEAの避難基準を上回る値が検出されたとした放射性物質は、半減期の短いヨウ素131で、測定値は1平方メートル当たり約2千万ベクレルだったと修正した。

 IAEA当局者は30日の記者会見で、約200万ベクレルとしていた。数字を取り違えたとみられるが、IAEAは独自の避難基準の2倍に相当する事実は変わらないとしている。

 測定日は3月後半で、ヨウ素131の半減期は約8日。当局者は「検出された値は限られた試料に基づいた初期評価で、追加調査が必要」と話している。

 一方、日本の原子力安全委員会は31日、国内では土壌でなく空間放射線量を指標にしていると説明。原発から半径20キロを「避難」、20~30キロを「屋内退避」とした設定は妥当で、避難区域の設定の見直しは必要ないとの考えをあらためて示していた。

原子力安全委員会だけでなく、当時の枝野官房長官も同様の発言をしていました。日本では土壌ではなく、他にも総合的に判断する、避難域を見直すことは考えていない、と。

この共同ニュースが出た4月1日、飯舘村では山下俊一教授が村の幹部に非公式のセミナーを開き、まったく心配は無い、飯舘村は風評被害と戦う福島のシンボルだ、とぶち上げていた、と田中隆作さんのブログにありました。

日本政府が飯舘村の住民に避難命令を出したのはその10日後でした。

文部科学省がヨウ素129の分布状況調査をしている理由はなんだろう?

(アップデート3月17日: もうひとつ、可能性のある理由を見つけました。最新のポストでお読みください。)

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ツイッターでどなたかのツイッターをたどってこのブログに行き着き、そこから文部科学省が2012年1月24日に発表した「福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の分布状況等調査について」という資料に行き着きました。

そこで私の目を引いたのは、プルトニウム241ではなく、ヨウ素129という核種。文部科学省の上記資料(2ページ目)によると、

2.2 ヨウ素土壌濃度マップの精緻化について
第一次調査において採取した土壌試料(100試料程度を予定)について、現在、ヨウ素129の核種分析を実施中。

とあります。

ヨウ素129という核種は耳慣れない核種でしたので、英語Wikiを調べてみました。

半減期1570万年、弱いベータ線、ガンマ線を出し、キセノン129に崩壊する。
天然にも微量存在するが、ほとんどはウラン、プルトニウムの核分裂によって生成される。

どうもピンと来ません。そこで更に読んでみると、

冷却された使用済み燃料中のヨウ素の6分の5はヨウ素129である。(残りの6分の1は安定ヨウ素127。)

え?そこで、Iodine-129、Spent Fuel Poolと検索を掛けてみたら、「ハイレベルの核廃棄物管理(High-level radioactive waste management)」という項目が出てきました。つまり、

ヨウ素129(半減期1570万年)はテクネチウム99(半減期22万年)とともに、使用済み燃料が数千年保存されたあとの放射能の大半を占める。また、使用済み燃料で非常に厄介なのは、超ウラン元素であるネプツニウム237(半減期200万年)、プルトニウム239(半減期2万4000年)。これらの高放射能核廃棄物を安全に生態系から隔離するには、高度な管理が必要になる。

更に検索を掛けると、米国のInstitute for Energy and Environmental SciencesのArjun Makhijani氏が米国東海岸時間2011年3月13日午後9時の時点で書いた「福島第1原発事故のこれまでに判明した事実、分析と今後に起き得る可能性」という5ページほどの報告書が引っかかりました。その3ページ目に、

While the quantity of short-lived radionuclides, notably iodine-131, would be much smaller, the consequences for the long term could be more dire due to long-lived radionuclides such as cesium-137, strontium-90, iodine-129, and plutonium-239. These radionuclides are generally present in much larger quantities in spent fuel pools than in the reactor itself. In light of that, it is remarkable how little has been said by the Japanese authorities about this problem.

ヨウ素131など、短命の放射性核種の量は[福島のほうがチェルノブイリより]少ないだろうが、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの長命な放射性核種の存在のために長期的には問題がより大きい。これらの放射性核種は、原子炉の中よりも使用済み燃料プールにより多い量で存在する。それを考えると、日本の関係者が使用済み燃料プールの問題についてほとんど触れていない、というのは驚きである。

斜め読みですが、この報告書が注目しているのは、使用済み燃料プールがどうなっているか、ということに尽きるようです。報告書が書かれた時点ではまだ3号機は爆発していませんから、研究者が気にしていたのは1号機の使用済み燃料プールです。米国原子力委員会の報告書でも、事故の初期に米国が最も注目していたのが使用済み燃料プールであったことが分かっています。

文部科学省が今になってヨウ素129の土壌分布状況を調査している、ということは、やはり使用済み燃料プールからの放射性物質の拡散の可能性を考えているのではないでしょうか、と、素人考えで妄想しています。

それにしても、使った後の燃料を100万年単位(ヨウ素129に至っては1570万年)で管理しなければならないような発電システムは、元からやるべきでなかったシステム、ということでしょう。

Thursday, March 15, 2012

【必見】オーストリア・ツヴェンテンドルフ原発のバーチャルツアー

オーストリアのツヴェンテンドルフ (Zwentendorf) 原発は1972年にマーク1型沸騰水型原子炉を持つ原子力発電所として建設が開始されましたが、1978年の国民投票で稼動をしないことになり、一度も使わないままになっています。

英語ブログの読者、”Atmofritz”さんからのリンクで、ウェブ上でこの原発の内部を詳しく見ることのできるバーチャルツアーのページがあることを知りました。先日東電が2号機と3号機の地下に社員を送り込んでトーラス室の状況を調査していましたが、福島第1のように壊れていないツヴェンテンドルフ原発でさえ実際のトーラス、圧力抑制室の内側を見ると、何ともこの世のものとも思えない情景です。

(一時夜も寝ないではまっていたアドベンチャーゲームのシーンに出てくる、異星や異次元の訳の分からない機械類を見るようです。)

マーク1型格納容器トーラスの内側(オーストリア・ツヴェンテンドルフ原発):

1. http://zwentendorf.com リンクをクリック
2. ページのメニューバーの "Rundgang"をクリック
3. フラッシュウィンドウが別途開いたら、ウィンドウの中央に表示される"Zum virtuellen 360 Rundgang" をクリック
4. スクリーン右のメニューから、 "Kondensationskammer" (=圧力抑制室) をクリック
5. マウスをドラッグして、視点を変えることが出来ます。

これは模型などではなく、実際の原発(福島と同タイプ)の圧力抑制室。

スクリーンの右側メニューで、原発の施設の内部をいろいろ見ることが出来る。


上の写真は圧力抑制室の内側をフルスクリーンにして、スクリーンキャプチャーしたものです。フルスクリーンにするには、フラッシュウィンドウの右上の、「目」のアイコンをクリックします。大画面にしてマウスをドラッグするとものすごい迫力です。

圧力容器下部の制御棒挿入部分:

Tuesday, March 13, 2012

関西テレビ・スーパーニュースアンカー:「誰かがやらねば...福島第1原発作業員の素顔」

若い写真家の小原一真(おばらかずま)さんは去年の8月に福島原発に入り、作業員の姿、東電発表の写真からは伝わってこない敷地内の荒涼とした様子を写真に収めた方です。(例えば英語ブログのポストに出したこの写真など。)

原発事故1周年を期して写真集を出版、その中には、現在も原発で働く作業員の方々の素顔が、実名入りのコメントで入っているとのこと。

スーパーニュースアンカー番組バックナンバーより:

【小原一真さん】
「僕ら自身も守られてるわけですよね、彼らの働きによって。それが仮にヤクザに斡旋されていようが、お金の為だけに働いていようが、それははっきりいって関係なくて、実際彼らがやっている事によって今の僕らの当たり前の生活っていうのが成り立っている。にも関わらず自分がカメラマンという立場を考えた時に、なにも出来てないんですよね、それを思った時に誰かが彼らの思いっていうのを伝えなくちゃいけないですし」

日常の報道では顔が見えにくい作業員。
小原さんは、そんな彼らに正面から向き合い、顔や名前を出す承諾を取り付けました。

過酷な作業に当たる彼らはごく普通の人たちでした。
そして事故の被害者でもありました。

福島県川内村へ続く道です。
小原さんがこの道を走るのはもう100回を超えています。

小原さんが川内村に通うのは、福島第一原子力発電所で作業に従事する村の建設会社を取材するためです。

この会社では、放射性物質に汚染された水を通す配管作業などを請け負っています。
事故後の被ばく量は、多い人ですでに30ミリシーベルトを超えています。

【建設会社の社長】
「家族食わしていかなきゃいけない、公共事業がストップしている、仕事が全くないっていったら、お金払ってもらうためには東京電力助けなくちゃいけないというのもあります。けどやっぱり家族、自分が食べていくのが一番ですからね」

この会社では現在25歳から55歳までの10人が作業にあたっています。
中には事故の後、失業して加わった人もいます。

原発作業員には10代の若者までいるそうです。廃炉まで40年(で済むかどうか)、現在福島第1原発で働く作業員は毎日3千人を超えるそうです。これを40年続けなくてはいけない。

【小原一真さん】
「客観的にその原発の収束を考えた時に40年後にどうなっているんだろうって。40年後も業務が残っているってことは結局、今年生まれた赤ちゃんだって、今学校で勉強している子供たちだってそこで働いているかも知れないわけですよね、そういう事を考えると、本当にそれをしてくれる人がいなくなったらどうするんだっていう議論だとか、その人たちの労働環境だとかっていうのを見直さなくちゃいけないんじゃなのかなってすごく思います」


Sunday, March 11, 2012

ほとんど意味不明の外務省制作コマーシャル”Japan Power of Harmony” (日本 和の力)


震災1周年を記念して外務省が海外向けに作った4本のコマーシャル、外務省のページによると、

東日本大震災による風評被害を解消し、日本のイメージ回復・向上につなげるため、日本及び東北の魅力を海外に向けて発信するテレビCMを作成しました

とのことですが、4本の内の”Japan Power of Harmony”というコマーシャルは明らかに世界のビジネスを対象としたもののようで、他のコマーシャルとは違って日本の技術力をアピールするべく(と外務省は言っています)、全編にナレーションが入っています。

これがなんというか...。英語の単語を確かに使っているんですが、とても英語で理解が出来ない。意味不明のすごい代物なので、ご紹介します。

コマーシャルは外務省のYoutubeチャンネルにあります。埋め込みをさせないという制限が付いているので、このリンクでご覧いただくしかありませんが、ナレーションの英文書き起こしは以下の通り:

Japan, a country of perseverance and spirit of harmony.
Spirit born from the severe nature of our nation.
And that reality has formed Japan, through endless innovation and cooperation.
"These innovation from my country of Japan will ultimately contribute to the entire health of our society, to the entire advancement of the human race."
Now, more than ever, the world is facing challenge.
And Japan offers our unique experience for everyone.
We know, we learned, power is created from the cooperation of people.
It's the power of harmony.
Together for a better future.
Japan.

最初にコマーシャルを見たとき、英語としては私にはなにがなんだかさっぱり分かりませんでした。背景にある日本語の想像はなんとなく出来ましたが、なんかへたくそな、学生レベルの英作文(日本語を英語にする、という意味)だなあ、というのが第一印象。何を誰に訴えたいのかをまるで考えないでただ訳文をつくった、という感じです。

さて、この英語は理に適った日本語になるんでしょうか?はっきり言って、無理です。羅列されている単語からなんとなくイメージをわかせることは出来るでしょうが、その手法はいかにも日本。論理的なメッセージを貴ぶ国際ビジネスに受けるとはとても思えません。

おそらく原文は外務省の政治家か官僚の書いた日本語か、訳の分からない英語。それを基にしてコマーシャルを作れ、と指示されて、原文を翻訳したか、訳の分からない英語を多少ましにしたかして英語のナレーションをつくって適当な画像をつけた、というところでしょうか。(あくまで私の推測。違うかもしれません。)

あえて日本語に翻訳してみます。(注意: まったく無意味の作業である可能性大。)まずタイトルの”Power of Harmony” を「和の力」と訳しましたが、これは聖徳太子の「和を以ってこれを貴しとする」、の和のつもりです。

Japan, a country of perseverance and spirit of harmony.
日本、辛抱強さと和の精神の国。

Spirit born, from the severe nature of our nation.
精神は、私たちの国の厳しい自然から生まれました。(という意図だとは思うんですが、英語だけを読むとそうではなく、「この精神は日本という国あるいは国民の性質が厳しいものであることから生まれました」みたいなことになってしまう。第一、日本の自然は厳しくなんか無いですよ、世界の各地に比べたら。物成りの良い、温帯です。)

And that reality has formed Japan,
そしてこの現実が日本を作り上げました。(どの現実だか全く意味不明)

through endless innovation and cooperation.
限りない技術革新と協力を通して。(まったく意味不明)

(ここで、コヤリ・ユキオさんという方が登場します。国際宇宙ステーションに資材を届ける補給機の宇宙航空研究開発機構プロジェクトマネージャーとの字幕が出ます。)

"These inventions from my country of Japan will ultimately contribute to the entire health of our society, to the entire advancement of the human race."
「私の国日本からの発明は、私たちの社会の健康に、全人類の進歩に、究極的に寄与します。」 (まったく意味不明。)

Now, more than ever, the world is facing challenge.
現在、前にもまして、世界は問題に直面しています。(世界の前に日本が直面している問題のほうがよほどすごいと思うんですが。)

And Japan offers our unique experience for everyone.
日本は、日本のユニークな経験をすべての人に分かち合います。(放射能のことみたいですね。皮肉。)

We know, we learned, power is created from the cooperation of people.
私たちは知っています。力は人々の協力で作られるのです。

It's the power of harmony.
和の力。

Together for a better future.
共によりよい未来に向かって。

Japan.
日本。

日本語にすると、単語を拾い見てなんとなく分かったような気になるでしょう? 英語だけ読んで、聞いている外国人には、おそらく、「なんとなくわかったようなわからないような、よく考えたらぜんぜん分からないし意味不明」だと思います。このコマーシャルを見て、「わあ、日本てすごい技術があるんだ!」「日本のイメージが良くなった」、などと感心する外国人がいるとしたら会ってみたい。(今英語ブログ読者に聞いています。)

金を使ったんでしょうがその割にはちゃちな画像で、画像に何の脈絡もない。

さてこれは電通か博報堂か。

広告のコピーのあまりのひどさに、これは大臣クラスの政治家の発案であるような気がします。英語ブログ読者の一人のコメントは、

「あまりにひどくて、かえって可笑し味がある。1980年代の安っぽいコマーシャルを見ているようだ。」

まあそんなところが妥当でしょうか。1985年プラザ合意が及ぼした経済への悪影響を軽減すべく始めた低金利政策が生み出した不動産バブルがはじけるまでの1980年代は、日本の多くの人々が裕福に感じた最後の年だったかも知れません。