ちょっと前のビデオですが、自分の英語勉強のためと記録用にざっと訳しておいたものです。よろしかったらどうぞ。いつもの通り、あくまで私訳です。
氏の英語はいつも非常に明確で簡潔、技術的な説明も平明でありながら正確です。(まあ先日の「ナトリウムが中性子捕獲」の言い間違いはご愛嬌。正解は塩素。)そのような英語を、正確かつ分かりやすい日本語にするのは、非常にいい翻訳の練習になります。(とはいえ、あまり時間をかけた訳ではないので、後で間違いを直すかも知れません。)
最新ビデオの中で、氏は福島原発で事故になったGEのマーク1型沸騰水型原子炉に関してごく初期の内から分かっていた欠陥を3つ挙げ、米国原子力規制委員会、および委員会を迂回する形でこの欠陥を(悪く言えば)ごまかしてきた原子力産業を批判しています。また、規制委員会、業界が使用する費用便益分析の欠陥を指摘、人命、財産の損傷を軽く見積もるシステムになっているため安全性改善が行われないのだ、と指摘しています。
原子炉の写真などもビデオで見られます。日本の皆様も事故以来格納容器、原子炉などの構造はだいぶおなじみになったかと思いますが、氏も分かりやすく解説しています。
以下、私訳:
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福島原発と同じ設計の原子炉に全て存在する問題点の概観
こんにちは、フェアウィンズのアーニー・ガンダーセンです。
最後にビデオを出してから3週間ほどたってしまいました。その間にラジオインタビューをいくつかアップしてはいましたが。だからといって、ここフェアウィンズは忙しくなかった、ということではありません。私は専門家としての証言で忙しかったのですが、マギーとケビン・ハーレイはもっと重要な、フェアウィンズの英語サイトを日本語でも立ち上げる作業に追われていたのです。私たちと共に、全てのビデオを日本語に翻訳してくださった、多くの献身的な日本人の方々にお礼を言いたいと思います。今日はフェアウィンズ日本語サイト(Fairewinds.jp)とフェアウィンズ英語サイト(Firewinds.com)が同時に同じビデオを紹介する始めての日です。ボランティアの皆さん、ありがとうございました。
過去数ヶ月間、米国原子力規制委員会(NRC)は、福島原発事故を受けて安全性の見直しを行っています。いくつかの重要な箇所について更に深く検討したレポートを出しています。このレポートはフェアウィンズのサイトに出してありますが、より重要なのは、「憂慮する科学者同盟」が原子力規制委員会の監視役として出した、原子力規制レポートを批判した文書です。この「憂慮する科学者同盟」の批判文書もサイトに乗せてあります。原子力規制委員会が挙げた福島事故からの教訓もさることながら、原子力規制委員会はただ安全性の問題を検討するだけでなく、有言実行、実際に安全性を高める方策を実行に移すことである、と「憂慮する科学者同盟」が認識したことは重要なことです。
さて、今日お話したいことは4つあります。原子力規制委員会の報告書には出ていないことですが、入っているべきと私は思います。その4つとは、格納容器、原子炉、爆発、最後に「シビアアクシデント緩和分析」と呼ばれるものです。
まずは、福島原発の沸騰水型原子炉、そしてそれと全く同じ型の35基の沸騰水型原子炉の格納容器についてです。今年の2月、事故のおよそ3週間前、マギーと私は散歩をしていました。マギーが聞いてきたのは、「私たちはずいぶんと沢山の専門レポートをやっているけれど問題がいたるところにある。次の事故はどこで起きると思う?」私は、どこで起きるかは分からないけれどもそれは絶対にマーク1型の沸騰水型原子炉の格納容器だと思う、と答えました。福島原発の原子炉はこれです。マーク1型の格納容器。この写真の沸騰水型原子炉格納容器は、1970年代に撮影されました。これは福島原発の原子炉と全く同一です。詳しく説明しましょう。
格納容器には2つの部分があります。上の部分はさかさまにした電球のような形をしていて、ドライウェルと呼ばれます。この中に原子炉が入るのです。その下にあるドーナツのようなものはトーラスと呼ばれ、ほとんど上まで水が入っています。理論では、原子炉が壊れると蒸気がさかさま電球部分[ドライウェル]からドーナツ部分[トーラス]に噴出されて沢山の泡を生じ、それで[ドライウェルの]圧力が下がることになっています。これ[ドーナツ部分、トーラス]は圧力抑制室と呼ばれています。写真の下のほうに写っているのは、格納容器のふたです。全部が組み立てられると、このふたが上にのります。
格納容器の厚さは約1インチ[2.54ミリ]です。中に入っている原子炉の厚さは約8インチ[約20センチ]。これについてはまた後ほど触れます。このタイプの格納容器は1960年代の後期から1970年代の初期にかけて設計されましたが、1972年には既に多くの人々がこの格納容器に懸念を表明しています。圧力抑制室の問題についての1972年の原子力規制委員会のメモを読んで見ましょう。
「圧力抑制室の構造を禁止しようというスティーブの案は魅力的だ。しかし、圧力抑制室は原子力業界の全ての人々に受け入れられており、その中には原子炉安全指針規制委員会、諮問委員会の面々も入っている。世間一般の通念として、しっかり根付いてしまっている。この神聖なポリシーを覆すことは、特に現時点では原子力の終焉ともなりかねない。操業許可が出ている原発の運転に疑問を投げかけることになり、それによって起こるであろう混乱に私は耐えられそうにない。」
つまり、1970年代の初期には、原子力規制委員会はこのタイプの格納容器には欠陥がある、ということを認識していたのです。1970年代の半ばには、下へ行くべき力が逆に上に行っていることに気づき、格納容器に大きなストラップが取り付けられました。更に80年代になると、また別の問題が発生しました。スリーマイル島事故の後、このタイプの格納容器は水素ガスの蓄積で爆発する恐れがあることに気が付いたのです。このような危険は1970年代の設計時点では考慮に入れてなかったものです。そこで考え出されたのが、格納容器の脇につけるベントでした。ベントは圧力を逃がすように設計され、格納容器は圧力を閉じ込めるように設計されているのです。
放射能を閉じ込める[という格納容器の本来の役割]どころか、もし格納容器を爆発に耐えうるようにするには格納容器の側壁に穴を開けて「格納容器ベント」を作らなくてはいけない[逆に言えば、ベントを作らないと格納容器が爆発するかもしれない]ことに気づいたのです。
これらのベントは1980年代の後半に付け足されたのですが、原子力規制委員会がそのように要求した結果ではありません。原子力業界がやったのは、原子力規制委員会が要求してくるのを避けるために、業界の自助努力とすることでした。ベントを自主的に取り付けたのです。そう言えばいかにも自発的に率先してやったことのように聞こえますが、実はそうではありません。もしベントが原子力規制委員会の要求として出ていたら、安全性を危惧する市民、科学者に対してベントの取り付けが必要な原発の操業許可を公開しなければならなかったからです。原子力業界が自主的にベントを取り付けたことで、2つのことが起こりました。1つは、本当に安全かどうかを検証するプロセスに一般市民が参加出来なかったこと、もう一つは原子力規制委員会自体がこれらのベントを検証して実際に安全かどうか判断することが出来なかったこと。つまり、検証プロセスが全く脱線してしまったのです。
これらのベントは福島事故まで試されることはありませんでした。このタイプの格納容器が試されることもありませんでした。実際、福島で3回のうち3回とも失敗しているのです。[爆発のあった1号機、2号機、3号機のこと。]振り返ってみれば、何も驚くには当たらないのですが。
電源が喪失した場合にこれらのベントを開ける作業の手順によると、誰かが放射線防護服に身を固めて原発の中心にある巨大な弁のところへ行き、クランクを200回まわして弁を開けることになっています。想像できますか?蒸気、爆発、放射能漏れ、原発事故の真っ只中で、従業員を原発に行かせてベントのバルブを開けるためにクランクを200回まわさせる。ベントは格納容器の構造で失敗した2つ目の応急処置でした。[一つ目は圧力抑制室。]そもそも格納容器は40年前の設計時点で小さすぎたのです。
以上のことを考え合わせると、こう質問しなければなりません。マーク1型原子炉の格納容器をこのまま使用することが許されて良いのだろうかと。原子力規制委員会の姿勢は、「ベントをより強固なものにする」というものです。これはいい考えとは私には思えません。
ここまではマーク1型原子炉格納容器に関することをお話して来ましたが、次にお話したいのはこの格納容器内に入っている原子炉のことです。[さかさまの]電球[の形のドライウェル]とドーナツ[の形の圧力抑制室]が格納容器で、その中に原子炉が入っているのです。
沸騰水型原子炉では、制御棒は原子炉の下部から挿入されます。加圧水型原子炉では上部から挿入されます。福島原発の原子炉全て、そして世界中に存在する同じデザインの原子炉35基では、制御棒は原子炉の下部から挿入されるのです。これはユニークな問題を提起します。この非常に重要な違いに原子力規制委員会は現在注意を払っていません。
加圧水型原子炉で炉心溶融が起こっても、原子炉の底には穴がありません。原子炉の底は8インチから10インチ[20~25センチ]の金属。炉心が底を貫通(メルトスルー)するにはこの厚い金属の底を破らなくてはならないのです。しかし、福島原発で起こったのは違います。福島の原子炉は沸騰型原子炉なのです。底には穴が開いています。福島原発にあるような、米国、日本のその他の原発にあるような沸騰水型原子炉では、炉心が原子炉の底にある場合、この60もの穴のために、炉心が底を貫通するのはたやすいのです。8インチ[20センチ]の鉄の底を貫通する必要は無いのです。薄い配管を貫通して原子炉の底の穴から出てしまえば良いのです。
沸騰水型原子炉の底の穴が問題だ、と考えるのは私だけではありません。先週、福島事故の直後に原子力規制委員会が書いたEメールが明らかになりました。それによると、もし炉心溶融(メルトダウン)が起こり溶けた炉心が原子炉の底にあるとしたら、原子炉の底に開いている穴から高温の溶融炉心が加圧水型原子炉の厚底のデザインの場合よりもずっと簡単に、ずっと早く原子炉の外に出てしまう、と委員会が認識していたことが分かります。これはどの沸騰水型原子炉にも共通する欠陥です。原子力規制委員会は、福島のような沸騰水型原子炉の炉心貫通の可能性は加圧水型原子炉に比べるとはるかに高い、ということを認めていないのです。[???すぐ前に認識していた、と言ってるのですが...]
3番目の問題は以前のビデオでも詳細に検討した問題です。それは、3号機の爆発が爆轟、デトネーションであり、爆燃、デフラグレーションではなかった、ということです。これは衝撃波のスピードと関係しています。3号機の爆発による衝撃波は音速よりも早く伝わりました。この違いに原子力規制委員会も原子力業界も目をつむっているのです。
格納容器は音速を超える速さで伝わる衝撃波に耐えることが出来ません。しかし、格納容器は全て、そのような衝撃波は起こらない、という前提で設計されています。福島の3号機では、それが実際に起こりました。これがどのようにして起こったのかを理解し、全ての原子炉でこのような衝撃波の影響を少なくするような方策を取らなくてはなりません。建屋の大きさと爆発のスピードを考え合わせると、衝撃波のスピードはおよそ秒速1000フィート[305メートル]です。音速は一秒間に約600フィート[183メートル]ですので、格納容器に大きなダメージを与えることになります。格納容器はこのようなダメージを想定した設計にはなっていないのです。それでも、原子力規制委員会はこのことに注目していません。
ということで、原子力規制委員会と原子力業界が人々に知って欲しくない問題が3つあることになります。一つ目は、マーク1型原子炉格納容器の運転すら許していいものなのだろうか、ということ。2つ目は、沸騰水型原子炉は加圧水型原子炉に比べて炉心貫通(メルトスルー)になりやすいのかどうか。3つ目は、格納容器は爆轟の衝撃波に耐えられるのかどうか。
原子力産業が安全性向上のための改良を行ないたい場合には、「費用便益分析」と呼ばれるものを実施する必要があります。分析の結果、改良によって社会にもたらされる便益が、改良にかかる費用を上回ることが示されなければ、改良はできません。
それに関連して今日最後にお話したいのが「SAMA」についてです。SAMAとは「過酷事故緩和代替策分析(Severe Accident Mitigation Alternatives Analysis)」のことです【※原子力安全委員会は"Severe Accident Mitigation Alternatives"で「過酷事故緩和代替策」というの訳語を使っています】。この分析を行なうには、非常に手の込んだコンピュータープログラムを使って、大事故が起きたときに社会がどれだけの損失を被るかを具体的に計算します。この場合の損失とは、失われる人命と、財産への被害を指します。
ところがこのコンピュータープログラムは間違っているのです。間違っていることはかなり前から知られているのに、依然として使われています。原子力規制委員会はワシントンDCの各省庁のなかで、最も低い値を人命の損失に割り当てています。また、事故後の除染の費用もわざと低く見積もっています。つまり、改良のための費用と社会が受ける便益を比べるときに、コンピュータープログラムがわざと便益を過小評価するようになっているのです。その結果、改良のための費用がかかりすぎ、あなたや私や社会が受ける便益が小さすぎることになって、改良を施す必要はないように見えてしまうのです。
福島の事故からはそれが間違っていることがわかりました。福島をきれいにするには何千億米ドルもかかります。最低でも2000億米ドルはかかるでしょう。ところが、原子力規制委員会が使用するコンピュータープログラムは、絶対にそういう高い数値を弾き出すことはありません。
費用便益分析のプログラムを修正しない限り、次のような事態が起こります。原子力規制委員会が改良すべき問題点を洗い出しても、コンピュータープログラムによって「そうするだけの価値がない」という答えが出てしまうのです。社会が直面しているリスクがあまりに小さすぎるので、費用をかけて改良する必要はない、と。
問題はコンピュータープログラムにあります。失われる人命と財産の被害に割り当てられる数値を上方修正しない限り、安全対策のための改良に伴う費用と便益を正しく判断する手立てが私たちにはありません。
今日お話したかったのはだいたいそんなところです。原子力規制委員会と日米双方の原子力産業が目を向けていない重要な問題は、少なくとも3つあります。格納容器の設計、沸騰水型原子炉容器、そして爆轟、デトネーションによる衝撃波です。しかし、かりにきちんと目を向けたとしても、費用便益分析を適切に実施して社会の損失を正しく評価しなければ、そうした領域で改良がなされることはないのです。
日本から見てくださっている皆さん、改めましてありがとうございます。そしてFairwewinds.jpへようこそ。この170日間Fairewinds.comを見てくださった皆さんにもお礼を申し上げます。
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(H/T東京茶とら猫)
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