文科省の放射線審議会が年間の一般人の人工被曝限度を1~20ミリシーベルトの間の値に当面引き上げる、という案を発表した、とのニュースは皆様もご存知かと思います。
何を根拠に、と思って文科省のサイトをうろついていたら、今回(第41回)の基本部会ではなくてひとつ前の第40回の資料がアップされていました。文科省放射線審議会基本部会第40回は8月31日に開かれましたが、提出資料の中に「国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れ(現存被ばく状況関連)に係る論点整理」 というPDFファイルを見つけました。
どんな論点だろうかと読み出したら、ICRPの勧告の具体的な条項を挙げていかに日本の現状に無理やりにでも当てはめるか、という苦心の論点のようですが、興味深い点がいくつかあります。まずこのポストはその一点目、食品汚染に関する考え方です。文書の最後に出てきます。3番目のポイント以降にご注目。
(解説の骨子案)
1.放射性物質を含む食品の防護方策に用いられる参考レベルについて
現存被ばく状況における食品を含む参考レベルの設定の考え方は、「2.参考レベルの範囲(1~20 mSv/年)の設定の考え方について」が基本となる。
食品等の防護方策を実施するための参考レベルの単位としては、直接測定できるBq/kg、Bq/Lで定めるべき。(Pub.111 para86)
食品に関する参考レベルについては、国際貿易用のものとしてコーデックス委員会のガイドラインレベルを用いることが考えられる。同ガイドラインレベルは食生活のうち放射性物質を含む食品が最大10%を占めると想定した場合に、線量レベルが1mSv/年になることを基準としている。食品の10%が汚染されているという想定は地域社会によっては適切ではない可能性があるため、食品の参考レベルは同ガイドラインより低い値に定めると良い。逆に、汚染が影響する食品がごく少数の品目である場合には、汚染基準をもっと高い値に定めても良い。また、伝統の中に深く組み込まれているものや、共同体全体の経済にとって必要不可欠な地域産物を存続させるためにも、汚染基準を高めに定めてもよい。(Pub.111 para86)
同ガイドラインレベルは無期限に適用されるものである。コーデックス委員会によると、食品は同ガイドラインレベルを上回らない限り、人間が消費しても安全とみなすべきであるとしている。(Pub.111 para89)
汚染された食品の販売に対して制限を課すことによる地域経済の混乱、消費者の選択や汚染されていない食品の提供による市場占有率の喪失は、線量低減に有益という観点から正当化されてはならない。(チェルノブイリ事故後のノルウェーにおけるラップ民族が生産するトナカイ肉に関する参考レベルの事例参照)(Pub.111 para87、付属書A.7.)
え?無期限?
それに、最後のポイントでは、『線量低減に有益でも、汚染食品の販売に制限をかけてはいけない、消費者が汚染されていない食品を求めたり、それを提供することによって汚染食品の市場占有率が下がるようなことは、許されない』、とそう言っているんですか?
ということは、消費者が汚染食品を買い続けて市場占有率を保てるようにしなくてはいけない、というのが審議会の考え方なのです。それも無期限に。
東北、関東の広い地域から生産される食物が放射能に汚染されている状況と、ノルウェーのラップ民族が売るトナカイの肉を比べるなど、ちょっと呆れて物が言えません。ラップ民族が売るトナカイの肉はノルウェー中に販売され消費されていた食品だとでも言うのでしょうか?
また、上から3番目のポイントは何を言いたいのか良く分からない表現ですが、とどのつまりは生産を守るために何とか汚染基準を高く保つための方便方策を探し出しているように思えます。
コーデックス委員会(CODEX Alimentarius)には日本は1966年に加盟、国連のFAO(Food and Agriculture Organization)、WHOが設置した国際機関です。農林水産省と厚生労働省が協力して日本のコーデックス委員会を運営しているようですが、食品に関する基準、規制ばかりでなくサプリメントなどの規制まで、国の権限を越えて、国際機関の官僚が強い発言権を持つ、という、なんとも不透明な機関です。
コーデックス委員会に反対する人々も多く、アメリカでは小規模、有機農法の農場を経営する人々、有機農法で作った食品を食したい消費者が断固反対しています。コーデックス委員会の「勧告」を成文化することで利益を得るのが、モンサントのような、遺伝子組み換え作物と農薬を大量に使う大規模農業形態を推し進めるビジネスだからです。モンサントの元副社長を米国食品医薬品局に送り込んだオバマ大統領ですから、国の姿勢は明らかです。
コーデックス委員会の「勧告」はあくまで勧告で、従わなくてはいけない義務はないのですが、実際には各国政府が「勧告」を自国でなしくずしに法制化している状況です。放射線審議会もそのようにする意図を、上から3番目のポイントで明確にしています。
放射線審議会のメンバーも別に公的に選ばれたわけでもなんでもなく、それでもこの方々のご見解がやがて法律となる。まあコーデックス委員会の放射線版、といったところでしょうか。
日本国憲法(第1条)の「主権在民(国民主権)」とやらは、まあ「うそも方便」の類だったんでしょう。
いつも拝見しておりますが、あの複雑怪奇な
ReplyDeleteサイトからよくこういった情報を発見されますね。
感服いたします。
これが我が国の文部科学省とかゆう営利団体
(もうこう捉えています)の国際放射線防護委員会(もはや「この際放射線防護せんでいいんじゃない」としか読めなくなってきました)の勧告(2007)の受入に対する見解(こじつけ)ですか。
つまり、あえて単純にいわせていただきますと
「(本来危険な)汚染食品を安全と見なすべきなので、(それを知らないで食べつづけた)誰かの(そうあなたの)孫が将来死んでもいいんじゃね。だって、お金が大事だもん。」
と考えており、
「そしてこの状況をいつまでも続けていいんじゃね」
と考えている訳ですか。
こればっかりは、根に持つしかないですね。
千葉県民
毎日貴ブログを拝見しています。
ReplyDelete文科省の放射線審議会基本部会第40回に出されたという資料ですが、これは誰が作成したのでしょうね?この訳の分からない上から3番目のポイントが気になって、オリジナルのICRP Pub 111を見てみました。すると、こんなことが、、
[ICRP Pub 111の原文]
The assumption that 10% of the diet is contaminated may not be valid for some local communities, hence the contamination criteria for foodstuffs may be set below the Codex guideline levels.
[提出資料では]
食品の10%が汚染されているという想定は地域社会によっては適切ではない可能性があるため、食品の参考レベルは同ガイドラインより低い値に定めると良い。
あれあれ?何だかへんてこりんな訳に気づきました。低い値に「定めると良い」、だなんて原文は言ってないのです。「定めても良い」というだけで。意図的な誤訳でしょうか?許しがたき!!
この汚染割合という数字は、「摂取する食品の10%がマックスで汚染されていた場合に、年1ミリシーベルトを超えない」ように、食品の単位量あたり上限ベクレル数を定める時に使われる数字でしょうが、この数字を恣意的に低く置けば、食品の単位量あたりの上限ベクレル数を増やせることになりますよね?
そもそも、ICRPの「10%」という数字は、2006年のコーデックス基準を使っているようですが、もともとコーデックス委員会を構成する国連食糧農業機関(FAO)は、もっともっとコンサバにセーフティーマージンを広く取り、100%の食品が汚染されていた場合を想定して、食品中の放射能量の上限を定めていたのです(1986年の「FAO Expert Consultation on Recommended Limits for Radionuclide Contamination of Foods」)。
「10%」の想定には、まあそれなりに何らかの(へ)理屈付けがあるんでしょうけど、でもICRPにしても、CODEXの基準にしても、広域に汚染が広がった事態を本当に想定してるのか??と疑ってしまいます。セシウムが全国に広がって、あちこちでホットスポットが発見される日本で、本当に10%、あるいはこの資料で示唆されているように、もっと低い想定%の汚染割合を前提に考えて良いのか。テキトーな誤訳をもとに、文科省がちょろちょろと抜け道しようとしているとすれば由々しき事態です!
私はシアトル在住ですが、今回の影響がアメリカの土壌、そしてやがて食品にも出て来るのではないか?とかなり心配しています。英語ブログの方もたまにチェックさせて頂いていますが、もしアメリカ関連の情報があれば日本語ブログの方でも是非取り上げて下さい。そして、長いコメントになってしまい、すみません!
コーデックスの基準値は、輸入品の基準値であり、残り9割の国内の食物は汚染されていないことが前提であることを示すサイトがありましたので、ご参考までにリンクを貼らせていただきました。
ReplyDeletehttp://kingo999.blog.fc2.com/?mode=m&no=293
いつも為になる情報の提供ありがとうございます。
ReplyDeleteもうご存知かと思いますが、念のため。ドイツZDFが取材した福島作業員の実態です。
http://youtu.be/aAE-QBmC1VA
tky425、Anonymous 7:20PM 様, コーデックスの基準値情報、ありがとうございました。審議会の「解釈」を見る限り、元の資料がどうであろうと、都合のいい数字を何とか探し出してこじつける、という気がします。実際、輸入品の基準値だということは承知しているわけで。(国際貿易用と言っている。)
ReplyDeleteしかし考えてみればコーデックスの基準も妙ですね。わずか国内消費の10%分の食品でどうしても汚染地域からの輸入に頼らなくてはならないものなんてあるんでしょうか?それとも、無理やりにでも買わせるんでしょうか?汚染地域の経済とやらを助けるために?(ああそうか、そういうことか。)
Anonymous 7:20PM様、貼って頂いたリンクのおかげで、コーデックスの基準がどういうことなのか理解がクリアーになりました。ありがとうございました。
ReplyDeleteブログ主様がおっしゃるように、どういう資料だろうが、こじつけられれば何だって良いんですね。でもこれが確信犯だとすると、緩い基準を推進する役人その他は、自分や自分の家族の内部被曝のことは心配にならないんでしょうか。不思議です。脳内分裂?
埼玉には福島県産と
ReplyDelete書いたキュウリしか
おいてないんです
政府の役人の
言いなり に
スーパーがなりました
おかしな日本
内部被爆のみが問題なのに
ReplyDelete内部被爆しろと言う