Tuesday, December 13, 2011

毎日新聞:「警戒区域に独り 井戸水とろうそくで生活」富岡町の松村直登さんインタビュー(APに遅れること3ヶ月半、BBCに遅れること3ヶ月)

12月中に福島第2原発周辺の避難区域(それでも福島第1原発20キロ圏内の警戒区域=立ち入り禁止区域ですが)が解除される、とのニュースが流れましたが、その中の富岡町に事故後もずっと住み続けている松村直登さんに、ようやく日本のマスコミもインタビューしたようです。

ただし、富岡町に入ってインタビューしたAPやBBCなど海外のメディアとは違って、松村さんに警戒区域外に出てもらってからインタビューしたそうです。

毎日新聞12月14日付けの記事ですが、毎日のリンクはわりとすぐに消えるので、記録にコピーしてお届けします。

東京電力福島第1原発事故で立ち入りが規制されている警戒区域(半径20キロ圏内)の福島県富岡町で、農業、松村直登さん(52)が自宅に一人とどまり続けている。警戒区域の外で毎日新聞のインタビューに応じた松村さんは「命を守るために法律で避難させていることは理解できる。しかし、何十年も避難するぐらいだったら、自分は短い間でも生まれ育った富岡で過ごしたい」と語った。【沢田勇】

◇「非難はわかるが短い間でも富岡で過ごしたい」

 松村さん宅は原発の南西約12キロに位置。富岡町内の残留者は一人だけという。震災から約1カ月後、松村さんも同県郡山市内に一時避難した。だが、すし詰め状態で避難所に横たわる被災者を見て「自分には無理だ」と思い、3日ほどで自宅に戻った。「『自分勝手だ』と非難があることも分かっている。罰金ならいくらでも払う。でも自宅に帰ることが犯罪なのか。おれたちは被害者なのに」

 自宅は電気、水道などライフラインが寸断されたままだ。だが、自家用車に使うガソリンなどの燃料は火災を心配する町民が「使って」と提供してくれた。食料は備蓄のコメや缶詰。風呂は井戸水をまきで沸かし、夜はろうそくをともす。「東京のために発電してたのにさ、今じゃ電灯の一つもつかないんだからな」。午後7時には布団に入りラジオに耳を傾ける。

 町内にさまよう数十匹のイヌやネコ、牛約400頭、飼育施設から逃げ出したダチョウなどに、動物愛護団体から送られた餌を毎日数時間かけ、与え歩く。「町に戻った自分にできること」という。

 同居していた両親は静岡県内に避難しているが、避難後に母(80)は認知症になった。伯母は避難先の病院を転々とするうち体調を崩して亡くなった。

 「フクシマ」の現実を世界の人に知ってもらいたいと、英BBCなど欧米メディアの取材に積極的に応じてきた。「人間が作った機械に完璧なものはない。『夢のエネルギー』なんて幻想だ」。怒りを込めて訴えてきた。

 松村さんは線量計を持っておらず、これまでの被ばく線量が分からない。今のところ健康に問題はないという。震災後数カ月は畑の野菜や木に実っていたビワを食べた。「痛くもかゆくもないってことは怖いことだよ」と内部被ばくの不安がよぎる。

 しかし、健康被害が出たとしても「地元を離れる気はない」という。「一日も早く除染が終わって、みんなが帰ってくるのを見届けたい。警戒区域の中にいないとできないこともあると思う。みんなが帰って来られるように自分なりに努力したい」

 ◇4市町村に8人 難しい強制退去

 警戒区域のある9市町村に取材したところ、13日現在、4市町村の区域内に少なくとも8人がとどまっている。内訳は松村直登さんのほか、田村市の60代男性、川内村の50代と80代の女性計2人、楢葉町の男女各2人の高齢者ら。

 原子力災害対策特別措置法に基づいて設定された警戒区域は立ち入り禁止で、違反者には10万円以下の罰金を科したり、拘留できる。

 だが、川内村は「避難を説得してきたが(残留の)意思が非常に固い。食料がない場所に放っておけない」として2週間に1回、女性2人に食料を届けているという。

 国の原子力災害現地対策本部は「強制退去させることも可能だが、住み慣れた土地にとどまりたいという住民を無理やり追い出すのは難しい」。福島県警広報室は「検問所を設け警戒区域への進入を防ぐのが任務。住民を発見した場合は避難を呼びかけ、自治体に伝えてきた」と言う。

 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)では「サマショール」(わがままな人)と呼ばれながら立ち入り禁止地域に住み続けた住民がいた。

やはり現地に入ったわけではないので、緊張感、臨場感はありませんね。あまり記事として得るところはありませんが、日本のマスコミがやっとインタビューした、というところに意義があるかもしれません。

ちなみに、APは8月、BBCは9月、レポーターを現地に入れて、松村さんと話をしています。

英語ですが、APのビデオをお出ししておきます。松村さんいわく、「おれ、絶対負けない」。インパクトは毎日の記事よりはるかに強いです。このビデオは、8月31日に出ました。英語のブログには9月2日付けのポストで出しました。

ビデオを見たときの私の反応: あっぱれ。

危険は重々承知で、それでも居たければそれは松村さんの選択です。他人、ましてや一番肝心なときに情報を隠した無能な政府がどうのこうの指図する話ではありません。



BBCは9月13日付けの記事で、やはりレポーターを富岡町に入れて松村さんと会った際の状況を記事にしています。例によって例のごとく、ちゃんとブックマークして翻訳して出すはずが、後3分の1のところで中座していて、結局出し損ねた記事でした。訳したところまでで関連の強い箇所だけですが、お出ししましょう。今更ですが。BBCのサイトにはビデオが出ていますので、あわせてご覧ください。

BBCのレポーターは、所によっては毎時30マイクロシーベルトの放射線量を計測している、と言っています。そんなところに、住民を帰そう、と日本政府は言っているわけです。

Inside Japan's nuclear ghost zone
日本の核のゴーストゾーンへ入る

Nothing stirs in the empty heart of Tomioka, a community of 16,000 now reduced to the eerie status of a ghost town after the nuclear disaster at Fukushima.

富岡町の中心部。何も動くものがない。1万6千人が住んでいた町は、福島原発事故以来、ゴーストタウン、死の町と化している。

The shops of the main street are deserted, motorbikes and cars are abandoned, weeds push through gaps in the concrete.

目抜き通りの店には誰もいず、バイクや車が放置され、コンクリの割れ目から雑草が生えている。

Vending machines selling drinks and snacks - always popular in Japan - stand unlit and silent.

飲料、スナックを売る自動販売機 -日本では人気がある-は電気が消えたまま。

Tomioka lies just inside the 20km exclusion zone that was hurriedly enforced last March when a radioactive cloud escaped from the stricken power plant.

富岡町は20キロ圏内の警戒避難区域のすぐ内側にある。この警戒避難区域は今年の3月、事故にあった原発から放射能雲が放出された時に急いで設定されたものだ。

In the rush to flee, doors were left wide open. Windows and roofs shattered by the earthquake and tsunami are still not repaired. A bicycle leans against a lamp-post.

人々が急いで逃げたため、扉は開け放されたまま。地震と津波で壊れた窓や屋根は修理されないままである。自転車が該当に寄りかかって立っている。

We are making the visit after reassurances from scientists and other journalists that radiation levels had fallen in this particular area.

私たちがこの地域を尋ねることにしたのは、科学者や他のジャーナリストたちがこの地域の線量は下がっている、と請け合ったからである。

The worst of the contamination was blown northwest of Fukushima while Tomioka lies to the south.

もっともひどい汚染は福島第1原発の北西部に流れたが、富岡町は原発の南に位置している。

Nevertheless we equip ourselves with overalls, boots, gloves and face-masks, all designed to minimise contact with the dust that is likely to be the main source of radioactivity.

それでも、私たちはつなぎの防護服を身に付け、ブーツを履き手袋、フェースマスクを付け、おそらく一番の放射能汚染源であろう塵、ほこりに接するのを出来るだけ避けられるようにした。

The public and media are banned from entering the zone but as we approach a police checkpoint we are not stopped.

一般人、メディアは警戒区域に入ることを禁じられている。しかし私たちが警察のチェックポイントに近づいても、止められはしなかった。

Radiation checks
放射線チェック

We continually operate a Geiger counter - and though the radiation level rises slightly once we cross into the zone, it is even lower than we had expected.

私たちはガイガーカウンターでずっと測定していた。放射線レベルは警戒区域に入ると若干上昇はしたが、予期していたよりも低かった。

For the record, during the course of a three-hour visit - which we kept deliberately short to minimise the risks - the rate averages about three microsieverts per hour.

3時間の滞在-リスクを最小限に抑えるために意図的に短くした-で、線量は平均で毎時3マイクロシーベルトだった。

We estimate our total dose to be roughly half that of a typical chest X-ray.

被曝量は、普通の胸部エックス線撮影のおよそ半分ぐらいだろうと我々は推定した。

Our guide is a local farmer, Naoto Matsumura, eager for the world to see how his community has suffered.

私たちを案内するのは地元の農家の松村直登さん。松村さんは、自分たちの町がどんなに苦しんでいるか、世界中の人に知ってもらいたい、と言う。

Although he was part of the initial exodus after the accident, he could not bear life in a refugee centre and soon moved back to his farm, refusing orders to leave.

事故後、松本さんは他の住民と共に町から出たものの、避難所の生活に耐え切れず、自分の農場に戻り、離れろ、という指示を無視している。

He's the last citizen to remain but he believes that it's his duty to do whatever he can to keep Tomoika going as a community.

町の最後の住人だ。それでも彼は、富岡町をコミュニティとして保っていくためにできるだけのことをするのが自分の義務だ、と信じている。

"We want this place to be safe again," he tells me, as we drive through quiet streets and past overgrown paddy-fields.

「この町がまた安全な場所になってもらいたいんですよ、みんな」、と彼は言う。私たちの車は静まり返った通りを抜け、植物の多い茂った水田の脇を走る。

"We need gas, electricity and water. But the old people still want to come back, even my mother and father. Their wish is to die here.

「ガスも電気も水もない。でも年寄りたちはまた戻って来たいんです。私の両親も。両親の望みはここで死ぬことなんです。」

"Now it's just me taking care of the animals."

「それが今は私が家畜の世話をしているだけ。」

The fate of the livestock is one immediate challenge. Dozens of cattle broke free after the evacuation and now roam wild.

家畜はどうなったのか。何十頭もの家畜が住民の避難後に外へ出、今や自由に歩き回っている。

Pigs and farmed boar also escaped and are living a feral existence - I see one litter of very young animals who have only known life inside the nuclear zone.

豚、飼育されていたいのししなども今や野生化している。私はこの核の避難地域での生しか知らない、生まれたばかりの家畜を見ている。

But others remained trapped - their owners fled in too much of a hurry to release them - and they have since starved to death.

逃げ出せなかった家畜もいる。飼い主があわてて避難したため家畜を話してやることが出来なかったのだ。このような家畜は既に飢え死にしていた。

Mr Mastumura leads us to a large cattle farm. Beef from this area used to be highly prized for its taste and quality.

松村さんは私たちを大きな畜産農家に案内する。この地域産の牛肉は味と品質で高い評価を受けていた。

'Failing' residents

見捨てられた住民

Wrecked by the quake and over-run by massive spiders' webs, the sheds now make for a very grim scene.

地震で壊れ、クモの巣だらけになった牛舎で、恐ろしい光景に出くわす。

At one end of a row of pens, I see the decomposed bodies of a cow and her calf. In all, 60 cattle perished here.

並ぶ囲いの最後の方に、母牛と子牛の腐敗した体が見える。全部で60頭の牛がこの牛舎で死んだ。

Mr Matsumura believes the authorities have failed the people of the area - which is why he's taken the risk of bringing us in.

松本さんは、政府がこの地域の人々を見捨てた、と感じている。私たちを案内したのもそれが理由だ。

As we keep watch on the Geiger counter, the radiation level, as expected, is generally higher down on the ground, very occasionally peaking at around 30 microsieverts an hour.

ガイガーカウンターを見ると、予想したとおり地上に近いところでは概して放射線レベルが高い。まれに毎時30マイクロシーベルトあたりの値が出る。

On a very rapid visit like ours, these rates are by no means threatening. But I ask our guide if he worries about living in this environment.

私たちのようにごく短い間の滞在では、このレベルは危険なものでは決して無い。しかし、私は案内してくれた松村さんに聞いてみる。このような場所で暮らしていて不安は無いのか。

"I refuse to think about it," he says, joking that his chain-smoking may be more dangerous.

「考えないようにしてますよ」、と彼は言う。タバコの吸いすぎのほうがよっぽど危ない、と冗談を飛ばす。

There may be others willing to join him but the exclusion order is unlikely to be lifted - even in this area - for a while yet.

彼のように村に戻って生活したい人は他にもいるかもしれない。しかし、警戒区域が解除される見込みは、富岡町のような場所でも、当分の間は無いだろう。

BBCも、いくらなんでも日本政府が12月中に富岡町の避難解除を外そうとは思わなかったでしょう。

2 comments:

  1. 国内メディアでは、11月に写真週刊誌のフライデーが報道しています。(11/25号)

    AFPBB Newsも今日報道してますね。

    警戒区域に1人住み続ける男性、福島県富岡町 国際ニュース : AFPBB News
    http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/disaster/2845792/8198977

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  2. いつも貴重な情報を有難うございます。

    「裸のフクシマ」という本を買いました。
    川内村に現在住み続ける作家の著書です。
    これからじっくり読みたいと思います。
    ご存知かも知れませんが、以下参考として貼り付けます。
    http://gabasaku.asablo.jp/blog/cat/fukushima/

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