Thursday, June 30, 2011

フランスのNGO、CRIIRAD日本調査団の暫定報告書日本語訳(パート1)

パート2出ました。)

5月の末から6月にかけてIAEA(国際原子力機関)の調査団が日本に来ていたのとほぼ同時期に、フランスのNGO、CRIIRAD(Commission de Recherche et d'Information Indépendantes sur la Radioactivité、放射能に関する独立研究情報委員会)も日本に調査団を送っていました。

IAEAが政府、東電、原子力産業界と会合を持ち、福島原発などを見学に行ったのとは対照的に、CRIIRADは、放射能被害地域の地方自治体、ボランティア団体などと協力して福島、茨城、東京などで実際に放射能測定を行い、住民に放射能測定方法を教えるワークショップを実施、といった具合に、民間レベルでの情報収集と情報拡散に努めた模様で、その結果を6月29日に暫定報告という形で発表しました。

また、IAEAが日本政府の対応を褒めちぎったのとは正反対で、政府の対応は不適切、不十分だったと非難、100ミリシーベルトまでは健康の害はない、とする政府(長崎大山下教授など)の「キャンペーン」をでたらめだ、と断言しています。

元の英文の報告書はこちら

以下、CRIIRAD報告書からの抜粋 日本語訳パート1:

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2011年5月24日~6月3日
CRIIRAD(放射能に関する独立研究情報委員会)日本調査団 暫定報告書

(前略)
今回の調査で得られた暫定的結果の主なものについては、すでに福島市(5/29に講演、5/30に記者会見)と東京(5/31と6/1に記者会見、6/1に会議出席、6/2に放射線モニタリングに関する講演とワークショップ)でのさまざまな公開イベントで発表してきた。それらの調査結果とわれわれの見解を以下にまとめる。

CRIIRADの研究所に持ち帰った土や食品のサンプルの分析が終わったら、数週間のうちにより詳細な科学報告書を発表する予定である。

(1)放射能の健康被害についての適切な情報と防護策が不足

3月12日、福島第一原発の原子炉と使用済み燃料プールは事故で損傷し、以後そこから膨大な量の放射性物質が空中と海中に放出されている。公式発表されたデータによると、空気中への放出が最も甚大だったのは3月12日から3月30日までの期間である。

日本政府は半径20km圏内に住む住民の避難を指示し、半径20~30km圏内の住民を屋内退避とした。しかしこの対策は不十分だったことが明らかになっている。

1. 20km圏外の住民についても、風向きと気象条件に応じて避難させるべきであった。風や放射性粒子が政府の施策に従ってくれるわけではない。

2. 屋内退避が有効なのは、空気の汚染が短期間で収まって放射線量が小さい場合に限られる。福島第一原発の場合、放射性物質の空中放出は数日にわたって継続した(しかも線量ははるかに低くなったとはいえ現在も続いている)。このような状況下では、屋内と屋外の空気が入れ替わることにより、屋内退避は有効とは言えない。屋内の空気も屋外の空気に匹敵するほど汚染されてしまう。

3. 安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれれるのを減らすため、とくに幼い子供の甲状腺がんリスクを低減させる効果がある。甲状腺がんのリスクについては、チェルノブイリ原発の事故以来よく知られている。効果を十分に発揮させるためには、放射能汚染が始まる数時間前に安定ヨウ素剤を服用する必要がある。日本では、安定ヨウ素剤の配布が適切に実施されなかった。CRIIRAD調査団が日本滞在中に得た証言から判断すると、いくつかの自治体はヨウ素剤の配布に踏み切った。たとえば三春町の町長は3月15日に住民へのヨウ素剤配布を決め、実際に飲むように指示した。福島県の当局はこの取り組みを非難した。いわき市では、担当者が3月12日からヨウ素剤の配布準備を進めていた。市は3月18日に住民へのヨウ素剤配布を実施したが、住民に対しては「当局の明確な指示があるまでは服用はしないように」と命じた。結局、ヨウ素剤の服用が指示されることはなかった。それ以外の地域(飯舘村など)で多量の被曝をした住民に対しては、今に至るまで安定ヨウ素剤は配布されていない。

4. 空中に放出された放射性物質は、放射性降下物として地面に落ち、食物連鎖を急速に汚染する。とりわけ汚染されやすいのが葉物野菜と牛乳だ。日本政府は3月18日になってようやく特別な食品検査プログラムを開始した。初回の検査では数種類の食品サンプルから多量の放射能汚染が確認された。たとえば、3月18日に茨城県で採取されたほうれん草からは、ヨウ素131が1kg当たり54,000ベクレル検出されている。CRIIRADの試算によれば、2~7歳の幼児がこのほうれん草を200g食べれば年間被曝許容量の1ミリシーベルトを超える被曝をする。その後発表された新たな検査結果によれば、飯舘村(福島第一原発から40km北西)で採取した草からキロ当たり250万ベクレルものヨウ素131が検出された。この地域の野菜の汚染レベルは間違いなくきわめて高いものである。注目してほしいのは、2~7歳の幼児の場合、そうした食物をたった5グラム食べるだけで1ミリシーベルトを超える被曝をするということだ。政府は3月12日の時点で迅速に、ガンマ線量計で放射性降下物が検出された高リスク地域(福島第一原発の北100kmにある女川や、南230kmにある東京も含む)の食物を食べないように勧告すべきであった。日本政府はそれをしないばかりか、そうした汚染食物を食べてもCTスキャンを1回受けるのと同程度しか被曝しないと主張した。


(2)汚染地域の住民に対する防護策が不十分

米国エネルギー省と日本の文部科学省が発表した公式の土壌汚染地図を見ると、半径20kmの避難区域圏外でも汚染レベルの高い地域がある。CRIIRADはいくつかの地点で地上1mの線量を計測した。その数値を自然放射線量と比較すると、日立(福島第一原発から南100km)で2~3倍以上、郡山(西60km)で9倍、福島市(北西60km)内の学校や公園を含む複数地域で20倍、飯舘村長泥地区で130倍だった。測定後1年間のあいだに、それぞれの地域でわずか12時間、4時間、等々を屋外で過ごすだけで、住民の被曝量は年間被曝許容量の1mSvを超える。しかも、セシウム134とセシウム137が放出するガンマ線は高エネルギーなので、家や学校やビルの外の土壌が汚染されていると、建物内部の線量も増加する。たとえば、CRIIRADが福島市内の一軒の民家で線量を計測したところ、居間の床上1mでは通常の線量の6倍、子供部屋の畳の上では4倍高かった。この家の場合、福島市内の他地域の線量も勘案すると、適切な防護策が講じられなければ子供たちの被曝量は1年間で約7~9ミリシーベルトに達するとCRIIRADは推定した。この試算は外部被曝だけを計算したもので、汚染食物を摂取したり土壌から放射線粒子を吸い込んだりして生じる内部被曝は含めていない。日本政府は避難の目安としてICRP勧告の年間20ミリシーベルトを採用している。だが、年間20ミリシーベルトという被曝許容量は、下記の理由によりあまりにも高すぎる。

1. ICRPは安全な基準値などないと考えている。将来的にがんで死亡するリスクは被曝量に比例し、「これを下回れば発がんしない」という閾(しきい)値は存在しない。福島第一原発の事故後最初の数日間から数週間のあいだにすでに高レベルの被曝をした人たち(大人も子供も)に対しては、以後の期間は被曝レベルを1ミリシーベルト未満に抑える必要がある。

2. にもかかわらず日本政府は、一般に許容される発がんリスクを20倍も高めるような線量を追加で被曝しても構わないと考えている。住民にこのリスクを受けれさせるため、政府は100ミリシーベルトまでは実際の健康影響がないとするデマを広めるキャンペーンを開始した。これはでたらめである。比較的最近の疫学研究からも、室内でラドンを吸い込むことによる被曝量と肺がんで死亡するリスクとのあいだに直接的な関連が確認されている。このリスクは年間被曝量がわずか2ミリシーベルトでも生じるものであり、これを下回れば発症しないという閾値は存在しない。

3. 年間20ミリシーベルトという基準値は主に外部被曝を念頭に置いて定められたものである。このことは、日本政府がこの数値を読み替えて1時間あたりの許容被曝量を毎時3.8マイクロシーベルト(外部被曝)と定めたことからも明らかである。これはきわめて高いレベルであり、自然放射線量(通常は約0.1マイクロシーベルト時)の約38倍に当たる。日本政府はこの数値を計算するのに、8時間を屋外で、16時間を屋内で過ごすことを前提としており、屋内の線量は屋外の線量に減衰率の0.4を掛けた数値としている。これで計算すると1日あたりの被曝量は54.7マイクロシーベルトとなり、年間被曝量は19.98ミリシーベルトになる。しかしこれ以外に、汚染された土を吸い込んだり、汚染された土を食べたり(とくに子供)、汚染地域で生産された汚染食物を食べたりする内部被曝の線量も加えなくてはならない。文科省は自身のウェブサイトに、子供が校庭にいるあいだの内部被曝の影響は全体の2.5%未満だと記載している。この値は、4月14日に13の学校の校庭で測定した数値を平均したものだが、これが正当な数値であるかどうかは独立機関の科学者によって検証する必要がある。

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パート2に続く


三春町町長さん、えらい!

いわき市は結局配らなかったんですね。福島県は市町村に配った安定ヨウ素剤を返せ、と言っている、という噂も聞きましたが。

(H/T 東京茶とら猫

4 comments:

  1. 興味深い資料ありがとうございます。地方紙では、(熊本市か知りませんが)ときどきはっとする意見が目につきます。ネットはダメです。

    どうして、このレポートの半分でもIAEAが出せないのでしょうか。

    事務長が日本人だから?

    これからもよろしくお願いします。

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  2. IAEAの報告書和訳を読み返してみました。「避難の実施を含め、住民を守るための日本政府の長期的な対応は素晴らしいものであり、極めて良く組織されている。」とありましたね……。えらい違いです。

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  3. 初めまして、フランスねこと申します。

    CRIIRADによる報告書についての東京茶とら猫さんの翻訳を掲載して頂き、大変ありがとうございました。下記に引用させて頂きましたので、事後報告ながらお礼方々御連絡させて頂きます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

    http://franceneko.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/criirad20115246.html

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  4. CRIIRADの報告書拝見しました、当初から政府、東電の発表は信用してませんでしたが、これほどとは・・・

    まあ、後の無い政府ですから責任感も無いのでしょう

    誠に勝手ですが CRIIRADの報告書 にリンク貼らしていただきました、連絡いただければ削除しますので宜しくお願いします。

    rikimura@nifty.com

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