Saturday, July 2, 2011

北海道がんセンター西尾正道 『福島原発事故における被ばく対策の問題-現況を憂う』

これは是非、全部お読みください。極めて率直かつ具体的で、分かりやすい解説です。

著者の西尾正道さんは独立行政法人国立病院機構北海道がんセンターの院長(放射線治療科)を務める方です。この記事は、西尾さんが6月5日に書かれ、医療ガバナンス学会サイトに6月20日、21日付けで掲載されたものです。

『福島原発事故における被ばく対策の問題-現況を憂う』(その1/2)

『福島原発事故における被ばく対策の問題-現況を憂う』(その2/2)

記事の中で、西尾さんは、

  • 「放射線」に関する社会の無理解:政府、東電、原子力村(産業、学術)の事実隠蔽工作と、[文系の]メディアの無知

  • 作業員に対する被ばく対応の問題:死亡者が出なければ問題としない墓石行政、墓石対応

  • 地域住民に対する対応の問題:「がんばろう、日本 !」と百万回叫ぶより、真実を一度話すことが重要

  • 内部被ばくの問題:一過性に放射線を 浴びる外部被ばくと内部被ばくの影響を投与時の線量が同じでも人体 への影響も同等と考えるべきではない

とおっしゃっています。

この中で特に驚いたのは、「地域住民に対する反応の問題」のセクションに出てくる、この抜粋の赤字部分:

『SPEEDIの情報は23日に公開された が、時すでに遅しである。公開できないほどの高濃度の放射線物質が飛散したことによりパニックを恐れて公開しなかったとしか考えられない。郡山市の医院で は、未使用のX線フィルムが感光したという話も聞いている。また静岡県の茶葉まで基準値以上の汚染が報告されているとしたら、半減期8日のヨウ素からの放 射能が減ってから23日に公開したものと推測できる。菅首相の不信任政局のさなか、原口前総務大臣はモニタリングポストの数値が公表値より3桁多かったと発言しているが、事実とすれば国家的な犯罪である。』

SPEEDIを半減期8日のヨウ素由来の放射能が減ってから公開した、という「風評」は多分その通りなんでしょう。公開できないほどの高濃度放射性物質だったので、ということは、中部大学の武田さんも以前ブログでおっしゃっていました。より広範囲の汚染を示していたWSPEEDIの飛散予測に至っては、事故後2ヶ月以上経ってからこっそり文科省のサイトにアップする始末。それでも誰も何も言わない。

また、

『5月26日の新聞では土壌汚染の程度はチェルノブイリ 並みであると報じられたが、半減期8日のヨウ素が多かったチェルノブイリ事故と異なり、半減期30年でエネルギーも高いセシウム-137が多い福島原発事 故はより深刻と考えている。』

更に、

『低線量被ばくの健康被害のデータは乏しく、定説と言い切れる結論はないが、『わからないから安全だ』ではなく、『わからないから危険だ』として対応すべきなのである。また環境モニタリング値を住民がリアルタイムで知ることができるような掲示を行い、自分で被ばく量の軽減に努力できる情報提供が必要である。また測定点は フォールアウトし地面を汚染しているセシウムからの放射線を考慮して地面直上、地上から30~50cm(子供)用、1m(大人用)の高さで統一し、生殖器 レベルでの空間線量率を把握すべきである。』

最後の章の個人線量計で積算被曝量を把握する、云々は、個人が実際にリアルタイムで放射線の高い場所を避けて被爆量を軽減できる、というシステムがない限り私は個人的には研究者の研究ネタ集めと取られても仕方がない、と悪く考えておりますが、西尾さんはそのようなシステムの必要性をまず謳っていらっしゃるので、まあいいでしょう、と今のところは思っています。

また、最後の章では、国の原子力行政を強く批判するだけでなく、ご自身の研究・治療分野である放射線医学のあり方についても、自省されているようです。

『このままでは原発事故と同様に日本は自然の摂理から取り返しのつかない逆襲を受けるような予感を持つこの頃であ る。この大震災を期に色々な課題に対してラディカルに考え直す機会としたいものである。我々医療従事者も改めて、放射線利用の原則である、正当性・最適 化・線量限度に心掛け診療すべきである。』

(H/T doitsujin, enenews)

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