Saturday, July 2, 2011

フランスのNGO、CRIIRAD日本調査団の暫定報告書日本語訳(パート2)

昨日お出ししたパート1に引き続き、フランスのCRIIRADの福島原発由来の放射能汚染についての暫定報告書の後半、お届けします。

放射能で汚染された穀物、野菜などは、単品でたとえ暫定値を下回っていても、合計すると積算の放射線量は年間許容量の1ミリシーベルトをはるかに超える、また、今後の万が一のための空中放射線モニターはろくに作動しておらず、福島県は新たに安定ヨウ素剤を住民に配布する予定もない、とのこと。

CRIIRADが報告する福島第1原発事故後の日本は、政府の対応を見る限り事故前の日本とあまり変わっていないようですね。まるで事故がなかったかのようです。

(元の英文の報告書はこちら。)

以下、以下、CRIIRAD報告書からの抜粋 日本語訳パート2

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備考
CRIIRADのチームが福島県滞在中に複数の農家から聞いた話では、政府は水田の土壌の汚染レベルがキロ当たり5,000ベクレルまでであれば作付けを「許容」するという案を示しているそうだ。汚染された水田から米自体に移行する放射性セシウムは全体の10%にすぎないというのがその根拠である。かりにそうだとすれば、その汚染地域で栽培される米の放射能量は穀物の暫定規制値であるキロ当たり500ベクレル以下となる。しかしCRIIRADが強調したいのは、あらゆる食品がそのレベルまで汚染されていたら、汚染食品を毎日1kg食べると年間被曝量は3ミリシーベルトとなり、がん死を許容できるかできないかを分ける基準値の3倍に達するという事実である。CRIIRADの今回の訪日の目的は、放射線に対する市民の理解を高めることにより、避難や除染や十分な補償について政府や東電とより有利な交渉ができるようにすることである。[「測定器47台プロジェクト」[放射線量計計測データの集計および公表を行なっている全国の有志による団体]47プロジェクトとCRIIRADが、「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」などのNGOと協力して様々なワークショップや講演、記者会見を開催したのはそのためだ。

食品サンプルの放射線測定を独自に実施したいという「測定器47台プロジェクト」の願いを受け、CRIIRADは特別な測定器(LB200)を持参して、5月29日に福島市内で測定ワークショップを実施した。このワークショップでは、参加者が各自好きな食品を一品ずつ持ち寄り、約30品目の食品(玉ねぎ、長ねぎ、鶏肉、アスパラガス、じゃがいも、えんどう豆、大豆、豆腐など)についてセシウムの放射線量を実際に測定した。結果は検出限界である30~40ベクレル/kgから200~300ベクレル/kgの間であった。これらの食品のほとんどは温室栽培されたと見られるので、茶葉、たけのこ、しいたけといった最も危険度の高い品目[つまり、野外で栽培されている作物]にも、汚染を防護する対策を拡大すべきである。たとえば、CRIIRADの技術者が福島市の渡利地区で「すぎな」(食べられる植物)を採取して測定したところ、セシウムが3,600ベクレル/kg含まれていた。

(3)福島第一原発からの新たな放射線放出に備えたモニタリング・ネットワークと準備が不十分

福島第一原発では、3基の原子炉と複数の使用済み燃料プールが甚大な損傷を受けている。

東電は原子炉を「安全な状態」に戻す期限を延ばし続けている。原発からは通常レベルをはるかに上回る放射性核種が大気中に放出され続けている。このような状況であれば、継続的な放射能の大気放出の影響を評価するためのモニタリング・ネットワークは高性能で、放出量が増加した場合には警報を発してくれるものと普通は予想する。

5月30日の東電記者会見の場で、CRIIRADの研究所長であるシャレイロン氏は原発周辺の空気汚染モニタリングの手順について質問した。東電の説明によると、モニタリング・ポストは原発西門の一箇所にしかなく、毎日20分程度使用されるだけだという。つまり、残り98.6%の時間は原発周辺の空気汚染レベルが測定されていないことになる。CRIIRADのような小さいNGOですらフランスの5箇所にモニタリング・ポストを設置しているのに、なぜ東電が一箇所しか設置できないのだろうか。東電の回答は、資金の問題ではなく測定器のフィルターを交換することの出来る作業員が不足しているため、というものだった。

福島県県庁[?]で、CRIIRADは県の緊急時対策担当者と面会した。空中放射線量の増加を早期発見するためにどのような測定装置を設置しているのかとCRIIRADが尋ねたところ、福島市内の空中線量モニターは原発事故によって汚染されたためにもう使用されていないとの回答があった。原発の周辺には空中線量を測定する装置のネットワークがあるが、自動操作できるものではなく、実際に誰かが行って手作業でフィルターを交換しなければならないという。そのような仕組みであるため、残念ながら測定は毎日15~20分しか行なわれていない。

担当者にもうひとつ尋ねたのは、放射性ヨウ素が新たに大放出される場合に備えてせめて安定ヨウ素剤を住民や学校に配布したのかどうか、である。そうしておけば、汚染が通告されたら住民はすぐにヨウ素剤を飲むことができる。県の担当者は、その種の決定は国が下すものなので、そのような計画はない、と答えた。

さらに担当者は、原発からの放射性ヨウ素で被曝するよりも、安定ヨウ素剤の副作用のほうがはるかに深刻だと言ったが、その情報をどこから得たのかは語らなかった。CRIIRADはそれに対し、チェルノブイリの事故を受けてポーランド政府は国民に安定ヨウ素剤を配布したが、大きな副作用は確認されていない、と伝えた。

(4)CHIRIIRADから日本国民の皆さんへのお詫び

チェルノブイリ原発の事故から25年、原子力発電を行なう国家と電力会社は、原発事故の影響を低減させるために様々な手を尽くして迅速に対応できるようになっているのだろう、と普通は思う。しかし福島第1原発の事故で明らかなように、日本のような近代国家であってもそうはなっていない。事故が起きて汚染が広域に拡大すると、政府には自国の国民の安全を確保する能力もない。住民は次のよう
なきわめて難しい二者択一を迫られる。

1. 政府から「許容レベル」と宣言された汚染地域に留まる

2. 受けた被害や転居の費用や新しい仕事に対する十分な補償も得られないまま、汚染のない(または少ない)地域に逃れる

また、CRIIRADはフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)の姿勢について日本国民の皆さんにお詫びしたい。IRSNは3月17日に発表した試算の中で、福島原発[?]の近くに住む子供の被曝量は50ミリシーベルト未満に留まると述べた。50ミリシーベルトは、日本で一時避難を勧告する基準値である。幸い、日本政府は半径20km圏内の住民の避難を決めた。けっして十分とはいえないものの、少なくとも一部の住民の安全を守ることはできた。IRSNは国の機関であるが、フランスでも原発事故が起きた場合に住民の健康保護にかかわる判断をここに任せていいのかどうか、CRIIRADは強い懸念を抱いている。

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(H/T 東京茶とら猫

ちなみに、CRIIRADが非難しているISRNのレポートは、この3月22日発表の、「2011年3月12日より福島第一原子炉から放出された放射能雲大気中拡散シミュレーションのことと思われます。CRIIRADは非難していますが、この時点で甲状腺等価被曝量の試算を公表していたのは世界中でISRNぐらいでした。私はこのシミュレーションの一歳児の甲状腺等価被曝量の動画を見たのが、ISRNが発表した直後ぐらいだったと思います。その当時出ていたニュース(「大丈夫、安全」)とはかけ離れたシミュレーション画面だったので、驚いて何度も見直した記憶があります。関東をはるかに越えて被曝範囲が広がっています。(上記リンクの3ページ目。)

ISRNは海洋汚染のシミュレーションも、東電が「低レベル」汚染水を海洋投棄する前に、いち早く行っていました。(これはフランス語だけだったと思います。)日本人にはあまりなじみがない研究所のようなので、情報が拡散しなかったようなのは残念です。(すいません、と私も謝っておきます。たしかリンクはしたことはしたんですが。そういえば3月の末ごろは、放射能が高い、という情報を出すと「おまえはうそつきだ」とかいうコメントが残されていた時期でしたね。)

他にも日本語でレポートが出ていますので、遅まきながらですが、ご覧ください。日本政府が今更のように小出しにしているデータは、ISRNではもう3月の時点で出ています。

http://www.irsn.fr/EN/news/Pages/201103_seism-in-japan.aspx

また、英語版のレポートでは、日本の原子力安全保安院が6月6日になってやっと出した福島第1原発から放出した放射性核種の種類と量を、3月22日の時点で推測しています。プルトニウム、ストロンチウムはありませんが。

ということで、非難するとしたら、この情報が拡散しなかった、ということを非難した方が当たっているような気はします。

もっと非難すべきは、同様の情報を持っていてひたすら隠した、日本政府でしょう。

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